内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

沖田×華の『お別れホスピタル』とそれを原作としたNHK ドラマについて

2024-03-09 23:59:59 | 読游摘録

 子供の頃にはまわりの友だちと同じ程度には漫画を読んでいた。大人になってからはまったく読まなくなった。別に嫌いになったわけでもなく、つまらなくなったからでもなく、他の本を読むのに忙しくなったので、知らぬ間に遠ざかってしまっただけである。
 以来半世紀、たまに読んだことはあってもあまり記憶にも残っておらず、今手元にある漫画といえば、佐々大河の『ふしぎの国のバード』(電子書籍版)十巻とその仏訳 Isabella Bird, femme exploratrice(紙版、同じく十巻)だけである。これも授業でイザベラ・バードのことを取り上げたとき、学生たちに紹介するために読んだのがきっかけで、漫画そのものに特に興味をもったわけではなかった。
 何年か前にNHK のテレビドラマ『透明なゆりかご』をオンデマンドで観て、いたく感動し、DVD も購入し、その原作である沖田×華の同名漫画の第一巻も読んだ。ドラマの方はこれまでに全回を少なくとも十回は観ているが、漫画のほうは第一巻のみで、後続の八巻を読むことはなかった。
 ところが、先月十八日の記事で一度話題にしたドラマ『お別れホスピタル』(全四回)を観た後、原作の同名漫画(全十一巻)の電子書籍版をすぐに購入し、二日で全巻読んだ。それくらい強く引きつけられるものがあった。やっぱり、他人事ではないからだと思う。自分の身にいつ同じようなことが起こらないとも限らないなと思いながら読んだ「カルテ」が少なくなかった。
 テレビドラマの方は、療養病棟(終末期医療病棟、つまり、そこから退院する患者はほとんどなく、最期を迎える病棟。家族の見舞いもほとんどない患者も少なくない)の患者たちそれぞれとその家族、現場の看護師と医師たちと彼女ら彼らとの関係を丁寧に温かく表現していて、それはそれでとても良かったのだが(最終回の終わり方からして続編が期待される)、現場の深刻な問題や当事者たちの心の闇の部分はほとんど描かれることはなかった。
 それに対して、漫画の方は、その闇の部分も正面から取り上げていることも多く、より現実に肉薄している。二日で一気に全巻読んだけれども、その間、何度も死について考えた。しかし、それは、何か暗澹とした思いに沈むということではなく、あれこれの死に方について好悪を抱くということでもなく、死に対して怖れや慄きを感じるということでもなく、どのような死に方であれ、死が来るときは来る、それ以上でもそれ以下でもない、そういう不思議に静かな気持ちをもたらしてくれた。