見もの・読みもの日記

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お腹の鳴る本/江戸グルメ誕生(山田順子)

2011-02-03 22:44:50 | 読んだもの(書籍)
○山田順子『江戸グルメ誕生:時代考証で見る江戸の味』 講談社 2010.11

 出版社も売り方を心得たもので、帯にさりげなく「TVドラマ『JIN-仁-』の時代考証を担当する著者が…」とある。教えられるまでもない。2009年秋、ドラマ『JIN-仁-』にハマった私は、いろいろ調べているうち、この山田順子さんという人物に行き当たった(→記事)。子どもの頃から時代劇が大好きで、時代考証家になりたくて、テレビの世界にもぐりこみ、CM制作→歴史クイズの問題制作を経て、気がついたら、時代考証の仕事をしていた…という雑誌『人材教育』のインタビュー記事も興味深く読んだ(とある個人ブログに紹介あり)。

 本書は、その山田順子さんが、江戸の食べもの事情について語る新著。衒学趣味に走らず、きびきびと事実を述べていく文体が好ましい。ひとくちに江戸と言っても256年間もあるので、その間の変遷もきちんと書かれている。たとえば、慶長年間の江戸は漁業の後進地帯だった。家康は摂津国から漁師を呼び寄せ、さらに関西から大勢の漁民が移住してきた。だから房総には、紀州と同じ白浜、田子、勝浦などの地名があると聞くと、目からウロコが落ちる思いである。また、江戸初期は砂糖は輸入品、酢と醤油は大阪方面から仕入れたものしかなかったので、三代家光の頃、ようやく江戸っ子好みの「甘くてしょっぱい」味が誕生した(そうそう、蕎麦つゆはこれでなくちゃ)。

 将軍の食事、遊女の食事、長屋住人の食事など、職業や社会階層によって異なる食事事情も興味深い。現在の白米飯と同じ、水で焚いた「姫飯(ひめいい)」が普及した江戸時代でも、将軍だけは蒸し焚きの「強飯(こわいい)」を食べさせられたとか。江戸前期までは、武士も町人も外食の習慣がなく、外出先で食事をするときは、先方で御馳走になるか弁当を持参したというのも、へええと思った。

 寿司、そば、天ぷら、おでん、鰻の蒲焼などが、どんな変遷を経て、今の姿になったかという「各論」は、とりわけ興味深い。仕事帰りの電車の中で読んでいると、今夜の夕食は蕎麦にしようか刺身にしようか、いや両方食べたいなど、千々に思い乱れてしまう。菓子屋は、意外と今に伝わっていないんだなあ。「おてつ牡丹餅」とか「永代団子」「今坂餅」などの江戸の銘菓も気になる。

 意外に「江戸グルメではない」ものもあって、スタンダードな醤油だれの煎餅は、明治以降、江戸と草加で商品化されたらしいが、ルーツは不明なのだそうだ。また、信州味噌の江戸への出荷が始まったのは関東大震災のとき、というのにもびっくりした。

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