松実ブログ

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北半球では反時計まわり,南半球では時計まわり、そして赤道上では渦を巻かない?

2017年08月25日 09時00分00秒 | Weblog

浴槽や台所のシンク内の水を排出するときに渦巻き流が見られます。この渦の回転方向は、地球の自転によるコリオリの力によって北半球では反時計まわり、南半球では時計まわりであるという「俗説」が有力です。しかし、このような極小さな渦に及ぼすコリオリの力の影響は非常に小さく、渦の回転方向はコリオリの力では決まらないとする科学的意見もあります。

結論から先に言うと、「本当の現象も原因も分からない」です。

でも、YouTubeにはその俗説を証明するような映像がたくさんアップされています。そのうちの一つを紹介すると、サバンナのある町では、中央に栓がある洗面器がA、B、Cの3ヵ所に設置されています。Aは赤道から20m真北へ行った地点、Bはちょうど赤道上、Cは赤道から20m真南へ行った地点です。洗面器の下には容器がセットしてあって、栓を抜くと洗面器の水が落ちる仕掛けになっています。現地のガイドが洗面器に水を注ぎ、栓を抜きます。すると、排水が進むにつれて排水口付近に渦が発生するようになります。この渦が、北半球にあるAでは反時計回りに、南半球にあるCでは時計回りに、そして赤道上のBでは渦ができずにまっすぐ下へ落ちていきます。これぞ、コリオリの力の証明だとガイドは自慢げです。

コリオリの力とは簡単に言ってしまえば「慣性力」です。例えば、一定速度で走行している電車が急ブレーキをかけると 、乗客は一斉に前方に放り出されます。つまり、電車が止まっても、その中の乗客は止まる前のスピードを保っていますから、前に投げ出されてしまうのです。

地球は赤道面では4万kmの外周がありますから、時速に換算すると1700kmというとてつもない速さで回っていることになります。そして、その上にいる私たちの全ても、この猛烈なスピードで地球と一緒に回転しています。つまり、1時間後には1700km東に移動しているわけです。ですから、電車で真っ直ぐ北に進んだとしても、宇宙の離れた位置からその動きを見ると、その電車は北東に進んでいるように見えます。また、電車が時速70kmで進んでいたとすると、乗客は電車の中では静止していると感じますが、電車の外から見れば、1時間後には70km先に移動しています。慣性力とは、相対的には動いているとも静止しているとも感じられる力です。

私たちが地球上にいる限りはこの驚異的なスピードは一切感じませんが、それが見える現象があります。それは台風・ハリケーン・サイクロンです。台風・ハリケーンは北半球で発生しますので、地球の回転による慣性力(コリオリの力)で反時計回り、サイクロンは南半球で発生するので時計回りの回転になります。詳しくは「科学と人間生活」の授業で習います。

さて、問題の排水口に発生する水流ですが、このコリオリの力があるのだから、先のYouTubeの「実験」のような結果になるのは当たり前ではないかと思いますよね。詳しい計算は省きますが、このコリオリの力は相対的にはとても小さい慣性力です。ですから、台風のような大きな気流ではコリオリの力も大きくなりますが、排水口に流れ込むような水流では無視できるほど小さくなるです。では、何故YouTubeに投稿されているような見事な結果が現れるのでしょうか。

これは、私たちの既成概念に付け込んだ巧妙なトリックなのです。ペットボトルを洗浄するときを思い出してください。中の水を出そうとするとき、早く水を出したくてペットボトルを揺らして、中の水を回転させようとしたことはありませんか?障害物がなく、外部からの振動がない、完全な円形の排出口からは、地球上の何処にいようとも水は渦にならずにまっすぐ下に流れていきます。

種明かしをするために投稿されたYouTubeの「実験」では、見過ごしてしまうほど小さな指の動きで、ガイドが水の流れにほんの少しの「勢い」を付けていました。まさしく手品です。やり方は色々でしょうが、巧妙な手品師が私たちの思い込みを上手に利用して、騙しているのです。

では、コリオリの力は小さな水流には全く働かないのかというと、そうでもなさそうです。完全に静止し、厳密に環境を規定して、測定条件も精密にした実験では、水流が渦を造って流れることを確認した報告があります。しかし、これは、通常見られる排水口とは構造も大きさも違い、日常体験するシンクの排水口の水流とは異なっています。なので、この実験から、日常生活の小さな水流が台風と同じようにコリオリの力を受けているとは結論付けることはできず、洗面台に小さな水の渦ができること、北半球と南半球ではその渦の向きが反対なのかどうなのかも分からないのです。

ノーベル賞は無理でしょうが、イグノーベル賞ぐらいは取れると思いますので、この謎に挑戦してみてはいかがでしょうか。


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