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『サービスの達人たち』(読書メモ)

野地秩嘉『サービスの達人たち』新潮文庫

さまざまな職業における伝説のプロフェッショナルを取材したのが本書。

カーディーラー、ウィスキーのブレンダー、天丼屋、銭湯の三助、ゲイバーのママ、電報配達、ホステス、興行師、靴磨きが登場するのだが、どのストーリーも迫力に満ちている

一番感動したのは、靴磨きの源ちゃんの話し。

源ちゃんの仕事場は、国会議事堂近くにあるホテル東急キャピトル。彼の人柄と腕にほれ込んだ人が、宅急便で靴を送ってくるほどだ。

音楽プロデューサーの金子洋明さんは、初めて源ちゃんに会ったときの驚きを次のように語っている。

「当時、私はまだ三十五歳で…。でも年のわりにはまあ成功していたというか、運転手付きの車で乗りつけて、きっと心が傲慢になってたんでしょうね。源さんの前にどっかと座って、新聞を読んでいたんですよ。そして、十分ほどして、もうおしまいだろうと思って、新聞をどかしたら、まだ片一方の靴を磨いてる最中なんですよ。私はいらいらしてね、パーティーの開始時間も近づいていたし、『君、時間かかるの』ってイヤミを言ったんですよ。でも、ひょいと靴を見たら、もう、それはショックでねえ。一方は自分の顔が映るくらいきれいで、もう一方とは全然違う。それもただピカピカしてるんじゃない。いぶし銀みたいな輝きなんですよ。『これは違うぞ』と。そしてこんなに一生懸命、手を抜かないで仕事をしている人がいるということもわかって、それからはもう、源さん一筋です…」(p.205-206)

では、源ちゃんはどのような気持ちで仕事をしているのか。

「靴を磨いているときにはお客さんの姿をイメージしながら仕上げるんだよ。だからその人の姿思い出せないようになったら、仕事したくないんだ、うん。それが人と人とのつき合いってもんでしょう」(p.208)

お客さんのために、全身全霊を込めて仕事をする。これができる人が真のプロフェッショナルなのだろう。


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