見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

夢に続く道/聖地寧波(奈良国立博物館)

2009-07-23 23:41:38 | 行ったもの(美術館・見仏)
奈良国立博物館 特別展『聖地寧波―日本仏教1300年の源流~すべてはここからやって来た~』(2009年7月18日~年8月30日)

 古来、日中交流の窓口であった港湾都市・寧波(ニンポー)には、むかしから関心があったが、初めて訪ねることができたのは、2007年のこと。ただし諸事情あって、天童寺や阿育王寺を観光できなかったことは、返す返すも悔やまれる。勤め人はつらいのだ。でも普陀山も行ったし、天台山も行った、という日本人は(僧職でなければ)あまり多くないと思う。

 すっかり頭の中を中華モードにして会場に飛び込んだが、冒頭を飾るのは、国内所蔵の名品。赤い唇が慕わしい兵庫・一乗寺の最澄像(平安時代)、初めて見る岐阜・長瀧寺の善財童子立像(図録解説によれば、南宋時代→ということは、中国で造られ、請来されたということか!)など。博多遺跡出土の銅銭にパスパ文字を見つけたときは、昨日(京博:シルクロード 文字を辿って)の続きみたいで興奮した。

 京都・清凉寺の釈迦如来立像(北宋時代)は、何度か拝観にうかがっているが、こんなふうに至近距離で、多様な角度から眺めるのは初めて。先細りのしなやかな指先が印象的だった(仏像の特徴とされる曼網相=水かきがない!)。宋代は、貴族文化から庶民文化への交替期として捉えられるのが常だが、「庶民」といっても、この如来像から感じられるのは、特権的で、洗練された都市住民の趣味である。

 中国・浙江省博物館からは、多数の優品が出陳されている。私の一押しは、杭州雷峰塔の地下から出土した銅製鍍金の釈迦如来坐像。蓮華座を支えるのは、両手両足(?)を左右に跳ね上げ、体をくるくるとねじった1匹の龍。この楽しい造形、どこかで見たような気もするが、定かではない。杭州も行ったんだけどな…。銀製の阿育王塔は、四面の仏伝図の精巧さにため息が出る(→写真:中国語サイト。10月から、台湾でも展示されるらしい)。

 しかし、この展覧会のために中国から請来した文物は意外と少ない。このあと、宋元の仏画の名品が続くが、いずれも日本国内に伝来したものだ。陸信忠筆『仏涅槃図』(奈良博所蔵)が初めて(?)見られて嬉しかった。クリスマスツリーのような沙羅双樹といい、踊る2人の胡人といい、どこか楽しい涅槃図である。

 西新館に移って冒頭の展示室に、楊貴妃観音がいらっしゃった。泉涌寺では、ほぼ正面から拝観することしかできないが、少し斜めから拝すると、高い鼻梁、切れ長の目、豊かな頬のラインが強調されて美しい。背の丸め具合、うつむき加減も絶妙。あと、やっぱり長い指の美しさが際立つ。大きな扇形の宝冠の後ろには、孔雀の羽根のような飾りが、波打つようにたなびいていることに初めて気づいた。この飾りは、なぜか、図録やチラシの写真には反映されていない(と思う)。その向かいに「よう来たな、ワレ」とでも言いたげに片足踏み下げで座しているのが、神奈川・清雲寺の観音菩薩像(滝見観音)。逗子在住の頃に見に行ったな~。思わぬ再会に嬉しくなってしまった。

 続く展示室では、京都・大徳寺の五百羅漢図を一挙公開(82幅+江戸寛永本6幅+米国里帰り本2幅、ただし展示替あり)。これは楽しい。1点ずつ「仙人の来訪」とか「猿の供養」とか「裁縫」「剃髪」「食事の支度」など、簡単なタイトルが加えられているおかげで、ずいぶん分かりやすいと思う。見たような図柄もあるけれど、五百羅漢図のテーマって、だいたい、どのセットでも同じなのだろうか? めったにない公開ということで、コピーを抱えた研究者の姿もあり。

 続くセクションは、水陸会(中国の亡魂供養の法会)で使われる”諸尊降臨”の図様を集めており、面白かった。このへんは、かなり道教に近接していると思う。図録を見ていたら、滋賀・宝厳寺(竹生島)所蔵の『北斗九星像』(8/11~展示)が掲載されていて、これって『道教の美術』大阪会場(9/15~)でも展示が予定されているものである。さて、どっちに見に行こうかな。

 それにしても、寧波を通り過ぎた多数の人々が紹介されているのに、「天童山第一座」雪舟がいないじゃないかよーと思っていたら、最後にようやく国宝『破墨山水図』が掲げられていた(後期は『慧可断臂図』になるのかな)。雪舟が寧波を描いた画巻の摸本『唐山勝景画稿』は、肩の力の抜け具合が私好み。会場ゲートには、この画巻風景が引き伸ばされて飾られており、あたかも銭湯の富士山のように、どこか懐かしい「聖地」に人々を誘っている。

 

※展示館(新館)前のハスの花は、『寧波』展のデコレーションの一部みたいだった。地下レストランのいつものメニューもお誂え向き。最後に、こどもガイドブック「寧波虎の巻」は、国立博物館と思えないセンスのよさ。内容も濃い。図録に添えて、おすすめ。

■参考:にんぷろ:H17~21年度 文部科学省特定領域研究「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成-寧波を焦点とする学際的創生-」
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/maritime/

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