【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

民進党・共産党の勝利、労働基準法改正案(残業代ゼロ法案)は審議入りしないまま、2度目の年越しへ

2016年12月13日 09時50分32秒 | 第192回臨時国会(2016年9月から12月まで)条約・カジノ再延長国会

 政府・自民党が、きょねん、平成27年2015年4月3日(金)に提出した労働基準法改正案(189閣法69号)は、第192臨時国会で審議入りしないまま、2度目の年越しとなり、平成29年2017年通常国会以降に持ち越しました。

 野党・民進党と共産党の勝利です。

 この法案は「残業代ゼロ法案」と呼ばれています。

 年収1000万円以上の「高度プロフェッショナル」の残業代をゼロにできる法案です。年収1000万円というと関係ないように思うかもしれませんが、政令「労働基準法第14条第1項第1号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」 では、博士、公認会計士、一級建築士のみならず、例えば大学の商学部卒業の人が、5年間経理部員をすれば、もう「高度プロフェッショナル」になります。後は、政令の年収要件を下げれば、ほとんどの人が残業代ゼロになります。

 この法案は、上述の通り、きょねん4月3日に提出され、安保法大延長国会の9月24日(木)に降ろされ、25(金)に閉会中審査手続きを取られました。今国会は初日に降りています。その後も、趣旨説明すらされないまま、2度目の年越しとなりました。民進党と共産党の勝利です。

 一方、「正社員ゼロ法」こと改正労働者派遣法はきょねん9月30日の施行から1年3か月経ちました。現実には、正社員の人数は増えましたが、それ以上に非正規雇用が増えており、「率」では、野党の懸念通りになりつつあります。

 以下、当ブログ内エントリーから、年越しが決まった、残業代ゼロ法案関連を紹介して、このエントリーは終わります。

[当ブログ内エントリーから抜粋引用はじめ]

残業代ゼロ法案は博士受難の時代、労働基準法第14条第1項などの改正法案を政府が提出

2015年04月03日 23時59分37秒 | 第189回通常国会2015年安保国会

(このエントリーの初投稿日時は2015年4月4日午前8時でそれから4月3日付にバックデートしました)

 政府は平成27年2015年4月3日(金)の閣議で、「労働基準法改正案」(189閣法69号)を決定し、衆議院に提出しました。

 この残業代ゼロ法案を見るときは「現行労働基準法第14条第1項」をおさえるべし。

 労基法第14条は「労働契約」の「契約期間」を定めています。ちなみに、労働契約とは、民法でいう「雇用」とまったく同じ意味です。「労働契約法(平成19年2007年法律128号)」の施行後は、労働法制では「労働契約」という言葉に書き換わっています。

 まず14条第1項は、「専門的な知識、技術または経験であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者との間に締結する労働契約」という分類、定義を決めています。

 この分類はどのような労働者か。その細目は、省令が定めています。省令は法律ではないので国会の審議が不要。与党の厚労大臣が署名で突然変えることができます。

 省令、

 「労働基準法第14条第1項第1号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(平成15年2003年10月22日厚生労働省告示第356号)」

 は、次の人が労働基準法第14条第1項の「労働者」だとしています。

 1、博士の学位を有する者・・・ですから、博士は全員対象になります。
 2、12の国家資格・・・このうち、公認会計士、一級建築士、薬剤師、技術士が会社員には多いと思われます。
 そして、(略)
 5、次のいずれかに該当する者であって、労働契約の期間中に支払われることが確実に見込まれる賃金の額を1年あたりに換算した金額が、
 「1075万円」を下回らない者としています。

 この「1075万円」は、国会の審議無しに、厚労省の一存で「省令」で変えることができます。これを野党・民主党は警戒しています。

 ここで、いったんまとめると、博士、会社員や団体職員でである公認会計士・一級建築士・薬剤師・技術士と、年給1075万円以上の労働者(システムエンジニアや、その業種につながる学科を卒業した大学・短大・高専・高校卒業者で就業後5年ないし7年経った者)が、労基法第14条第1項の対象になります。

 今次改正法案は、この第14条第1項にもとづく労働者を、すべて「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」と名付けて、労働時間・休日・割り増し賃金の法律による保護から除外する、とした法律案で、抜本的な改正といえます。

 実はこの、労基法第14条第1号を改正しようという動きは、以前からありました。

  昨年11月21日の衆議院解散の数分前に「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」 が民共の反対、自公維の賛成多数で可決・成立し、今週の4月1日(水)から施行されました。これは、14条1号の労働者の労働契約の期間を5年間から10年間に延長する法律。このため、例えば大学教授で今週から同じ大学で6年目に入った人は、この法律にもとづく有期雇用かもしれませんし、無期雇用かもしれません。この特措法案は昨年の通常国会で、国会技術的には極めて異例な「衆議院で可決して参議院で審議未了ながら閉会中審査になった法案」です。

 これが、テレビ放送されていた衆議院解散のニュースの数分前に委員長が報告し、起立し、可決・成立した法律3本のうちの1本です。ニュースを見ていた人も多いでしょう。これとは別に、労働者派遣法改悪法案は解散と同時に廃案になりました。

 なので、今週6年目に入った博士は「首がつながった」のだからまだいいとして、それ以外の博士は、物理学だろうがなんだろうが博士なんだから、もっと抵抗して良かったように感じます。筆者(宮崎信行)が最近始めたツイキャスラジオの2015年4月1日の放送で、リスナーの方から、「国公立大学の人は声をあげづらいようだ」との世論を教えていただき、それもそうかなと感じました。ただ、昨年11月の法律を当時どれだけ把握している人がいたのかなとの疑問はつきません。

 民主党は野党なので限界があります。法律案を審議未了廃案に追い込むテクニックしかありません。ただ、衆議院厚生労働委員会は、まだ審議入りしていない法案が8本ある状態で、来週から残り11週間の後半国会(ただし延長は確実な見通し)を迎えます。

 野党・民主党の岡田克也代表は、労働者派遣法改悪法案(189閣法43号)「通さないためにどうすればいいかという視点で、いろいろなものを組み立てていきたい」と先月の記者会見で述べており、労働者派遣法改悪法案の審議未了廃案の方を優先する作戦です。

 派遣労働者の声と、博士の声のどちらが通るか、両方通るか。ーー昨年の国会では「ハケン」の声が通りました。博士受難の時代ですが、我こそはオピニオン・リーダーたりという気概を持っていただきたい。

以上
(C)宮崎信行 Nobuyuki Miyazaki 2007-2015

[当ブログ内エントリーから抜粋引用おわり]
 
[当ブログ内エントリーから抜粋引用はじめ]

参議院民主党「労働基準法改正案、廃案にしましょう」

2016年01月15日 16時15分48秒 | 第190回通常国会(2016年前半)

【平成28年2016年1月15日(金)参議院予算委員会】

 きのうの午後1時台に衆議院を通過した「平成27年度(第1次) 補正予算案(一般会計、特別会計)」が議題になりました。

 予算案の趣旨説明は、このところ、衆・予のあと、参・予でも受けて、その後から、衆・予で基本的質疑になっています。今回もその予定でしたが、衆・予の理事会が長引いていたので、参・予は理事の専任だけして、散会していました。このため今朝午前8時50分から委員会を開き、麻生財務大臣の説明を聞きました。

 午前9時からNHK入り国会中継。

 民主党・新緑風会から長浜博行さん、水野賢一さん、石橋通宏さんが質問しました。今年は改選イヤーですが、まず、非改選の長浜元環境大臣が先陣を切り、改選の水野さん、石橋さん=情報労連組織内・全国比例民主党公認内定=が質問する格好となりました。

 ねじれておらず補正予算の成立は確定的。とはいえ、改選イヤーの委員会審議のスタートですから大事です。

 前置きはまだ続きます。参議院は会期切れの廃案をねらい、伏兵として行動してきました。やはりインターネットの時代ということでしょう、おととしの国会で変化がありました。共産党議員がテレビ入り予算委員会で、まだ審議されていない「労働者派遣法改正案」についてパネルを使って問題点を指摘。その後、「まあ審議入りまでまだ時間があるでしょう」としまい、結果的に会期末廃案に2回追い込むことができました。

 民主党の石橋さんは、労働基準法改正案(189閣法69号=衆議院厚生労働委員会で継続審査)を取り上げました。いわゆる残業代ゼロ法案。石橋さんは「総理、いったん廃案にしましょう!」と呼びかけました。

 石橋さんはまず、「この法案の働き過ぎ防止策は我々も賛同できるんです」とかけひきを開始。法案に盛り込まれた、改正第41条の労働時間などの規制の例外、をただしました。ここは大事なので、きわめて長くなりますが、「改正第41条の2(案)」の条文の全文をコピーアンドペーストします。

[引用はじめ]

第四十一条の二 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号又は第四号に規定する措置を使用者が講じていない場合は、この限りでない。
一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)

二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲
イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。
三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(次号ロ及び第五号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
四 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。

ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
ハ 一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を確保すること。
五 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定めるものを当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
六 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
七 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
八 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項。

[引用おわり]

 このような弁護士も読めない条文。かつて香港にあった蜘蛛の巣のような市街「「九龍城」のような世界が、労働法制の世界で、労働者が分断されています。

 この長時間労働や残業代の規制が除外される職種(エグゼンプション)である「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務」。

 これについて、塩崎厚労相は「所得再分配のために、その糧を得なければならない」安倍首相は「すべての人が希望を持てる社会をつくりたい」と答弁。なんらかの思惑が裏に透けて見える答弁をしました。

●民主党の岡田克也代表は定例会見で、労働基準法改正案の対案提出を明言し、「先送りは卑怯だ」と首相を挑発

 この石橋さんの提案の直後に、定例(金曜日午後3時)で始まった、岡田克也代表の記者会見で、「長時間労働は根の深い悪弊で、子育てと仕事の両立を阻み、親の介護も施設に任せるしか選択肢がなくなっている。和民の裁判を見ても、これが企業のやることかと憤りを感じる」とし、「総労働量とインターバル(退勤から出勤までの時間)規制を盛り込んだ法案を出して議論したい」と語りました。

 さらに「安倍首相は重要な法案だと思うのなら、参院選の後に先送りするのは卑怯だ」とまで挑発しました。

 「社長と経理部長」「民主党の一卵性双生児」とも揶揄される、岡田克也代表と郡司彰参議院議員会長の足並みが一致した戦術のようです。

[当ブログ内エントリーから抜粋引用おわり]

[当ブログ内エントリーから抜粋引用はじめ]

労働基準法改正案いわゆる残業代ゼロ法案は審議入りせず第191回国会以降に先送り

2016年05月31日 06時55分47秒 | 第190回通常国会(2016年前半)

 「労働基準法改正案」通称「残業代ゼロ法案」(189閣法69号)は第190回通常国会で審議未了となりました。野党・民進党・共産党の抵抗が功を奏した格好ですが、与党は早い段階から成立をあきらめる作戦だったとも報じられています。

 労働基準法改正案は、大学教授などに適用されている、「高度プロフェッショナル制度」を広げて、例えば商学部卒業の経理部員を「高度プロフェッショナル」に加える法案。政府が昨年4月3日(金)に国会に提出した法案では「年収1000万円以上」に限られていますが、この部分は政府の一存ですぐにかえられることから、労働時間・休日・深夜の割増賃金などの労基法の規定が適用外になるため、野党は「残業代ゼロ法案」と呼んでいます。

 同法案は、厚生労働大臣による趣旨説明がされないまま、「閉会中審査」になる見通し。ただ「閉会中」と言っても審議されることなく、7月10日の参院選以降に開かれる、第191回国会や、第192回国会以降で審議入りをめぐる与野党の駆け引きが続く見通しです。

 このエントリー記事の本文は以上です。 

[当ブログ内エントリーから抜粋引用おわり]

この記事の本文は以上です。

(C)宮崎信行 Nobuyuki Miyazaki 
(http://miyazakinobuyuki.net/)

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