【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

名古屋高裁違憲判決は「特措法政治」の崩壊だ

2008年04月17日 20時37分29秒 | 人物
 名古屋高裁が「航空自衛隊のイラク派遣は一部違憲」と判断しました。
 原告は上告しない方針。

 仮に政府が上告しても、これまで最高裁判所は「事情判決」「統治行為論」の観点から、「一見きわめて明白でない限り」自衛隊に関する憲法判断は「立法府の仕事であり、訴訟になじまない」と戦後(つまり最高裁創立以来)一貫して、憲法判断を避けています。

 ですから、名古屋高裁判決はこのまま確定する可能性がきわめて大きいと推測されます。

 政府が上告した場合 →最高裁が上告を受け付けない。
 政府が上告しない場合→当然、この名古屋高裁の判決が確定します。

 ですから、この判決は期限が来れば、確定。

 そうすると、政府・自民党は米軍の「不朽の自由作戦」(OEF)への参加見直しか、「イラク特措法」の改正が必要になると私は予測します。

 このところ裁判所による憲法判断は「国政選挙の一票の格差」に限られている感じがありました。15人の裁判官が一堂に会した「最高裁大法廷」は年に1回程度でした。
 この判決は、平成になってもっとも影響の大きい憲法訴訟になる可能性がある、きわめて重大な判決だと私は思います。

 ◇

 実は、昨年12月の参院外交防衛委員会で、浅尾ネクスト防衛大臣の質問に対して、内閣法制局第二部長が「空自の活動は一部違憲」と受け取れる答弁をしています。

(↓こちらをクリックすると、そのときの「国会傍聴記」に飛べます)
【再掲】内閣法制局、空自のイラク派遣活動が「違憲」と判断か?

 高裁判決とこの「浅尾質問」は関係はありません。

 が、小泉自民党内閣の秋山内閣法制局長官が“官僚文学の傑作”と評した「自衛隊の活動は非戦闘地域に限る」というテロ特措法&イラク特措法での自衛隊の国際貢献の「大前提」が崩れ去ったと言えるのではないでしょうか。

 第169国会に、政府・自民党が「自衛隊の国際貢献に関する恒久法案」提出することは絶望的になりました。

 そして、「特別措置法」を事実上の恒久法化してきた、政府・自民党の統治システム。租税特別措置法とともに、「特措法政治」が重大な機能不全になったことは自民党政治そのものが、国民、司法に相次いで否定されたと考えられると思います。また政府・自民党の結果責任はきわめて重大です。

 ぜひこの「浅尾質問」もあわせ読み頂きたく存じます。

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以下、共同の配信記事です。

イラク特措法にも違反(04/17 18:27:59)

 イラク派遣の航空自衛隊の空輸活動は違憲との判断を示した名古屋高裁の青山邦夫裁判長(異動のため高田健一裁判長代読)は17日の判決理由で「現代戦で輸送の補給活動も戦闘行為の重要な要素。武装兵員の輸送は自らも武力の行使を行ったと評価を受けざるを得ない」として、武力行使を禁じたイラク特措法にも違反するとした。

 原告側は実質勝訴と受け止め上告しない方針。請求自体は1審に続き退けられたため国も上告できず、自衛隊のイラク派遣に対する初の違憲判断は確定するとみられる。

 町村信孝官房長官は同日午後、「バグダッド飛行場などは非戦闘地域の要件を満たしており、納得できない。自衛隊の活動は継続する」との見解を示した。

 青山裁判長は判決で、空自の空輸活動は「多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っている」とし、空輸が行われているバグダッドについて、「戦闘地域」とした。

 (引用終わり)

 次は共同が速報で配信した判決要旨を引用します。

【イラク派遣訴訟控訴審判決要旨  名古屋高裁(共同)】

 自衛隊のイラク派遣をめぐる訴訟の控訴審で、名古屋高裁が17日に言い渡した判決の要旨は次の通り。

 【派遣の違憲性】

 自衛隊の海外活動に関する憲法9条の政府解釈は、自衛のため必要最小限の武力行使は許されるとし、武力の行使とは、わが国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいうことを前提としている。

 自衛隊の海外での活動については(1)武力行使目的の「海外派兵」は許されないが、そうではない「海外派遣」は許される(2)他国による武力行使への参加に至らない輸送や補給などの協力は、他国による武力行使と一体となるようなものは自らも武力を行使したとの評価を受けるため許されないが、一体とならないものは許される(3)一体化の有無は、戦闘活動の地点と行動場所との地理的関係や行動の具体的内容、協力する相手の活動状況などを総合的に勘案して個々的に判断される。

 イラク特措法はこうした政府解釈の下、人道復興支援活動または安全確保支援活動を行うこと(1条)、活動は武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならないこと(2条2項)、戦闘行為が行われることがないと認められる地域で実施すること(2条3項)を規定。「国際的な武力紛争」とは国または国に準じる組織の間で生じる国内問題にとどまらない武力を用いた争いだ。

 認定できる事実によると、2003年5月のブッシュ大統領による主要な「戦闘終結宣言」後も、米軍を中心とする多国籍軍はバグダッドなどの都市で、多数の兵員を動員し武装勢力の掃討作戦などを繰り返し、標的となった武装勢力は海外の勢力からも援助を受け、米軍の駐留に反対するなど一定の政治的目的を有して相応の兵力を保持し組織的、計画的に多国籍軍に抗戦している。

 その結果、多数の死傷者が出ており多国籍軍の活動は単なる治安活動の域を越えている。イラクでは宗派対立に根差す武装勢力間の抗争や武装勢力と多国籍軍との抗争があり、これらが複雑に絡み合い泥沼化した戦争の状態になっている。多国籍軍と国に準じる組織と認められる武装勢力との間で、治安問題にとどまらない武力を用いた争いがあり、国際的な武力紛争が行われている。

 特にバグダッドは07年に入っても、米軍がシーア派、スンニ派の両武装勢力を標的に掃討作戦を展開。武装勢力も対抗し、多数の犠牲者を出しており、国際的な武力紛争の一環として殺傷や破壊行為が現に行われ、イラク特措法にいう「戦闘地域」に該当する。

 航空自衛隊は、米国の要請を受け06年7月ごろ以降、バグダッド空港への空輸活動を行い、輸送機3機により週4、5回、定期的にクウェートの空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送している。

 空自の輸送活動は、主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われ、それ自体は武力の行使に該当しないとしても、現代戦では輸送なども戦闘行為の重要な要素であり、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているといえる。

 空自の空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員を、戦闘地域のバグダッドへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した行動で、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない。

 空自の空輸活動は、イラク特措法を合憲としても、武力行使を禁止した同法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、憲法9条1項に違反する活動を含んでいる。

 【平和的生存権】

 平和的生存権はすべての基本的人権の基礎にあり、単に憲法の基本的精神や理念を表明したにとどまらず、憲法上の法的な権利として認められるべきだ。

 裁判所に対し、その保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求できる具体的権利性が肯定される場合がある。憲法9条に違反する戦争の遂行や武力行使などで個人の生命、自由が侵害される場合などには、裁判所に対し違憲行為の差し止め請求や損害賠償請求などにより救済を求めることができる場合がある。

 【控訴人らの請求】

 本件の違憲確認請求はある事実行為が抽象的に違法であることの確認を求めるもので、現在の権利や法律関係に関するといえず請求は確認の利益を欠き不適法だ。

 本件の差し止め請求は防衛大臣による行政権の行使の取り消し変更またはその発動を求める請求を含む。このような行政権の行使に対し、私人が民事上の請求権を有すると解することはできず、訴えは不適法だ。

 控訴人らの切実な思いには平和憲法下の国民として共感すべき部分が多く含まれるが、本件派遣によって具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められない。損害賠償請求で認められる程度の被侵害利益がいまだ生じているとはいえず、本件損害賠償請求は認められない。

(引用終わり=全文引用しました)



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