(日経8/6:1面)
民事再生手続き中のスカイマークの債権者集会(総合2面きょうのことば)が5日、東京地裁で開かれ、ANAホールディングス支援の再生計画案が6割超の賛成を集めて可決された。同案に対抗していた米デルタ航空による支援案は否決された。今後、ANAは共同運航などを通じてスカイマークの再建に協力する。1月の経営破綻から半年。日米の航空大手による争奪戦となっていたスカイマークの再生がようやく本格始動する。(関連記事総合2、企業面に)
5日の債権者集会では174名(書面投票含む)が投票した。再生案の成立には「議決権総額の2分の1以上」と「投票した債権者の頭数の過半数」の賛成が必要だ。ANA主導のスカイマーク案は議決権額で60.25%、頭数でも8割弱の支持を獲得し東京地裁から即日で認可決定をうけた。
デルタ支援を柱とする最大債権者、米リース会社イントレピッド・アビエーション案の得票は議決権額で38.13%、頭数で2割強にとどまった。
5日に記者会見したANAの長峯豊之取締役は「スカイマークに整備などで協力し、安全面の質を高めていきたい」と話した。ANAは傘下の全日本空輸を通じてスカイマークと早期に共同運航を実現し、スカイマークの座席を全日空が販売して収益をてこ入れする。予約システム提供や技術者派遣も進める。スカイマークの井手隆司会長は「2016年3月期の黒字化をめざす」とした。
今回の債権者集会では対立する2つの案が投票にかけられる異例の展開となっていた。当初、議決権額の約38%を握るイントレピッド案が有利とみられていたが、結果はスカイマーク案が6割超の賛成を獲得。約29%の欧州エアバス、英ロールス・ロイス(約16%)などイントレピッド以外の大口債権者がそろって支持に回ったためだ。
ANAはこれまで「今回の件に関連して新たな取引はしない」としてきた。だが航空機の引き受け交渉を巡る不信感からANAのスポンサー就任に難色を示していたエアバスが、賛成票を投じた背景には将来の機材導入に関する約束があったと関係者は指摘する。
5日の会見でも長峯取締役は「長期的に機材を購入する構想がある」と将来の導入などに含みを残した。大口債権者の中で主導的な役割を果たしていたエアバスの姿勢変化を受け、ロールス・ロイスなど2社も賛成に回ったとみられる。
今後、スカイマークは既存株式の価値を完全に消滅させる100%減資を実施。その後、投資ファンドのインテグラル(東京・千代田)やANAなどを引受先に180億円の第三者割当増資を行い、債権者への弁済に充てる。弁済は早ければ10月末にも始まる見通し。
これまで約20年にわたり独立経営を続けてきたスカイマークはANAから出資を受ける。スカイマークは「ドル箱」とされる羽田空港の発着枠を1日36往復分持つ。ANA陣営のシェアは現在の約5割から約6割とさらに高まる計算だ。
5日に記者会見した森本大・デルタ日本支社長は「スカイマークが日本の航空業界の第三極として再生することを心から祈る」と語った。
(日経8/6:総合2面)
▼ANA、土壇場の逆転劇 スカイマーク支援 エアバスに発注約束、大口債権者3社を味方に
民事再生手続き中のスカイマークはANAホールディングスの出資と支援を受けて再建に踏み出す。当初、議決権額の争奪戦では最大債権者が策定した米デルタ航空支援案が優勢とみられていたが、ANAは欧州エアバスなどの大口債権者に将来の機材発注の意向を伝えることで、6割を超える議決権額を獲得。土壇場での「逆転」を果たした。(1面参照)
「きょう、ふたを開けるまでヒヤヒヤしていた。正直、心から安堵している」。5日夕からの国土交通省での記者会見に出席したANAの長峯豊之取締役は綱渡りともいえる大口債権者との交渉が成功したことに胸をなで下ろした。
再生案の成立には債権者による投票で「議決権総額の2分の1以上の賛成」などを得る必要があり、約38%の議決権を持つ米イントレピッド・アビエーションが策定したデルタ支援案は当初から優勢とみられていた。その他の大口債権者であるエアバスと英ロールス・ロイス、米リース大手CITのうち1社でもデルタ支援案に回れば、ANA支援案は否決されてしまう計算だったためだ。
大口債権者はデルタとの取引が多く、4社を除く小口の議決権比率は合計でもわずか約4%。「大差がつく」との見方も多かった。
情勢が変化したのは7月末のこと。関係者は「適時開示義務が発生しないように条件をつけながら、ANAがエアバスに対し将来の機材発注を約束したことが転機になった」と明かす。
ANAが発注を決めた機種や機数は明らかではないが、スカイマークが国際線への導入を計画していたのと同じ総2階建ての超大型機「A380」が有力。カタログ価格は1機約4億3000万ドル(約530億円)。世界の航空会社から「不人気」の評価を与えられ、エアバスが威信をかけて売り込みに力を入れている最上位機種だ。
これまで東京地裁に対する意見書の提出などでエアバスと歩調を合わせてきたロールス・ロイスやCITも旗振り役のエアバスに同調し、一気にANA支援案に傾く。エアバスは期限と定めた日本時間5日午前0時までにデルタからANAに対抗する機材発注の提案がなかったことで、投票先を最終決断。エアバスがANAに賛成票を投じる意向を伝えたのは5日の未明だった。
ANAはこれまで「スカイマーク案件に絡んで新たな機材を発注することはない」と説明してきたが、5日の記者会見で長峯取締役は「大口債権者には今後の事業戦略の可能性を評価してもらえた」と将来の機材購入に含みを持たせた。
ANAは大型機から燃費性能に優れた中型機への転換を進めてきた。現実にA380を導入することになれば自らの戦略に逆行することになるほか、機材と路線のミスマッチが利用者の運賃に跳ね返る恐れもある。「そのリスクを冒してでもスカイマークが持つ羽田発着枠を他社に渡したくなかった」とANA関係者は解説する。
ある業界関係者はこう指摘する。「スカイマーク再生は決着を見たが、ANAにとってはこれからが正念場になるだろう」
▼空の第三極、姿消す 再び寡占、料金上昇懸念
スカイマークが再建に向けてANAホールディングスの支援を盛り込んだ再生計画を進めることになり、日本の航空業界から事実上、「第三極」が消える。「空の暴れん坊」ともいわれたスカイマークが国内大手の陣営に入ることで、競争環境が弱まれば、料金の高止まりにつながるリスクもある。
国内線の「ドル箱」とされる羽田空港の発着枠を1日36往復分持つスカイマークがANAの出資を受けると、1990年代の航空自由化以降、相次ぎ誕生した新規航空会社はすべてANAによる資本参加を受けることになる。
「ANA陣営」の羽田の国内線のシェアは約6割に高まり、日本航空との大手2陣営による寡占状態が強まる。
ANAの長峯豊之取締役は「株主間契約などを通じてスカイマークの独立は担保されている。運賃や路線の設定などの面でANAが関与することはない」と説明する。ただ、これまでANAが出資した航空会社とは路線計画などで連携する動きも見られる。
寡占化で競争環境の弱体化を指摘する声も根強い。
早稲田大学商学学術院教授の戸崎肇氏は「スカイマークがANA陣営となることで、低めの料金戦略という独自色は薄まる。少なくとも他社への料金の値下げ圧力は弱まる」と指摘する。
スカイマークは撤退を発表済みの路線以外は当面維持する方針だが、「将来的には採算重視が強まりANAと重なる路線から撤退する可能性もある」という。
国交省はスカイマークがANA陣営に入った後も競争環境が維持されているかを厳しくチェックしていく方針だ。
民事再生手続き中のスカイマークの債権者集会(総合2面きょうのことば)が5日、東京地裁で開かれ、ANAホールディングス支援の再生計画案が6割超の賛成を集めて可決された。同案に対抗していた米デルタ航空による支援案は否決された。今後、ANAは共同運航などを通じてスカイマークの再建に協力する。1月の経営破綻から半年。日米の航空大手による争奪戦となっていたスカイマークの再生がようやく本格始動する。(関連記事総合2、企業面に)
5日の債権者集会では174名(書面投票含む)が投票した。再生案の成立には「議決権総額の2分の1以上」と「投票した債権者の頭数の過半数」の賛成が必要だ。ANA主導のスカイマーク案は議決権額で60.25%、頭数でも8割弱の支持を獲得し東京地裁から即日で認可決定をうけた。
デルタ支援を柱とする最大債権者、米リース会社イントレピッド・アビエーション案の得票は議決権額で38.13%、頭数で2割強にとどまった。
5日に記者会見したANAの長峯豊之取締役は「スカイマークに整備などで協力し、安全面の質を高めていきたい」と話した。ANAは傘下の全日本空輸を通じてスカイマークと早期に共同運航を実現し、スカイマークの座席を全日空が販売して収益をてこ入れする。予約システム提供や技術者派遣も進める。スカイマークの井手隆司会長は「2016年3月期の黒字化をめざす」とした。
今回の債権者集会では対立する2つの案が投票にかけられる異例の展開となっていた。当初、議決権額の約38%を握るイントレピッド案が有利とみられていたが、結果はスカイマーク案が6割超の賛成を獲得。約29%の欧州エアバス、英ロールス・ロイス(約16%)などイントレピッド以外の大口債権者がそろって支持に回ったためだ。
ANAはこれまで「今回の件に関連して新たな取引はしない」としてきた。だが航空機の引き受け交渉を巡る不信感からANAのスポンサー就任に難色を示していたエアバスが、賛成票を投じた背景には将来の機材導入に関する約束があったと関係者は指摘する。
5日の会見でも長峯取締役は「長期的に機材を購入する構想がある」と将来の導入などに含みを残した。大口債権者の中で主導的な役割を果たしていたエアバスの姿勢変化を受け、ロールス・ロイスなど2社も賛成に回ったとみられる。
今後、スカイマークは既存株式の価値を完全に消滅させる100%減資を実施。その後、投資ファンドのインテグラル(東京・千代田)やANAなどを引受先に180億円の第三者割当増資を行い、債権者への弁済に充てる。弁済は早ければ10月末にも始まる見通し。
これまで約20年にわたり独立経営を続けてきたスカイマークはANAから出資を受ける。スカイマークは「ドル箱」とされる羽田空港の発着枠を1日36往復分持つ。ANA陣営のシェアは現在の約5割から約6割とさらに高まる計算だ。
5日に記者会見した森本大・デルタ日本支社長は「スカイマークが日本の航空業界の第三極として再生することを心から祈る」と語った。
(日経8/6:総合2面)
▼ANA、土壇場の逆転劇 スカイマーク支援 エアバスに発注約束、大口債権者3社を味方に
民事再生手続き中のスカイマークはANAホールディングスの出資と支援を受けて再建に踏み出す。当初、議決権額の争奪戦では最大債権者が策定した米デルタ航空支援案が優勢とみられていたが、ANAは欧州エアバスなどの大口債権者に将来の機材発注の意向を伝えることで、6割を超える議決権額を獲得。土壇場での「逆転」を果たした。(1面参照)
「きょう、ふたを開けるまでヒヤヒヤしていた。正直、心から安堵している」。5日夕からの国土交通省での記者会見に出席したANAの長峯豊之取締役は綱渡りともいえる大口債権者との交渉が成功したことに胸をなで下ろした。
再生案の成立には債権者による投票で「議決権総額の2分の1以上の賛成」などを得る必要があり、約38%の議決権を持つ米イントレピッド・アビエーションが策定したデルタ支援案は当初から優勢とみられていた。その他の大口債権者であるエアバスと英ロールス・ロイス、米リース大手CITのうち1社でもデルタ支援案に回れば、ANA支援案は否決されてしまう計算だったためだ。
大口債権者はデルタとの取引が多く、4社を除く小口の議決権比率は合計でもわずか約4%。「大差がつく」との見方も多かった。
情勢が変化したのは7月末のこと。関係者は「適時開示義務が発生しないように条件をつけながら、ANAがエアバスに対し将来の機材発注を約束したことが転機になった」と明かす。
ANAが発注を決めた機種や機数は明らかではないが、スカイマークが国際線への導入を計画していたのと同じ総2階建ての超大型機「A380」が有力。カタログ価格は1機約4億3000万ドル(約530億円)。世界の航空会社から「不人気」の評価を与えられ、エアバスが威信をかけて売り込みに力を入れている最上位機種だ。
これまで東京地裁に対する意見書の提出などでエアバスと歩調を合わせてきたロールス・ロイスやCITも旗振り役のエアバスに同調し、一気にANA支援案に傾く。エアバスは期限と定めた日本時間5日午前0時までにデルタからANAに対抗する機材発注の提案がなかったことで、投票先を最終決断。エアバスがANAに賛成票を投じる意向を伝えたのは5日の未明だった。
ANAはこれまで「スカイマーク案件に絡んで新たな機材を発注することはない」と説明してきたが、5日の記者会見で長峯取締役は「大口債権者には今後の事業戦略の可能性を評価してもらえた」と将来の機材購入に含みを持たせた。
ANAは大型機から燃費性能に優れた中型機への転換を進めてきた。現実にA380を導入することになれば自らの戦略に逆行することになるほか、機材と路線のミスマッチが利用者の運賃に跳ね返る恐れもある。「そのリスクを冒してでもスカイマークが持つ羽田発着枠を他社に渡したくなかった」とANA関係者は解説する。
ある業界関係者はこう指摘する。「スカイマーク再生は決着を見たが、ANAにとってはこれからが正念場になるだろう」
▼空の第三極、姿消す 再び寡占、料金上昇懸念
スカイマークが再建に向けてANAホールディングスの支援を盛り込んだ再生計画を進めることになり、日本の航空業界から事実上、「第三極」が消える。「空の暴れん坊」ともいわれたスカイマークが国内大手の陣営に入ることで、競争環境が弱まれば、料金の高止まりにつながるリスクもある。
国内線の「ドル箱」とされる羽田空港の発着枠を1日36往復分持つスカイマークがANAの出資を受けると、1990年代の航空自由化以降、相次ぎ誕生した新規航空会社はすべてANAによる資本参加を受けることになる。
「ANA陣営」の羽田の国内線のシェアは約6割に高まり、日本航空との大手2陣営による寡占状態が強まる。
ANAの長峯豊之取締役は「株主間契約などを通じてスカイマークの独立は担保されている。運賃や路線の設定などの面でANAが関与することはない」と説明する。ただ、これまでANAが出資した航空会社とは路線計画などで連携する動きも見られる。
寡占化で競争環境の弱体化を指摘する声も根強い。
早稲田大学商学学術院教授の戸崎肇氏は「スカイマークがANA陣営となることで、低めの料金戦略という独自色は薄まる。少なくとも他社への料金の値下げ圧力は弱まる」と指摘する。
スカイマークは撤退を発表済みの路線以外は当面維持する方針だが、「将来的には採算重視が強まりANAと重なる路線から撤退する可能性もある」という。
国交省はスカイマークがANA陣営に入った後も競争環境が維持されているかを厳しくチェックしていく方針だ。