【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

江本・後藤田“麻雀問答”にみる「法律の運用面での解釈」への政治家の言及

2010年01月30日 07時39分58秒 | 第174常会(2010年1~6月)空転政治主導

[写真]江本孟紀・元参院議員(民主党ホームページから)

 今から17年前の第126通常国会の議事録を紹介したいと思います。

 17年前の参院予算委員会で、江本孟紀・参院議員と、宮澤自民党内閣の後藤田正晴・法務大臣(警察庁長官を経て政界入り)との間で「麻雀問答」が繰り広げられたことがあります。

 江本さんは「かけマージャンのことなんですけれども」「世間一般にやられておりますので」「大体どの程度ならいいかなということをお聞きしておいた方が皆さんもやりやすい」「ぜひお願いしたいと思います」と質問しました。

 後藤田法相はまず、「江本さんはどれくらいかけているんですか」と聞きました。これは国会の答弁ですが、なんだか職務質問にも似ています。江本さんは「私は十年前からやめております」と答えました。うまいなあ、と思います。

 後藤田法相は、「易しいようで実際ここ(国会)でお答えするのは非常に難しいんです」と述べ、「こう書いてあるんです」と刑法185条を読み上げます。そして「これ以上は答えられないんです。お許し願いたいと思います」と低姿勢で締めくくりました。カミソリ後藤田が平身低頭。

 江本さんも「どうもありがとうございました。いまいちよくわからないんですけれども、まあなるべく捕まらないようにみんな気をつけたいと思います」とうまく質疑をまとめました。

 彼らのような人物を私たちの社会では「紳士」と呼びます。紳士と呼ばれると、クラブでお酒を飲んだり、けんかの仲裁をしたりすることが許されます。

 政治資金規正法という禁固も含む罰則付きの法律を作ったのは立法府です。その実力者である小沢一郎さんが「このような形式的なミスにつきましては、今までのほとんどのケースで報告の修正あるいは訂正ということで許されてきた」と発言した。

 これを擁護した民主党議員の一連の発言は、法治国家を脅かす大変危険な発言です。過去の議事録を読んでみると、今の政治家の質は落ちているのかなあ、という気がします。

 
[写真]後藤田正晴・元法務大臣

 法律を作るのは立法府(国会)です。

 法律を運用するのは行政府(役所)。例えば、おまわりさんの職務質問では、弾力的に法律を運用する裁量権が、お役人さんには法律により与えられています。職務質問は警察官職務執行法(警職法)に則ります。警職法は乱闘国会で成立したのですが、現在はチャンとした正統性を持つ法律です。

 行政府の裁量が法律違反かどうか。これは司法府(裁判所)の判断です。私の日経新聞の同期入社の元社員「Mちゃん」が週刊誌の報道に憲法違反があるとして、最高裁に特別抗告したことがあります。現代史に残る宰相の孫で、民主党スター議員夫婦の娘です。

 政権政党である民主党の小沢一郎幹事長を含む議員が、法律の運用面での解釈に関して発言すべきではありません。「政治資金規正法(規正法)の虚偽記入は、これまでは事後の訂正で済んでいた」「虚偽記入で逮捕するのは行き過ぎ」といった発言です。

 私は法治国家の原則からして、国会議員(立法者)が法律の運用(行政)に口出しするのは好ましくないと思います。

 法律の運用(行政)が、法律が認めた行政者の裁量権を超えたかどうかは、裁判(司法)が判断すべき問題で、政治家の「口先介入」は大変危険な行為だと考えます。

(以下、議事録から抜粋引用はじめ)

第126通常国会 参院予算委員会  8号会議録

出席者  内閣総理大臣   宮澤 喜一君
       法 務 大 臣  後藤田正晴君
       外 務 大 臣  渡辺美智雄君
       大 蔵 大 臣  林  義郎君 
       農林水産大臣   田名部匡省
       通商産業大臣   森  喜朗君
         郵 政 大 臣  小泉純一郎君
        国 務 大 臣  鹿野 道彦君
       (総務庁長官)
   
平成05年03月24日

○江本孟紀君 どうもありがとうございます。

 最後ですけれども、きょうは通産大臣それから建設大臣にもお伺いしたいことがあったんですけれども、最後に法務大臣に一言お聞きしたいことがございます。
 かけマージャンのことなんですけれども、いろんなところでいろんなかけマージャンをしておりますけれども、だれがやったやらないということではなくて、世間一般にやられておりますので、大体どの範囲ならいいのかということをぜひお聞きしたいと思います。

 我々野球界の出身者なんかは、かなりマージャン賭博事件とかいろんなことで永久追放処分になったり、二十三年前にそういう事件があってそのまままだ永久追放になったりとか、スポーツ界なんかでは非常に厳しい処分をされておりますが、しかし世間一般ではかけないでただ積み木だけするということはあり得ないので、大体どの程度ならいいかなということをお聞きしておいた方が皆さんもやりやすいと思いますので、ぜひお願いしたいと思います。

○国務大臣(後藤田正晴君) 江本さんはどれくらいかけているんですか

○江本孟紀君 私は十年前からやめております

○委員長(遠藤要君) 一問一答は許しません。

○国務大臣(後藤田正晴君) まことにどこまでが賭博になりどこまでならばばくちにならないのか、境目は何だ、こういう御質問ですが、易しいようで実際ここでお答えするのは非常に難しいんです。だから、こういうところでのお答えだとすれば、刑法百八十五条で、偶然の勝敗にお金や物をかけてそれの取得を争う、これはばくちになるわけですね。ところが、そのただし書きに、娯楽の程度であればいい、こう書いてあるんです。それはどういうことかと言えば、社交儀礼の範囲内であれば私は賭博にはならないのではないかなと、これ以上は答えられないんです。お許し願いたいと思います。

○江本孟紀君 どうもありがとうございました。いまいちよくわからないんですけれども、まあなるべく捕まらないようにみんな気をつけたいと思います
 そういうことで、きょうは質問させていただきましてどうもありがとうございました。これで終わらせていただきます。

(議事録からの抜粋引用終わり)

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