(3) について
「直ちに健康に影響がない」という意味について。
放射線による人体への影響には、急性障害と晩発性障害の2種類がある。(その他、遺伝的影響というのもある)
(これは、
先日の毒の話と同じ)
急性障害とは直ちに健康に影響が出るような種類のもので、放射線によって体の細胞が直接的ダメージを受けて死んでしまい、その結果命に関わるような症状が出るもの。
たとえば、小腸の柔突起と呼ばれる栄養を吸収するための細胞が死んでなくなったり、血液を造る骨髄の細胞が死んでしまったり、といったもの。
一般人がこのレベルの放射線を受ける可能性はほとんどない。
他方、晩発性の障害とはガンの発生が主なもの。
細胞全体が死んでしまうようなレベルではない量の放射線であっても、細胞の遺伝子を傷つけることになる。
元々、体の細胞は常に入れ替わっており、古い細胞は死んで新しい細胞が生まれてきている。
その際には細胞分裂によって新たな細胞が生み出されているわけだが、細胞分裂の際には、設計図に当たる遺伝子(DNA)をもとに、同じ細胞をコピーして作り出している。
遺伝子が放射線を浴びると、その一部が壊れてコピーミスが発生してしまう。
ただし、人間の細胞はコピーミスを前提とした修復機能を持っており、多くの場合ミスを修復して問題なく細胞分裂を進める。(コピーミスの補完機能)
万一、修復機能をすり抜けて間違った設計図に基づいた細胞が発生した際には、NK細胞というリンパ球の一種が出てきて、その細胞(たとえばがん細胞)を消してしまう機能を持っている。(問題のある細胞の消滅機能)
しかし、放射線によってコピーミスが大量に発生してしまうと、補完機能や修復機能の能力では追いつかなくなり、がん細胞が残って増殖を初めてしまう。
これは、放射線を浴びた量が多いほど可能性は高まるが、では、どの程度の線量を浴びた場合に影響が出てくるか?ということについては議論がある。
ガンの発生の影響は統計的なものであり、多くの線量を浴びて何ともない人もいれば、少し浴びた結果としてガンになる人もいる。
これはタバコを吸う人が肺がんになるかどうか?ということと同じ。
したがって、影響を調べるためには多くの人のサンプルが必要になる。
放射線の人体に及ぼす影響については、広島や長崎の核兵器被曝者のデータと、チェルノブイリ事故の際のデータが主なもので、それによると、100mSv(ミリシーベルト)がガンの発生が有意に増加するポイントだと言われている。
では、100mSv以下の被曝の場合にはどうか?ということが問題になる。
これには2つの説がある。
・100mSv以下では影響はない(ガンの発生は増えない)←影響にはしきい値がある
・100mSv以下でも被曝線量に比例して影響が出る←しきい値はない
上記の2つの説についてはいまだに論争のあるところであるが、一般人の放射線被曝量の基準においては、「安全側に見た方が良い」ということで、被曝線量と発ガン率は比例する、という説に基づいて作られている。
この説によると、10mSvの被曝があった場合には、100mSvの場合の1/10の影響がある、ということになる。
話を戻すと、「直ちに健康に影響がない」ということは、「後々影響が出てくるかもしれないが分からない」ということを言っていることになる。その意味では、言葉を正しく使っているとも言える。
病院での検査とは異なり、原発事故による放射線被曝には何のメリットもないわけで、被曝はなるべく避けた方が良いのは当たり前のこと。
しかし、福島に住まわれている人は、被曝のリスクと、他県への避難によるデメリット(職の問題、コストの問題など)を比較しなければならないという厳しい選択を迫られることになっている。
あと、放射線が細胞に及ぼす影響から自明な点として、若いほど影響が大きい、というものがある。
これは、若いほど(成長に伴う)細胞分裂が盛んなためで、逆に年をとった人への影響は小さい。
したがって、避難の際にはまずは妊婦や乳幼児を優先して避難させるべきで、年寄りの人はあまり気にする必要はないということになる。