すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【インタビュー特出し】ドラマー・村上“ポンタ”秀一さんとの思い出

2024-03-02 06:00:07 | 音楽
*「PONTA BOX 〜Live At Montreux Jazz Festival」収録曲の「ネフェルティティ」(CDは1995年10月21日リリース)

偉大なプレイヤーに敬意を表して

 冒頭に挙げた動画は、村上“ポンタ”秀一さんが結成した自身初のリーダーバンド「PONTA BOX」ライヴのひとコマだ。

 彼らのセカンド・アルバム「PONTA BOX~Dessert in the Desert~」発売直後の1995年7月21日に、スイスの第29回モントルー・ジャズ・フェスティバル(Montreux Jazz Festival)に出演した際の音源である。

 もう圧巻だ。

 メンバーは村上秀一(drums)、佐山雅弘(piano)、水野正敏(electric-bass)。だが詰めかけたヨーロッパの観衆はもちろんこのバンドを全く知らない。

 そんな「PONTA BOX」初体験の観衆が演奏の進行とともにすっかり魅了され、次第に地鳴りのような大声援に変わり激しく渦を巻いて行くサマが克明に記録されている。これだけ客の反応が手に取るようにわかる音源も珍しい。もう大ウケ。大喝采なのだ。

 特に10曲め「コンクリート/Concrete」(佐山雅弘・作)後の声援がすごい。また12曲め「ストーム・オブ・アプローズ/Storm of Applause」終演後には、やんやの大コールがかかる。

 明らかに観衆は初めて観たこのバンドに熱狂している。大成功の遠征だったといえる。その証拠に本公演のCDとビデオが日本でリリースされると同時に、彼らの1st.アルバムが即座にヨーロッパで発売されている。

ずっしり重く沈み込み「地を這う」がピッチは速い

 本公演でのポンタさんのドラミングは、まず太くて重い。タメを効かせたノリでずっしり沈み込み、地を這うかのようだ。

 だがそんなふうにグルーヴは重いけれどすごく速いピッチで多くのタムを回し、音の起伏を作りながらオーディオ用語でいえば「音場が広い」演奏をしている。

 つまり低い打音から高い打音まで叩き出す音域が広いため、必然的に聴き手からすれば音場がワイドで立体的に聴こえる。要所でリズムの変化を加えながら起伏を作り、非常にテクニカルな演奏をしている。ドラムソロともなれば、もうお客さんから大喝采だ。

 一方、ベースギターはまるでジャコ・パストリアスを思わせるタイム感と音色で高い技術を見せつける。ドラムと共にリズムの大きなうねりを生み出し、音数の多い複雑なプレイをこなしている。もうブンブンだ。

 かたやピアノはまるでハービー・ハンコックを思わせる。他のメンバーに劣らずテクニシャンで、これまた音数の多いプレイぶりで相棒2人にグイグイ刺し込んで行く。

 またスローな楽曲の聴かせ方もいい。特に8曲めの「ドーン/Dawn」(村上秀一・作)では、ゆったりたおやかなピアノ演奏を聴かせている。

2021年に亡くなったポンタさんを偲んで 

 あれはいつだったか、もうすでに「PONTA BOX」は結成されていたので、恐らく少なくともご本人にお会いしたのは1993年以降の話だ。

 当時、マガジンハウスの雑誌「ブルータス」で「バンドやろうぜ」的な企画が上がり、あのころの副編集長さんから複数のミュージシャンへのインタビューのご依頼を頂いた。

「人選は松岡さんにお任せします」というので、その場で即座にリズム隊はポンタさん(ds)と高橋ゲタ夫さん(b)に決めた。で、まずポンタさんと某スタジオでお会いし、お話を聞いたのだ。

 残念ながらポンタさんはもう亡くなられた。そのポンタさんのご冥福を祈って、そのときせっかくお話は聞いたが、当時のインタビュー記事には「あえて書かなかった裏話」を今回は書こう。もう時効だろう。

大上留利子さんの2nd盤で「初ポンタ体験」をする

 ちなみに私は当時も今もアレサ・フランクリンが大好きで、ゆえにその昔から「浪花のアレサ・フランクリン」と言われた元スターキング・デリシャスのリード・ボーカル、大上留利子さんにハマっていた。

 その証拠に彼女の当時のアルバムは和モノ・レアグルーヴの名作として、リリースから40年以上たった今でも評価されている。

 そんな大上さんの1st盤、2nd盤がリリースされた当時は、ポンタさんみたいなプレイヤーを称して「スタジオミュージシャン」なる呼び方が初めて生まれ、ちょうど世間から脚光を浴び始めていた頃だ。

 そのころは世の中に出る盤、出る盤が超豪華なメンバーを揃え、「こんなにスゴ腕のミュージシャンを集めたぞ」みたいな売り方が盛んにされていた。

 実際、私がポンタさんに質問した彼女の2ndアルバム(1978年発売)では、ポンタさん(dr)や佐藤博(key)、林立夫(dr)、松原正樹(g)、山岸潤史(g)、斎藤ノブ(per)など、一流のスタジオ・ミュージシャンがアルバム制作に関わっていた。

 で、彼女のアルバムで演奏した時のことをまず聞いた。

私『私がポンタさんのドラムを初めて聴いたのは、1978年にリリースされた大上留利子さんの2ndアルバム「Dreamer From West」でした。3曲目に「プレイボーイ」っていうかっこいい曲が入ってて。

 その曲のユニットはベースが高水健司さんで、リズム隊がもう超絶的にかっこよかった。で、「これ、いったい誰がドラム叩いてんのかなぁ?」と思ってクレジットを見たら「村上秀一」って書いてあって。それがポンタさんとのファーストコンタクトでした」

 まあ自己紹介代わりだ。ポンタさんは笑いながら聞いていた。

アルバム「黒船」での変則的なオカズの入れ方って?

私『あと今までに「すごい」と思ったドラマーを挙げると……高橋幸宏さん。サディスティック・ミカ・バンドの「黒船」(1974年)が出て、あれ初めて聴いた時はホントに衝撃的でした。特に高橋さんのドラムが。

 だって「ダラ、タカ、タン、タタッ!(休符)」って、途中でヘンなところでオカズが止まっちゃう。あれ聴いて「何これ? めちゃカッコいいじゃん」って感心しました』

 すると黙って私の話を聞いていたポンタさんがひとこと。

ポンタさん「実はあれ、俺が叩いてたんだよ」という。

私『ええっ、ホントですか? トラで?』

 衝撃的な発言だった。なんだかもう、いままで20年以上信じてきた絶対的な宗教がボロボロと崩壊して行くかのような。そんな感じだった。(もちろんこのことは当時のインタビュー記事には書かなかった)

 ちなみにその後、同じくマガジンハウスのまったく別の取材で高橋幸宏さんにもお会いする機会があったが、当然このお話はご本人にもお聞きしていない。

「いかすバンド天国」と当時のバンドブームについて

 それからポンタさんには、自身が出演し大ブームを巻き起こしたテレビ番組「いかすバンド天国」(TBS)の裏側についても聞いた。1989年2月11日に放映が始まり、たくさんのバンドを輩出しながら1990年12月29日に終わった超人気番組だ。

 ただポンタさんはあんまり浮かない顔で、テレビじゃ決して言えないネガティヴ面にも言及した。

ポンタさん『まあ、世の中にああいう空気(つまり仲のいい「お仲間同志」だけでくっつく内輪のノリ)ができたのは……ある意味、かえって良くなかったかなぁ、とは思ったな』

 そもそもポンタさんは「スティック片手に1人でどこのスタジオにも乗り込んで行く」みたいな、一匹狼のスタジオミュージシャンだった。

 だからイカ天が作ったあの「ナァナァの乗り」にだけは、どこか抵抗があったようだ。アマチュアバンドの人たちにそんな内輪ノリを植え付けちゃったことには反省している、みたいなことをおっしゃっていた。

 もちろんこれも当時の記事には書かなかった話だ。

インタビューしても全部書くワケじゃない

 こんなふうに世の中へリリースされて行く出版物の陰には、いったん明かされはしたが、あえて伏せられている実話がたくさん隠されている。もちろん墓場へ持って行くネタもある。

 みなさんもそのへんを想像しながら出版物を読むと、10倍楽しめるかもしれない。

 なお、ポンタさんは親分肌で大きな人でした。

 ちなみに本アルバム全曲を聴きたい人はYouTubeの「PONTA BOX - トピック」ページへ行き、下段の「アルバムとシングル 」の中から「PONTA BOX Live At Montreux Jazz Festival」を選択して下さい。収録された全13曲が続けてすべて聴けます。一聴の価値アリです。気に入った人はぜひCDを買って下さい。

 またストリーミング・サービスの「Amazon Music Unlimited(HD)」に加入している人は「ここから」全曲聴けます。

ジョン・ウェットン氏(bass)へのインタビューもそうだった

 なおこのインタビューと同じように「お話は聞いたが書かなかったことの方が多い」という意味で似たようなインタビューの例は、以下の、私がジョン・ウェットン氏(キングクリムゾンの初代ベーシスト)にインタビューした際のこぼれ話がある。

 ジョン・ウェットン氏ご本人から話は聞いたが「その雑誌」のインタビュー記事には当時書けなかったエピソードを、以下の本ブログのジョンへのインタビュー・番外編の記事にもれなく書いた。

 ちなみにこの記事は20年前に当ブログを立ち上げ、いちばん最初に書いた思い出深いおすすめの記事だ。ご興味があればぜひ以下をどうぞ。

ありし日のジョン・ウェットンに捧げるオマージュ」(すちゃかな日常 松岡美樹)

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