【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

蟻の一穴を見落とした大メディア 周辺事態法改正(重要影響事態安全確保法)地球の裏側補給は国会承認無し

2015年04月22日 04時11分39秒 | 第189回通常国会2015年安保国会


 私はおとといごろから感づいていたのですが、大メディアが蟻の一穴を見落としました。

 新聞は名数(めいすう、固有名詞と数字)を間違えなければ、訂正はしないのですが、 これは「大誤報」と言っていいと思いますよ。

 2015年4月22日付新聞、現時点で手元には読売しかありませんが、「自衛隊派遣は例外なく事前承認 安保協議が決着 与党 日米指針27日合意」という見出しが立っています。

 この「例外なき国会事前承認」というのは、新法「国際平和支援法(案)」による、多国籍軍などの後方支援は例外なき国会事前承認で、2015日米ガイドラインには「国際的な紛争に対処する米軍や多国籍軍への後方支援」 を明示すると報じられています。さらに過去のイラク人道復興支援PKOについて、先週公明党の北側一雄座長代理が「特措法が必要」としたのに対して、中谷元防衛大臣(自民党)が「改正法でできる」と語ったとの、与党内協議を報じています。

 ところが、そもそもPKOは日本平時で、現地も停戦後の話であり、集団安全保障の範囲であり、集団的自衛権の限定容認とはほとんど関係ない話です。

 今回の安保法制で問題なのは、「周辺事態法を改正し重要影響事態安全確保法を新設する法律案」の方です。まず現行周辺事態法の第5条柱書後段を確認しましょう。

 「ただし、緊急の必要がある場合には、国会の承認を得ないで当該後方地域支援、後方地域捜索救助活動または船舶検査活動を実施することができる」とあります。

 新しい法律では、「重要影響事態」に対処して、2015日米ガイドラインに「米軍などへの後方支援の活動地域・内容の拡充(朝鮮半島、南シナ海を想定)」と盛り込まれるようです。

 この新しい言葉、「重要影響事態」は日本平時で、そして現地(地球の裏側含む)は有事です。ここで、現行法の「後方地域」という言葉は削除される見通し。

 昨年7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の中に次のような文言があります。

 「従来の後方地域あるいはいわゆる非戦闘地域といった自衛隊が活動する範囲をおよそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切る枠組みではなく、他国が現に戦闘行為を行っている現場ではない場所で実施する補給、輸送などの我が国の支援活動については、当該他国の武力の行使と一体化するものではないという認識を基本とした以下の考え方に立って、(略)他国軍隊に対して、必要な支援活動を実施できるようにするための法整備を進めることとする」

 この7・1閣議決定からすれば、日本平時で現地有事の重要影響事態において、「現に戦闘行為が行われていない現場では、米軍(など)に補給、輸送活動ができる」ということになります。

ということは、例えば、米軍によるシリア・イラク領内での「ISILとの戦い」でも、日本自衛隊が、例えば夜中、(現に戦闘行為が行われていない現場)、米軍部隊に弾薬を補給することもできる、わけです。

 そして、それは「緊急の必要がある場合には、国会の承認を得ない」と現行法にあり、ここに関する改正は、自民党と公明党の文章には一切出て来ていませんから、改正されないものと思われます。

 高校社会科では、予算案と条約の承認は衆議院が優越する、と習います。実は最も衆議院が優越しているのは、国会の会期で、国会法13条に「両議院の議決が一致しないときは、衆議院の議決したところによる」とあり、両院協議会すら開かずに、衆議院の議決が国会の議決になります。衆議院の過半数とは、すなわち与党のことです。

 さらに国会法では、通常国会の延長は1回まで、臨時国会の延長は2回までとなっていますから、例えば6月24日までの会期を、8月8日まで延長したとすると、6月25日の時点で、8月9日は国会閉会中だということが事前に分かります。だったら、8月9日に米軍からの要請を首相や防衛相が受けて、重要影響事態として、集団的自衛権の発動として、自衛隊を送れることになります。

 すなわち、昨日の高村正彦・北側一雄私案というのものでは「国際平和支援法(案)」の国会事前承認しか書かれておらず、周辺事態法改正について書かれていないのですが、7・1閣議決定と2015日米ガイドラインで、「地球の裏側で、現に戦闘行為が行われていない現場で、米軍(など)への弾薬の補給ができる」ことになっており、その国会事前承認は「例外がある」のです。

 大メディアがこぞってこの蟻の一穴を見逃したのは、必ずしも官邸・自民党の締め付けではなく、高村氏、北側氏の誘導がうまく、それに乗ってしまったものと考えられます。

 そろそろ他の新聞が届いていますので、これから取りに行って読んで、他の新聞の健闘ぶりを確認できることを信じています。

 来週月曜日、4月27日、ついにガイドラインが署名されることになります。



【追記2015年4月22日午前5時】

日経新聞4面は「国会承認、厳格さに差」と見出しがたっており、私の認識にきわめて近い記事が載っています。

【追記おわり】


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