日本語学校からこんにちは ~水野外語学院~

千葉県市川市行徳にある日本語学校のブログです。日々の出来事、行事、感じたことなどを紹介しています。

「休み中の出来事」。

2011-08-22 08:56:19 | 日本語の授業
 今日は雨、昨日も一日中雨でした。昨日に引き続き、まるで秋のようです。今朝はカーディガン姿の人が目立ちました。こういう天気の変化も先週の金曜日からです。

 その先週の金曜日。あの日の天気は、予報通りでした。学校に着いて、ブログを書き始めた時には、まだまだきれいな青空で、これで雨になるのかしらと不思議に思ったものでしたが、それがいつの間にか、突然、あたりが暗くなり、見ると、空が一面の黒雲で覆われているではありませんか。

 全く、あれよあれよという間の出来事でした。それなのに、卒業生から、「今日、行ってもいいですか」という電話。
「雨ですよ」
「大丈夫です。でも一人じゃありません。誰と行くか、名前は言いませんよ。先生、判りますか」
「んんんんん」
でも、私にはすぐにぴーんと来ました。

 本人が言わずにいるということは、たぶん、彼女と同じクラスだった□△○…さんでしょう。
「わかった。あの『うるさい人』でしょう(「ええ~。うるさくない」という声が電話の遠くから聞こえてきます)」
「う~ん。先生も知っている人ですけど」
「はい、わかりました。あの『うるさい人』ですね。待っています。何時頃来ますか」

 来るのは、昼過ぎとのこと。そして、何やかやしていますと、不動産屋さんから電話が入ってきました。

 うちの学校では、寮としているいくつかの部屋をこの不動産屋さんを通して借りているのです。
「実は、□○△☆荘の△○☆号室のことで…。ちょっと…」
つまり夜うるさかったらしいのです。両隣その他の方からクレームがついたとのこと。


 と言うわけで、その部屋の学生に電話です。
ただ、この部屋の学生たちは七月に来たばかりで、まだ携帯電話が買えていないのです。それで搦め手から方法を講じていきます(近いので、どうしても連絡できなければ、歩いて行ってもいいやという気持ちもあります)。

 けれども、そこはそれ、まずは電話で試してみます。

 一人目は、出てくれたのですが、電車で移動中でした。それで、謝ってすぐに切ります。
二人目には、繋がりましたが、眠そうな声です。「寝ていたのか」と尋ねると、「いいえ。」
とはいえ、明らかに起こされたような声です。彼にも「ごめんなさい」と言って切ります。

 それから少し経って、この学生から電話がかかってきました。「先生、何ですか。」「さっきはごめんなさいね。大丈夫ですか」と聞きますと、さっきとは明らかに違う声で、「大丈夫」と言います。

 それで、一人の学生の名を言って彼に学校へ来るように言って欲しいと言います。すると、今、その学生の部屋にいるとのこと。こいつは運がいいと、ついでに一緒に来てくれるように頼みます(この電話に出てくれた彼は一月生で、呼びたい学生は七月生です。半年の差は大きいのです)。

 すぐにやって来ました。叱られるとは全く思っていない様子で、久しぶりに学校へ来て、お話が出来るので、ニコニコしています。こうなると、どうも文句を言いづらい。

 まあ、それでも注意しておかなければ、日本での生活に支障が出てきます。大きな声で話さない。これは日本のような集合住宅で暮らしていかなければならない場合、最初に守らなければならないことです。これを習慣づけておかないと、後々困ることになります。彼らは専門学校や大学を目指して来日しているのですから、この日本語学校で終わりというわけではなく、以後数年という年月も計算に入れて、指導して行かなくてはならないのです。

 で、聞くと、いつも12時前には寝ているとのこと。暑いので夜は食事が済んだら公園に行って、同じクラスの学生と日本語で話しているし、その前、夕方には公園で皆でサッカーをしているから、部屋にはいないと言います。…だから、うるさくはしていないと言いたいのでしょう。

 ところが、問いただしていくうちに、「あれれ…」という場面もこぼれ出てきました。
「上の階の人を、階下の人が、下から大きな声で呼んでいないか」
あれれ、二人は顔を見合わせて、「あっ、あれか」という表情。(ん、そうだったのね)。
「部屋の外で、大きな声で、携帯電話で話していない?」
んんん。また顔を見合わせて、困ったように笑っています。正直なもので、すぐに顔に出てきます。

 そうしているうちに先ほど、電車でバイト先へ移動中の学生から電話がかかってきました。「先生、何でしたか」それで、また謝って、もう大丈夫と言い、二人目の学生に訳を話してもらいます、この学生の方が日本語が上手ですので(この人達はみな同国人です)。それから、また先ほどの話の続きです。

 「日本では、夜、大きな声で電話をしてはいけません。みんな仕事で疲れています。家へ帰ったらすぐに寝たいです。騒ぐと寝られません。それに日本のアパートは狭いですし、壁は薄いです。隣の部屋の物音がよく聞こえます。だから気をつけます」
彼らは「判った」と言いますが、さてどこまでわかったものやら。

 これは日本語のレベルの問題だけで解決が出来るようなものではないのです。自分が同じ思いをして初めて納得がいくという種類のものなのでしょう。これが体感として理解できるには、もう少し時間が必要です。それに、こういうことは、一度二度と繰り返していき、本人に納得がいけるようになるまで、何度でも繰り返して話していかなければならないのです。

 ただ、こうしていけば、必ず、何人かいる同国人の中でわかるようになる者が現れてきます。そうすると今度はその学生が説明してくれるようになりますから、もう私たちはそれほど手間も時間もかけずにすむようになるのです。

 何事に寄らず、「初めて」は大変です。それが、(同国人がいず)一人だけであったら、個人の問題ですむでしょうし、学生の方でも、他の国から来た学生達の動きを見てから、行動していきますから、特別、突飛な行動をとったりはしません。

 ところが、ある同一の国から来た学生が集団になりますと、お国ぶりというか民族の習慣がだんだん出て来るようになります。それを一つ一つ潰していかなければならないという場合もあるのです。人の迷惑にならなければ、それはそれで面白いものなのですが。

 そうこうしているうちに、先ほど連絡のあった卒業生が二人やって来ました。彼らの様子が気になりましたが、ちょうど顰めっ面をして、お説教をしている最中です。突然、「あら、よく来たね」と例の如く、ニコニコ顔にするわけには行きません。ともかく、今、叱っている真っ最中なのですから。

 困りましたね。というわけで、話すだけ話して、こういう話は切り上げます。彼らは、まじめな、いい学生達ですから、もうすぐ、私たちの気持ちも解って、きっとこれからは、彼らが同国人たちをまとめていってくれるでしょう。

 それで、、卒業生を呼んできて、二人と話させます。やはり、こうして比べてみますと、日本語云々の問題ではなく、既に大学で一年以上を過ごしている者は話し方にしても、日本人的な話の切り出し方にしても、どこか余裕があります。

 卒業生とはいえ、一人ひとりと会っていると、どうしても彼らが来日したばかりの頃の顔に見えてしまって、彼らの成長が余りよくわからないのです。また彼らにしても、私たちと話すときには、この学校にいた時そのままの、甘えん坊さんの顔つきになってしまうので、(私たちにしては)相変わらずだなというような気になってしまうのです。しかしながら、こうして並んでいますと、違いがよくわかります。

 大学の試験のことを聞きますと、やはり試験中はアルバイトを一週間ほど休んだと言います。それなりに頑張っていることがわかって私たちもホッとします。

 そうこうしているうちに、卒業生はそろそろアルバイトの時間だからと帰っていきます。それにひきかえ、叱られるためにやって来たはずの学生は、ニコニコと写真などを見て、寛いでいる様子。思わず、「おい、おい、リラックスしすぎだぞ。」と言いたくなってしまいます。

 もういいかなという頃合いに、「はい、では二人とも帰って勉強をしてください」。そう言いますと、二人は驚いた顔をして私を見つめます。もしかしてこの二人はずっと遊んでもらえるつもりでいたのではないか知らん、ふとそんな気にもなってきます。まあ夏休みですから、そう考えてもいいのかもしれませんが。

 帰りには、玄関のところでもう一度念押しです。
「何のために呼ばれたか分かっていますね。寮では静かにします。他の人にも言ってください」
はい、はいと言いながら、帰っていったのですが、さて、どうでしょう。今度不動産屋さんから連絡があったときには、もう少し強面でやらねばなと考えています。私にしても、休み中に学生に会うと、ついつい顔の筋肉が緩んでしまうので、困るのです。

日々是好日
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