内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

クロード・レヴィ=ストロース『月の裏側 日本文化への視角』を読みながら(一)

2015-01-29 14:12:46 | 読游摘録

 このレヴィ=ストロースの邦訳の原書 L’autre face de la lune. Écrits sur le Japon は、訳者であるK先生ご自身が編集され前書きを付されて、フランスが生んだこの人類学の世界的な巨匠であり、二十世紀最高の知性であり思想家の一人が一〇一歳の誕生日を一月後に迎えようとしていた二〇〇九年十月三十日に亡くなってから約一年半後の二〇一一年四月にスイユ社(Éditions du Seuil)から刊行された。刊行に合わせてル・モンドの書評欄でも大きく取上げられ、私もすぐに購入して、知的興奮を覚えながら読んだ。以後、大学の講義でもよく引用し、その都度学生たちに一読を勧めている。
 本書は、日本についての未刊の文章、学問的な刊行物など、その中にはいくつかは日本でだけ印刷されたものも含まれているが、一九七九年から二〇〇一年の間に書かれた多様な文章を、初めて集めた日本論集である。「これらの文章の多様さを貫いて、日本人に対する、寛大というのではないが、少なくとも共感に充ちた視線が、時として浮かび上がる」(邦訳9-10頁)。
 それらの文章を読みながら、一方で、浮世絵に夢中になっていた少年期の想い出にまで遡るレヴィ=ストロースの日本文化に対する深い愛着に心を動かされ、他方では、日本文化全般についての、特に日本の神話や古典についての該博な知識と日本の現在についての旺盛な知的好奇心とに驚嘆させられた。日本文化を賛嘆するその文言の中には、それがたとえ日本人の聴衆を相手にした講演だったということを差し引いたとしても、いささか点数が甘すぎるのではないかと思われる処、私としては同意しがたい見解や解釈も含まれてはいるが、いたるところに散りばめられた鋭い洞察ときわめて自覚的な方法論的態度が開く鮮やかなパースペクティブによって、何度もこちらの思考が刺激され、その度に本を閉じては、しばらく思索に耽るという知的に充実した愉悦的時間を過ごすという贅沢を味わうことができた。
 今回K先生に特にお願いして送っていただいた同書の邦訳(中央公論新社、二〇一四年)と原書とを併せて読み直しながら、同書についての自分の感想を改めて文章として残しておこうと思う。














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