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日本人間ドック学会の“新基準値”の評価:コレステロール値は合格だが、血圧は操作されている

2014年05月06日 | 健康診断の罪悪

日本人間ドック学会の“新基準値”の評価:コレステロール値は合格だが、血圧は操作されている

 4月4日、日本人間ドック学会は、今後の「新たな検診の基本検査の基準」の元になる数値を発表しました。2年間かけた健康保険組合連合会との共同研究の結果です。そして、今後5年間かけて追跡調査をすることになっているとのことです。
 ところが、発表の3日後、4月7日に何やら怪しげなペーパーを追加発表しました。
 この2つの発表は日本人間ドック学会HPでご覧になれます。
 → http://www.ningen-dock.jp/other/release
  (2017.7.30 久し振りにアクセスしてみたのですが、4月4日の分も7日の分も消されていました。)
 4月7日の発表内容で、気になるのは次の文章です。(太字、下線は原文のまま)
 今すぐ学会判定基準を変更するものではなく、厚生労働省には特定検診の保健指導基準が性別、年齢によって数値が違うものがあるという事実をご報告した段階であることでご理解をいただきたいと考えております。

 こうなると、人間ドック学会の判定基準値が定められるのは5年先になりそうな雰囲気がしますし、データ解析して得られた素直な数値ではなくて、何やかや屁理屈をつけて歪められた数値が基準値になりそうな気配もします。
 そもそも、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会の2機関がこのような共同研究をなぜやったのか(あるいは、やらせてもらえたのか、やらされたのか)、その理由はどこにあるのか、ということを考えねばなりません。そして、次に、発表された数値は客観的に正しいと言えるかどうか、何か操作されてはいまいか、というチェックをかけねばなりません。
 加えて、3日後に、4日に発表済みの断り書きに、わざわざ確認を込めて補足するということをなぜしなければならなかったのか、これは実に不可解です。どこかの団体が、これでは困るからと、骨抜きにしようと圧力をかけたのか?

 それはそれとして、今回発表された数値の出し方をまず概説しましょう。
 元データは人間ドック受診者500万人のうち健康な人150万人。これほど多い標本からの解析は初めてのことです。その中から一次除外を行って34万人に絞り込みます。その方法は国際的に認められている米国の検査標準CLSIに準拠し、不健康と考えられる人を除外するのですが、今回の場合、重大な病気の既往歴がない、高血圧や糖尿病の薬を服用していない、喫煙習慣がない、飲酒は日本酒換算で1日1合未満、などなど、かなり厳しいものです。
 次に、人間ドック受診年齢に偏り(30代は少ない)がありますから、中高年の一次除外で絞り込まれた者をアトランダムで抽出し、標本数をそろえます。
 最後に、二次除外として、潜在異常値除外法<ある項目について異常な数値を示す者(100人中5人の割合)は、他の項目の基準値算定に使わない。>という方法でもって、「超健康人(スーパーノーマルな人)」<発表資料にこのような聞きなれない表現がしてあります。>に絞り込み、各検査項目とも1万~1万5千人程度の標本を元にして基準値をはじき出しました。
 標本からの基準値の算出方法は一般的な方法でして、標準偏差の手法を使うのですが、分かりやすく言えば、膨大なデータを全部並べて両極端の数値各々2.5%をカットし、残りの95%の人の上限値と下限値を示したものです。
 ここで、お断りをしておきますが、発表資料の中で「超健康人(スーパーノーマルな人)に絞り込み」と書かれていますが、たとえ基準値内に納まっていても、ひょっとして何か病気が潜んでいるかもしれませんし、逆に、両極端の各々2.5%にはみ出したからといって不健康だというものではありません。はみ出した人は、該当する項目に関する疾病に罹患する確率がどれだけか高い可能性があるというだけのことで、長年ずっとはみ出していても、いたって健康という人の方が多いのが現実です。そうしたケースは、その人の体質によるもので、基準値はみ出しであってはじめて「正常」なのです。
 検査の基準値というものは、まずはそうしたものであることをしっかりと頭に置いておいてください。
 よって、検査データの活用法は、自分が全体の中で基準値内にあるかどうかではなくて、自分の検査データがどのように経年変化してきているかを見ることです。
 その数値が年々明らかに上がってきたとか下がってきたとかした場合に、生活習慣などに変化がなければ、これは該当検査項目に関係する何らかの疾患があるのではないかと疑われます。
 従って、基準値との比較が意味をなすのは、性別年齢階層別の基準値が明らかに異なる項目に限られます。基準値が年齢とともに上がるのであれば、自分の検査データが上がっていって何ら問題ないと判断されるのですからね。

 前置きが長くなりましたが、日本人間ドック学会の今回の発表で注目を集めた2項目について、小生の見解を述べることにします。
 まず、コレステロール。
 従前の基準値はおかしいということが何年も前から言われ続けています。
 基準値の値は厳しすぎる、男女差がある、特に女性は閉経によって急上昇する、加えてコレステロール値は高いほど健康だ、といったもので、これは健康診断のデータ解析や疫学調査で証明もされていました。
 最新(と言っても2004年)のもので、十分な標本数から算出された信用のおけるものとして、東海大学大櫛名誉教授が発表された男女別5歳きざみの基準値があります。
 これは、2013.7.25「 健康診断の“検査”は“病人”を作り出すだけのもの… 」の記事で紹介しましたが、日本人間ドック学会のものと非常に良く似た値になっています。
(注:2014.1.8 大櫛名誉教授が発表された詳細なデータは当初東海大学HPへアクセスして閲覧できたのですが、残念ながらアクセスできなくなりました。非公開資料に?)
 東海大学大櫛名誉教授のその数値を、今回の日本人間ドック学会がまとめた年齢階層と整合させるために5歳きざみを単純平均して得られた値と比較してみましょう。

LDLコレステロール
  (上限値)
     男         女
              (30∼44歳)(45∼64歳)(65∼80歳)
東海大学(大櫛)   180  147   185   192
日本人間ドック学会  178  152   183   190

コレステロール
  (上限値)
     男         女
              (30∼44歳)(45∼64歳)(65∼80歳)
東海大学(大櫛)   263  240   278   279
日本人間ドック学会  254  238   273   280

 2機関ともに統計学的に有意な標本数から解析したものですから、当然の帰結となり、十分に納得のいくものです。
 しかし、日本人間ドック学会の女性の年齢きざみには、不満があります。十分すぎる標本数があるのですから、5歳きざみで示してほしかったです。そして、閉経前か後か、更年期障害が伴なっている時期か否かといった区分での基準値算定も可能であったことでしょうから、それも示してほしかったです。そうすれば、女性の場合、経年変化によるコレステロール値の高まりが適正か否か判断できようというものです。
 欲を言えば、男の場合も30歳代は低めで、40歳からは安定し、後期高齢者となると少し落ちるという結果(数値に15~20の差)が東海大学では出ていますから、年齢階層別の基準値を示してほしかったです。

 次に血圧。
 これは解せません。血圧(上:収縮期)は年齢とともに上がっていくことは、過去の健康診断のデータ解析や疫学調査ではっきりしています。
 それが、性差・年齢差は有意には認められないとして、性別無関係・全年齢平均で血圧(上)の上限値は「147」として発表しました。これはどうしたわけでしょう?
 発表資料の中で、各検査項目の性差・年齢差が有意か否かの判定は標準偏差率(SDR)が原則として0.
4以上としており、血圧(上)の年齢差のSDR値は、男0.00、女0.20とあります。また、血圧(上)の性差のSDR値は、0.36と出ています。ちなみに、LDLの年齢差は、男0.00、女0.53になっていて、LDLの女の年齢差が0.53と大きいですから、先にあげたように男女別にし、女性は階層別3区分で基準値が示されています。
 このことからすると、血圧(上)の性差は0.36とけっこうあるものの0.4に届かないから、あえて男女別の基準値を示さなかった、ということになりますし、年齢差にあっては、男は「0.00で、まるっきり差がない」、女は「0.20で、大した差はない」との解析データが出ているという話です。
 こんなことって有り得ますか!

 東海大学大櫛名誉教授の算定値:血圧(上)の上限値
 年齢 40~ 45~ 50~ 55~ 60~ 65~ 70~ 75~
 男 148  150  155  161  164  165  168  167
 女 138  142  151  159  159  164  165  166

 どうでしょう。コレステロールでは非常に良く似た値になっているのに対して、この血圧(上)の上限値の違いは何でしょう。
 どちらも標本数は十分にあって統計学的に有意な値がはじき出されるのですから、非常に良く似た値にならねばならないのです。
 参考までに、東海大学大櫛名誉教授の5歳きざみの算定値を単純平均(これは日本人間ドック学会の今回の手法)すると、次のようになります。

  血圧(上)の上限値 男:157 女:151
  [日本人間ドック学会:男女ともに147]

 こうなると、東海大学大櫛名誉教授の調査報告書と日本人間ドック学会の今回の発表のいずれかが、“おかしい”ということになります。
 従前の他の調査研究と東海大学大櫛名誉教授のものとは整合性が高いのに、日本人間ドック学会の発表だけは異質です。
 よって、日本人間ドック学会、“これはおかしい”となります。
 小生思うに、日本人間ドック学会は、きっと“始めに結論ありき”であったことでしょう。それと整合させるために、中高年の一次除外に何らかの作為があったのか、二次除外の潜在異常値除外法に作為があったのか、その両方をしたのか、そのように疑われます。
 また、先ほど取り上げました血圧(上)の性差のSDR値が0.36とけっこう大きいにも関わらず、これを無視したのは、男女別で基準値を別々にはじき出すと、明らかな違いが出てしまい、男の場合は現在の基準値との差が大きくなり過ぎてしまい、困ったことになるのは必至だからです。

 小生の推測になりますが、現在の基準値の設定、特にコレステロールと血圧(上)は余りにも厳しすぎる上に、基準値をオーバーすると、日本の場合は欧米とは全く違って、即、投薬傾向にあって医療費が嵩みすぎ、政府としては、医師会の抵抗はあろうが、これにブレーキをかけるために基準値を少々上げざるを得ない、ということになったのでしょう。
 また、人間ドックの検査結果のカウンセリングにおいては、受診者が真の情報をだんだん知るようになってきて、今の基準値でカウンセリングを行おうと思っても受診者を納得させられなくなり、受診離れが進む恐れがでてきて経営難になる、これでは困る、ということもあったのではないでしょうか。
 そこで、きっと、各界で次のような事前合意がなされたことでしょう。
 コレステロール降下剤は副作用が大きく、全世界の6、7割を日本だけで消費している現状からして、将来的にはこれは改めざるを得ず、コレステロール値は正直ベースで基準値を示し、今後しばらくしてから、それに沿って改定せざるを得ない。しかし、降圧剤は開業医の死活問題になるから、そういうわけにはいかない。現在の血圧(上)の上限値は50歳未満「129」、50歳以上「139」としているから、稼ぎの中心となる50歳以上の「139」は改定するにしても「プラス10」を上回ってはならぬ。「149」より小さい数字で発表せよ。それが難しければ、現在の2階層年齢区分を止めて良い。全年齢平均にすれば数値は自ずと小さくなるではないか。
 いかがなものでしょうか。
 小生の推測どおりにはたして事が運ぶかどうか。しかし、それも危ういのは、4月7日に追加発表された怪しい文書が暗示していますし、過去において、コレステロール値の基準値緩和がたしか循環器学会から出されたのですが、それが潰されたりしていますから、容易には基準値改定には進まないような気がします。
 そして、日本人間ドック学会の今回の発表は、「超健康人(スーパーノーマルな人)」に絞り込んで基準値を算出したのだから、一般人向けの基準値とは別のものであり、基準値は、“一般人と超健康人の2本立てで行く”ということになりそうな気もします。
 なお、日本人間ドック学会は、今回の研究について5月を目途に最終報告書を発表すると言っていますから、どんなものが出てくるのか、それを一先ず注目したいです。 

(2014.5.13追記)
 週刊現代5月24日号に、日本人間ドック学会理事長:奈良昌治医師(脳卒中の専門医:83歳)のインタビュー記事が載っていました。
 その抜粋は以下のとおりです。なお、血圧を中心にした内容となっています。

…今すぐ基準値を変えるべきだと言うつもりはありません。これから5~10年かけて、追跡調査を積み重ねて…最終的な結論…。
…各専門学会が個別に設けている従来の基準値をこれまで通り守っていくべきだということは明言しておきます。
…診断基準がどんどん厳しくなっているのは事実です。多少大げさに脅かしたほうが効果がありますし、…肥満の人が増えている現状にあり…、現在の学会の基準が必ずしも厳しすぎるとは思っていません。
…現時点では時期尚早ですが、ゆくゆくはそれぞれの学会と数値をすり合わせる必要もでてくるでしょう。                             (抜粋ここまで)

 何ともお粗末な発言でありました。小生が予想した以上に悪い。
 これは、かなりかなり外圧がかかったからのことでしょうね、きっと。
 ちなみに、奈良昌治医師は、長年の経験に基づいて、脳卒中に関する個人的な意見をインタビューの中で語られています。それも以下に抜粋します。

…吉田茂元総理は…マッカーサー元帥と交渉していた頃、血圧が300を超えることがあったそうです。…総理を退いたとたんに一気に150まで下がったそうです。
 私も…院長だった頃はいつも血圧が180前後で、心配事があると200を超えることもありました。でも、院長を辞めてからかなりよくなりました。…
 確かに以前は、高血圧は怖かったですよ。…60年前は日本人には脳出血が非常に多かった。ところが、今では栄養状態がよくなって血管が丈夫になり、血圧が上がってもそう簡単には血管は破れなくなった。むしろ血圧が下がったときのほうが危ないこともあるのです。                                 (抜粋ここまで)

 公的な発言と私的な意見、食い違いが大きすぎますよね。これじゃあ、だめだ。
(再追記:追記投稿の前日の2014.5.12に
、日本人間ドック学会は「週刊現代の記事は歪められた内容だから抗議する」旨のペーパーを発表していました。奈良昌治医師の個人的な意見に関する記述についてです。なんとも見苦しい発表ですよね。冒頭のHPのURLをクリックすれば、ご覧になれます。)
 →(2017.7.30 久し振りにアクセスしてみたのですが、この抗議文も消されていました。)

(2017.7.30追記)
 2014.4.4日本人間ドック学会が今後の「新たな検診の基本検査の基準」の元になる数値を発表して大きな波紋を呼び、その後の動きに注目していたものの、何のアクションもありませんでした。あれから3年も経ち、忘れ去られかけた2017.4.26に2つの資料(と言っても2014.4.4発表の基礎データ表であって、今頃なぜ?)がプレスリリースされ、2015年度からは何やら新たな動き出しが見えるやに思われますが、それから既に2年以上も停滞していますので期待薄の感がします。


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11 コメント

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知識不足 ()
2014-05-31 22:50:29
薬屋なら統計学の勉強をしてから意見しましょう。
エビデンスレベルの評価もせず一番レベルの高い情報と、一番レベルの低い情報とをごちゃ混ぜにして話しているのでは参考にもなりません。
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Re:知識不足 (薬屋のおやじ)
2014-06-01 15:06:46
一番レベルの低い情報とは、東海大学大櫛名誉教授の算定値を言ってみえるかと存じますが、全国45機関、合計70万人の健康診断データを元にした結果ですから、統計学的に有意なものと考えられます。
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Unknown (はるな)
2014-09-25 13:54:44
この基準値は、血液検査表にいつ反映されるのでしょうか。基準値を下回っているのに、検査表にHの印のみで、平然と薬を処方する医師がいるのです。
頭にきますよ
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はるな様へ (どろんこ)
2014-09-25 15:23:12
栄養学会でもコレステロールの基準値はおかしいと言っています。
過去にこうした基準値改正の動きは幾度もあったのですが、無視されてしまいます。
つまるところ、医者が食っていくために無理やり生活習慣病患者を作りだすための経済的基準値なのです。
この世の中、ウソと詐欺師に満ちあふれていることを肝に銘じておくしかないですね。
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Unknown (はるな)
2014-09-26 09:45:05
領収書をみますと保険点数に「生活習慣病」の管理みたいな項目があり結構な料金が発生していました。
ただ薬だしているだけなのに。
あと6時過ぎの診療は夜間診療代。5時に病院に入って6時過ぎに診察したら夜間診療。
混んでて6時過ぎになったのは本人のせいではないのに。診察けんを受理したときの時間で計算すべき。
まったく患者をお金でしかみていない
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患者は銭もうけのための単なる生き物 (薬屋のおやじ)
2014-09-26 10:41:00
患者を銭もうけに利用するのは世界共通でしょうが、日本の医療制度は一番たちが悪いです。
米国や欧州では、「生活習慣病管理」に日本の1桁上の保険点数がつきますから、生活習慣指導に時間が費やされ、投薬は基本的になし。
日本は、指導もせずに「生活習慣病管理」の保険点数をもらい、これだけでは医者は食っていけないから、基準値オーバー即投薬で稼ぐのです。
体が日常生活に支障がないのでしたら、決して医者に行ってはいかんのです。
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Unknown (はるな)
2014-09-26 15:54:22
結局のところLDLの数値が高いと実際どんな弊害があるのでしょうか。
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LDL数値 (薬屋のおやじ)
2014-09-26 16:29:18
超肥満体とか特別な病気の方以外は、LDL数値が高くても何ら問題はありません。
数値検査の無用性も多くの研究者によって叫ばれています。
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降圧剤 (kiru)
2015-08-12 09:31:59
現在68歳男性 15年くらい前から血圧が140になり徐々に上がり現在上が160になりました。健康診断でクレアチニンが1.3 尿蛋白が±となりCKD中高度といわれ、血圧の薬を飲むように言われました。薬を飲まなくて大丈夫ですか?
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降圧剤 (ken)
2015-08-12 09:38:17
現在68歳男性 15年くらい前から血圧が140になり、徐々に上がり現在上が160になりました。最近の健康診断でCKD中高度といわれ、血圧の薬を飲むように言われました。薬を飲まなくて大丈夫ですか?
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