見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

出発は日本橋から/江戸の醍醐味(荒俣宏)

2008-05-28 23:58:27 | 読んだもの(書籍)
○荒俣宏『江戸の醍醐味:日本橋・人形町から縁起めぐり』 光文社 2008.5

 中央区日本橋にあるロイヤルパークホテル発行の雑誌『ROYAL PARK HOTEL』1997年7月号~2008年4月号に連載された街歩きコラム。ロイヤルパークホテルなんて知らないなあと思って、サイトを検索してみたら、今年、開業20周年だそうだ。老舗の多い同地域では、まだまだ新参者だろう。その新参者が、こういう企画を実施することに意味があると思う。

 本書は「経済と流通」「交通と建築」「名物と老舗」「工芸と生活」「祭りと遊び」の5つの章に分かれ、日本橋・人形町界隈を中心に、東は木場・亀戸、西(北)は神田・湯島まで足を伸ばす。東京下町生まれの私には、懐かしい場所ばかりだ。「かきがらちょう」も「れいがんじま」も「えいたいばし」も、私は文字より先に、親戚のおじさん・おばさんの会話で、耳から覚えた地名なのである。

 いちばん興味深く読んだのは、食にかかわる老舗探訪。榮太樓の「梅ぼ志飴」(高価な有平糖を庶民化したもの)や円形の「金鍔」は、創業者の細田安兵衛が発明したものだそうだ。安兵衛は、河鍋暁斎の自信作『枯木寒鴉図』を破格の百円で購入(先日、京博で見た)。「そんな名画とともにお菓子を味わえる」という記述からすると、この作品も、ふだん榮太樓本店の喫茶室で見られるのかしら。行ってみたい。

 霊岸島(新川)の梅花亭の「銅鑼焼き」も食べてみたい。親子丼の「玉ひで」は、上司に連れて行ってもらって覚えたお店である。なつかしい。醤油の「ヤマサ」マークの由来が、「キ」を寝かした「サ」であることや、「ちくま味噌」が信州の千曲とは無関係で、伊勢国乳熊郷によることは、初めて知った。

 築地本願寺が伊東忠太の「ふしぎ建築」であることはあまりにも有名だが、忠太は湯島聖堂と神田神社の設計にも関わっている。どちらも、関東大震災で焼失した後、鉄筋コンクリートで復興された。多くの反対もあったが「木造建築以上に木造らしいイメージ」が実現されている。そして、空襲で焼野原と化した神田の台地にあっても神田神社は焼け残り、人々に戦後復興の希望を与えたという。見た目の奇抜さばかりが強調されがちな伊東忠太の建築観を考える上で興味深い。先日の木下直之先生の講演(明治初年、博覧会会場として使われた当時の姿そのままの湯島聖堂)も思い出された。

 いずれも、ちょっと調べれば分かる程度の知識なのかもしれないが、「何でも面白がる」著者の興奮が読む者に伝染するようで、楽しい本である。写真多数。

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