マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

過疎問題(補助金より助っ人で)

2010年01月04日 | カ行
 紀伊半島南東部の山間地、和歌山県那智勝浦町の色川地域。農林業を中心に9つの集落がひっそりと点在する。

 約430人の住民のうち4割近くは都会からこの地に移抄住んだ「Ⅰターン組」である。集落の区長たちでつくる色川地域振興推進委貞会の会長を務める原和男さんも、光年前、26歳の時に兵庫県から移り住んだ。

 その委員会が町外の若者を集め、一昨年から「百姓養成塾」を、さらに昨年からは「むらの教科書づくり」を始めた。地元の人から野良仕事や伝統食づくりを学び、伝統行事や昔の暮らしを聞き取って冊子にまとめている。

 Ⅰターンの始まりは30年以上前、有機農業をめざす5家族を受け入れたことだった。当初は同じ道を志す人が多かったが、しだいに田舎暮らしを求める年金暮らしや子育て世代が増えた。そうして何とか集落を守ってきたところに、少子高齢化の波が押し寄せた。

 住民の平均年齢は、もとからの住民が69歳、Ⅰターン組も40歳。このまま若い担い手がいなくなれば集落は消えてしまう。新たな危機感から、若者の呼び込みに動いた。「外から支援するのではなく、住民と同じ目線で暮らす若者がほしい」と原さんは語る。

 そんな原さんが「理想的」とみている制度がある。同じ紀伊半島の北端にある和歌山県高野町が導入した「むらづくり支援員」だ。

 報酬は月15万円、月100時間のフレックスタイム制で契約は3年。2009年05月、こんな条件で支援員3人を公募すると、全国から予想を超える162人の応募があった。採用された20~40代の男女5人は、東京や鹿児島などから担当する集落に移り住んだ。高齢者を支える仕組みや新しい特産品づくりなど集落ごとの課題をさぐっている。

 発案した高橋寛治・副町長は「そうした課題の解決策を見いだし、3年後は自分も定住できるようになってもらいたい」と語る。

 政府が調査したところ、全国の市町村の下にある約6万2000の集落のうち、消滅する可能性のある集落は約2600もあるという。一方で、機会があれば、あくせくした都会から離れたいと考えている人は少なくない。自然の中で子育てをしたい。給料が減っても心豊かな生活がほしい。定年後は田舎でゆったり……。

 そんな都会の人たちを引きつけるには、そこで暮らす人や地元の自治体がまず知恵をしぼることであり、地域を守るには補助金よりも助っ人ということではないか。外からの知恵や刺激を受けることで、地域を内部から動かすエネルギーを生み出す。地域づくりのプランナーの役割を託してもいい。

 紹介したような試みは各地にある。「地域主権」を掲げる鳩山政権はこんなところにも目を向けるべきだろう。

 (朝日、2009年11月23日)