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『九十歳のラブレター』(読書メモ)

加藤秀俊『九十歳のラブレター』新潮文庫

著名な社会学者だった加藤秀俊先生の著書。

同級生の奥様を亡くされた直後に書かれたエッセイなのだが、純愛があふれている

1952年に起きた血のメーデーに参加した加藤先生。警察に追われているとき、ふと横を見ると、当時付き合いはじめたばかりの奥様がいた、という映画の一シーンのような場面から始まる本書。

全編にわたり、20代のときも、80代のときも、同じように奥様を愛おしんでいるところが初々しい。

「当然、この歳月のあいだにぼくたちは年齢をかさね、もう九十歳になろうとしている。握りあっている手や指も、おたがいずいぶん瘦せ細ってしまったが、ふたりのあいだを静かに流れている微弱電流のようなものはすこしもかわっていない、とぼくはおもった。そして、あなたもまたおなじ感覚をわかちあっていることが、指先から確実につたわってきていた」(p. 163)

城山三郎氏による『そうか、もう君はいないのか』(新潮社)を思い出した。

本書を読み、出会ったころと同じ新鮮さを感じ続けていた加藤先生の誠実さに感動した。

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