見もの・読みもの日記

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清正スーパー伝奇/文楽・八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)

2012-05-12 22:59:46 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 5月文楽公演『八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)』『契情倭荘子(けいせいやまとぞうし)』(2012年5月12日)

 『八陣守護城』は全く知らない演目で、期待していなかったのだが、めちゃくちゃ面白かった。文化4年(1807)初演。中村魚眼(魚岸)、佐川藤太の合作による全十一段の時代物だという。この二人の作者の名前も初めて聞く。文楽では、2008年に国立文楽劇場(大阪)で、歌舞伎では、2011年初春に松竹座で上演されているが、国立劇場では昭和54年(1979)9月以来の上演。そうだよね、私、記憶にないもの。

 ポスターを見て、加藤清正の話らしいということは分かったが、ほかには一切、予備知識を仕入れる余裕なく、舞台の幕が上がってしまった。舞台は京都。小田家の若君・春若が将軍宣下の勅使を迎えることになり、その準備をととのえる加藤正清と森三左衛門。…加藤正清が加藤清正なのは分かる。小田家の若君は、織田ではなくて、豊臣秀頼のことか。で、森三左衛門って誰?(→姫路藩主として知られる池田三左衛門=池田輝政らしい)

 歌舞伎や文楽で、実在の武将の名前を少し変えて登場させるのは、よくあることだが、さらに実在の(もっと古い時代の)武将の名前に置き換えたキャラが混じっているので、ややこしい。北条時政を名乗って登場するのは、どうやら徳川家康のようだ。しかも、この時政、情のある大ボスかと思ったら、一転、とんでもない奸物だったことが分かる。古典芸能にしては、ええ~というくらい展開がスピーディで、意外性に富む。ま、今回は四段目と八段目の上演で、中抜きをしているからスピーディに感じるところもあるのだろうけど。

 若い男女の初々しい恋、横恋慕する邪魔者。大奸物の野望と、それを阻む忠義の臣。親子の情と君臣の忠義の葛藤。文楽にはめずらしい忍びの者(すぐやられていた)。妖術で登場する鼠、七星剣の霊験(今ならCGを使うところ)。大海原を行く船を、横→正面に向ける大胆な演出。最後は高楼(熊本城の天守閣か)で哄笑する清正公。とにかく見どころ豊富で飽きない。面白い!

 そうか、そもそも史実の加藤清正って、帰国途中の船内で発病し、熊本で死去したのか。そこを逆手にとって、こういう面白いフィクションを組み上げてしまうのだから、江戸時代の脚本ライターの発想力はすごい。公演パンフレットの解説によると、三段目には「日本征服を目論む南天竺の道士との戦い」もあるのだそうだ。うまく脚色したら、大河ドラマとはいわないが、BS時代劇くらいのネタになるんじゃないだろうか。

 5月公演、本当は重鎮の揃う午後の部(傾城反魂香・艶容女舞衣・壇浦兜軍記)が見たかったのである。最近、人気の演目は全くチケットが取れないので、とうとう「あぜくら会」に入会することにした。これで先行チケットが取れる、と思っていたら、週末の午後の部は、あっという間に完売。ああ、住大夫さんも源大夫さんも、久しく聴いてないなー(涙)。しぶしぶ、午前の部を取ったら、こんな面白い演目に当たってラッキーだった。玉女さんとか、まだお若いと思っていたが、ずいぶん頭髪が白くなられたなあ。でも、大夫さんも三味線も人形も次世代がちゃんと育ってきてることが感じられて、たのもしかった。

 折しも、大阪市から財団法人文楽協会への補助金カット問題、およびこれに反対する著名人のメッセージが話題になっている。産経ニュースの記事に「実は文楽、東京の国立劇場公演では22年度実績で8割の入りと、人気が高い。地元では厳しい状況ですが、振興してないとはいい難いです」という一文を見つけた。全くそのとおりで、東京の文楽ファンの実感では、こんなにチケットが取りにくい状況で、「なぜお客が来ないのか」を問われるのは、狐につままれた感がある。

 公演終了後、伝統芸能情報館に立ち寄って、企画展示『琉球王朝の華「組踊と琉球舞踊」~国立劇場おきなわ収蔵資料を中心に~』(2012年2月4日~5月28日)を見てきた(入場無料)。まさに、テンペストの世界! 悲しいほどに美しい色彩。演奏者の正装は、黒朝(クルチョウ/黒い薄手の着物)とハチマチで、琉球国の官人と同じなんだ。古典舞踊を大成した踊奉行の玉城朝薫(1684-1734)という人物がいたことも知る。ああ、組踊、見てみたい。

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