見もの・読みもの日記

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謎解き鳥羽僧正/鳥獣戯画がやってきた!(サントリー美術館)

2007-11-14 01:36:10 | 行ったもの(美術館・見仏)
○サントリー美術館 開館記念特別展『鳥獣戯画がやってきた!-国宝「鳥獣人物戯画絵巻」の全貌』

http://www.suntory.co.jp/sma/

 絵巻は面白い。ぼうっと眺めるだけでも面白いが、誰が、何のために描いたのかなど考え始めると、なお面白い。そんな絵巻の楽しみ方を教えてくれたのは、黒田日出男氏の著書『謎解き伴大納言絵巻』(2002.7)であり、続いて『吉備大臣入唐絵巻の謎』(2005.10)も出た。

 展覧会では、2006年10月の出光美術館『国宝 伴大納言絵巻展-新たな発見、深まる謎-』が、黒田氏の名著に、最新の光学的調査の成果を加えて、「考える楽しさ」「発見の喜び」を打ち出した企画となっていた。今回の『鳥獣戯画』展もそれに近い。

 京都・高山寺に伝わる国宝『鳥獣人物戯画』は、甲乙丙丁の4巻からなる絵巻物である。「鳥獣戯画」と聞いてすぐに我々が思い浮かべる、ウサギ・カエル・サルなどを擬人化して描いた図は、全て甲巻。乙巻は、牛・馬・山羊など主に四足の獣を描く。甲巻のウサギやカエルのように、後ろ足で立ち上がったり、着物を着たりはしないが、表情はどことなく人間っぽい。子どもの頃に慣れ親しんだ、手塚治虫の描く動物みたいだ。

 丙丁の2巻には、動物はほとんど登場せず、僧俗の人間たちの滑稽な姿態が、きわめて即興的に描かれる。筆づかいは丙巻のほうが、呆れるほど大胆で楽しい。どちらも甲乙巻とは別人の筆と思われる。本展では、各巻の前半を前期(~11/26)、後半を後期(11/28~)に展示するので、2回足を運べば全場面を見ることができる。

 興味深いのは、このほかに後世の摸本や断簡があるだけ集められていることだ。それらを見比べると、今の『鳥獣戯画』の姿が、かつてのままではないらしいことが分かる。錯簡(順序の入れ違い)や散逸箇所があるのだ。もう一度、原本をよく見ると、料紙の長さが一定でない。切り継ぎが行われた形跡なのではないかと疑われる。『探幽縮図』なんて、普段は、おお~狩野探幽の筆か~とかしこまってしまうが、立派な史料的価値があるのだ、と再認識した。

 もうひとつの楽しみは「鳥獣戯画の系譜」と題された、白描図と擬人化された動物たちの特集。奈良時代の『墨書土器』には生き生きとしたサルの顔が描かれている。密教の図像は、本来、厳格な儀軌を守らなければならないのだが、鳥羽僧正覚猷は、従来にない不動明王像を生み出し、これは「鳥羽僧正様」と呼ばれたそうだ。住吉広行の『年中行事絵巻』摸本に、小さく「鳥獣戯画」っぽい図があるのは、よく見つけたものだと感心(展示替リストの内側に写真図版あり)。

 ぎょっとするのが『勝絵絵巻』。前半に男性の陽物比べ、後半に放屁合戦を描いたもの。まさかと思った前半が堂々と広げられていた。ネットで検索してみたら「誰もが足早に通り過ぎる」とあったけれど、私が行ったときは、程よく混んでいたので、前後の観客もゆっくり眺めていた。三井記念美術館の所蔵。ある個人ブログに、学芸員の話として「そこ(三井)では前半部分は展示する予定はないそうです」とあったのに笑ってしまった。ハイソが売りの三井じゃ展示できないだろう。サントリー、よくやったなあ。

 最後に、サントリー美術館のお宝『鼠草子絵巻』が出ている。なかなか全巻(一部ずつだけど)見る機会はないので、嬉しかった。なお、『鳥獣戯画』の断簡が全て見られるのは11/28~12/3の間。一度しか行かないなら、ここが狙い目である。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
本日、行ってきました! (鴨脚)
2007-12-03 20:43:00
今頃の書き込みで失礼します。

>『鳥獣戯画』の断簡が全て見られるのは11/28~12/3の間。

と、教えていただいたので本日慌てて見て来ました。
甲巻の3つの断簡と丁巻の断簡?を揃って見ることができありがとうございます。
特に初めて拝見した益田家旧蔵本は、3つの断簡を繋ぎ合わせたとありますが、本当にそう言われなければわかりませんでした。
こうして並べてみると、甲巻の断簡は、模本もあるのでほぼ間違いないと思いましたが、丁巻の断簡は紙質が丁巻とはかなり異なるように見え、別の伝来を考慮しても丁巻から脱落したとはかなり疑問に(筆致は良く似ていますが)感じました。

今回の展示は、来場者にも復元案を考えてもらおうという意気込みが感じられて良かったです。

あと件の鼠草子ですがミュージアムショップで絵本を買ってしまいました。
1982年に集英社から吉行淳之介訳で出ていますが、断然こちらの方が面白くて良くできています。
いや~通しで眺めてみると本当に面白いですね~。
特に最後に描かれる高野山奥の院の屋根の先が、猫のシルエットになっいて、しみじみと終わるはずなのに大笑いしました。
(これは今回気が付きました)

また、面白い展覧会のレポートに期待しています!
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忘れてました。 (jchz)
2007-12-05 21:35:46
鴨脚さん、こんにちは。

>『鳥獣戯画』の断簡が全て見られるのは11/28~12/3の間。

なんて、自分で書いておいて、すっかり忘れてました…。このところ仕事が忙しかったので、仕方ないか。

そうそう、「鼠草子」の最後のシーン(猫のシルエット)は洒落が効いていて笑いました。サントリー美術館のオンラインショップを見たら、
https://ssl1.suntory.co.jp/apl/oss/sma_shop/product/all
絵本は完売のようです。すごい人気ですね!


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