見もの・読みもの日記

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始原へ遡る/建築史的モンダイ(藤森照信)

2011-04-30 01:29:28 | 読んだもの(書籍)
○藤森照信『建築史的モンダイ』(ちくま新書) 筑摩書房 2008.9

 いや相変わらず面白いなあ、藤森先生。もともと近代建築史が専門だった著者が、日本の近世や中世の古建築についてコメントしていることには気づいていたが、いつの間にか、中世ヨーロッパ建築、初期キリスト教建築に関心を広げ、ローマとギリシャとエジプトは軽くすませ(著者の表現)、さらにその先の新石器時代の建築(!)へと遡り、人類の「建築的想像力」の始原まで探究を進めている。おそるべき「力技」である。

 その「始原への旅」の途中にも、いろいろと興味深い寄り道モンダイがころがっている。たとえば、宗教的施設のタテヨコ問題。著者によれば、初期キリスト教会は円形だったと思われるが、次第に縦長(バシリカ式)になる。一般に宗教建築は「正方形か円形か縦長」になるのだが、日中韓ベトナムだけは横長。これは中国仏教が、祀る対象を超越的な存在と考えず、住宅(横長が基本)の形式を当てはめたためではないかという。なるほど。うまい説明だが、日本や中国でも、大きな寺院では、お堂とお堂の連なり方は「縦長」だと思う。

 日本建築の防火問題。これも面白い。大正9年、日本初の建築法を定めるにあたり、防火の項を起草したのは内田祥三だったが、江戸っ子の内田は「子供の時分から火事が大好き」だったという。えええ~。内田は、永年の火事場体験に基づき、木造家屋の表面を不燃材で覆うことを義務づける。結局、延焼は免れないが、延焼のスピードは鈍る。その間に人は逃げることができる。

 このほか、居間の成立(大正期に生まれ、戦後に間取りの中心となった)、茶室における炉(洗練された文化空間に火を持ちこむことの前衛性)、引っ張りに耐える鉄筋コンクリート、長崎の煉瓦のルーツなど、興味の尽きない問題が満載である。「私は、けっして自分の関心を計画的に配置したことはなかった」というのは「あとがき」にある著者の言葉だが、探究心が次の問題を呼び寄せる。こういうのが、研究者人生の醍醐味だと思う。

 「超高層ビルは不滅」というのも、びっくりする話だった。9.11事件の発生まで、世界中でこれまでに生まれた超高層ビルで、倒壊や焼失、建て替えによって、この世から消えた例はほとんどなかった。だから建築界では「超高層ビルは不滅である」と、なんとなく信じられていたという。専門家にそう告白されると、かえって素人のほうがびっくりする。そうなのか。じゃあ、今、私が目にしている新宿の超高層ビル群(東京育ちの私には非常になじみ深い風景なのだ)は、周囲の風景がどう変わるにせよ、50年後、100年後もあのまま立ち続けているのか…。ヨーロッパの街並みの中に残る中世の教会みたいに。

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