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貧すれば鈍するーー貧乏になると頭のはらきがにぶくなる、また、品性がさもしくなる。(広辞苑第6版)
集団的自衛権発動のための安全保障法制の再整備と、日米防衛協力のための指針(いわゆるガイドライン)は車の両輪(ダブルトラック)で進んでいます。ただ、ここに来て、日程感として、4月末に安倍晋三首相(自民党総裁)らが訪米し、ガイドライン再改定に署名。その後の5月中旬に自衛隊法改正などの法案が出てくるようです。やはり、ガイドラインの方が早くなり、それを国内法に落とし込む手順になりそうです。
2015年3月18日付の朝日新聞は日米ガイドラインについて「米軍に弾薬提供可能に 日米防衛指針 地理的制約なくす」。同日付読売新聞は「後方支援に恒久法合意 安保法制自公が原案」とおのおの1面トップで報じました。
1997年ガイドラインの改定も、1999年改正自衛隊法・周辺事態法などの改正も、ともに、原典は、1997年ガイドラインですから、防衛省のウェブサイトで、ぜひ読んでいただきたい。
このうち、きょうの朝日が報じた「米軍に弾薬提供可能に」は、
ガイドライン別表の
「周辺事態における協力の対象となる機能および分野ならびに協力項目例」の
「米軍の活動に対する日本の支援」の
「後方地域支援」の
「補給」に書いてある、
「自衛隊施設および民間空港・港湾における米航空機・船舶に対する物資(武器・弾薬を除く)および燃料・油脂・潤滑油の提供」。
このように、わざわざ「武器・弾薬を除く」と書いてあります。この「弾薬を除く」を削除する作業にほかなりません。
そして地理的制約。
1978年のガイドラインでは「日本以外の極東における事態での日本の安全に重要な影響を与える場合に日本が米軍に対して行う便宜供与のあり方は日米安保条約」などにより起立される、と書いてあります。
この後、極東の文字が削除され、1997年ガイドラインで「周辺事態は日本の平和と安全に重要な影響を与える事態である」としたうえで、わざわざ
「周辺事態の概念は、地理的なものではなく、事態の性質に着目したものである」と書いてあります。
この時点で、周辺事態を削除して、地球規模に広げるプログラム(手順)が組まれていた、と言ってもいいでしょう。
1997年ガイドラインで地理的概念がすでに無いことは、高村正彦元外相(自民党副総裁)の「100ぺん言っている」との言の通りです。
これが、1999年周辺事態法などに落とし込んだ、「衆議院ガイドライン特別委員会」で、山崎拓委員長に対して、結党間もない民主党の2期生だった前原誠司筆頭理事や当時社民党だった辻元清美さんらのひっしの抵抗で、やや分かりづらい日本語ながらも歯止めがかかりました。一方、1997年ガイドラインにある「非戦闘員退避行動」は中谷元・自民党衆議院議員(現防衛大臣兼安保法制再整備担当大臣)の提案で、法律から落ちました。この経緯は謎でしたが、最近になってアメリカから「やっぱりあれは無しにしてほしい」という旨の働きかけを中谷議員が受けていたようだ、と報じられました。
「弾薬の提供」については、昨年4月1日の閣議決定「防衛装備移転三原則」で、「我が国が締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合」と「紛争当時国への移転となる場合」を除き移転ができることになりました。前者は「ワッセナーアレンジメント(旧ココム)」などをさし、後者は国連安保理制裁対象国をさすと考えられますから、安保理常任理事国であるアメリカへの装備移転は、絶対、認められることになります。
そして、読売の記事には、新武力行使の3要件を自衛隊法改正案に盛り込むとしています。
これは昨年7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の中で、
(1)我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し
(2)これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、
(3)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、
必要最小限の実力を行使するーーと書いてあります。
すなわち、どういうことがありうるかというと、イラク・シリアなどで戦争が起き、国または国に準じる組織(イスラム国を自称するISIL含む)が米軍などに攻撃し、ホルムズ海峡を機雷で封鎖した場合、サウジアラビアが石油を輸出することができなくなり、日本の経済がマヒするので、自衛隊が機雷を除去できることになります。
そして、イラク・シリアなど、「戦闘が行われていない現場」で、自衛隊が弾薬、燃料、油脂、潤滑油などを提供することになります。この弾薬などは日本政府の負担になると考えられますが、三菱重工業、川崎重工業、三菱商事などは一定の報酬を得ることができます。
そして、何よりも、貧しい家庭のお子さんが、給料を得るために、自衛隊に入り、その後、地球の裏側に送り込まれ、殉職し、親に恩給が行くという、孝行すぎる子どもになります。
いずれにせよ、このような動きを許すか、許さないか。それはすべて、生活のためならば自衛隊の給料をもらったり、防衛装備品メーカーから仕事や雇用をもらったりしたいという「貧すれば鈍する」国民がどれだけいるか。その「死活的利益」をどうとらえるかにかかっているといえるでしょう。
1000兆円(8兆ドル)もの政府借金を子や孫に残したうえ、戦争に送り込んで、景気対策の恩恵にあずかるような有権者は成仏できない、と私は考えます。
安全保障の再整備法案合計十数本は、5月中旬ごろ、今国会に提出される運びとなっています。
◇
付言すれば、私は、アメリカ軍やオーストラリア軍の艦船など装備を防護する「アセット防護」には賛成です。私は、サイバー空間、宇宙空間の防衛協力にも賛成です。ガイドラインに盛り込むべきです。その一方、PKOにおける「かけつけ警護」については、日本国憲法第9条第2項に「国の交戦権はこれを認めない」という規定がある以上、残念ながら、停戦が崩れた時の撤退が難しくなるため、憲法上できず、PKO協力法改正案に盛り込むべきでないと、私は考えています。
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