見もの・読みもの日記

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お花畑の反撃/超・反知性主義入門(小田嶋隆)

2015-10-18 22:08:46 | 読んだもの(書籍)
○小田嶋隆『超・反知性主義入門』 日経BP社 2015.9

 日経ビジネスオンラインの連載コラム「小田嶋隆のア・ピース・オブ・警句」からピックアップしたもの。テーマ別に編集し直してあるが、ざっと見直したところ、2013年5月の記事がいちばん古いようだ。わずか2年半の間なのに、すっかり忘れた「時の話題」もあって、そうかーそんなこともあったなあ、と感慨にふける。

 「芝エビと称して、バナメイエビを使用していた」食品偽装問題なんで、もうきれいさっぱり忘れていた。しかし、著者のコラムが上手いのは、この事件から、別にエビの分類と呼称問題を論じるのではなくて(それも書き様によっては面白いかもしれないが)、われわれ日本人が「『いま現にそうである』ことに対して、疑いを持たないように強く動機づけられている」ことを論点にしていることだ。だから、事件自体は忘れられても、文章の面白さは残る。

 同じように、甲子園出場校の女子マネージャーが2年間で2万個のおにぎりを握った話とか、号泣議員のネタ動画とか、あったね~で片付く話もある。もうちょっと深刻な事件ととしては、ISIL(イスラム国)による日本人殺害があり、日本社会のところどころで間歇的に噴き出している民族差別や人権抑圧に対しても言及している。私は「人権はフルスペックで当たり前」とか「われら一般人の幸福は(略)お花畑の中でしか育たない」などの著者の物言いに共感する。また、教育や文部科学行政について、たびたび批判的に論じていることにも同様だ。

 なお、タイトルの「反知性主義」は、最近にわかに注目を集めている言葉で、著者は、もともと「反知性主義」を念頭において、これらのコラムを書いてきたわけではない、と「まえがき」で述べている。このへんは編集者の(売るための)ご都合主義かな、と思う。しかし、小田嶋氏のコラムには「反知性」的な人物や事件が取り上げられることが多いので、このタイトルは、怪我の功名的に合っていると思う。

 巻末には『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)の著作で注目を集めている森本あんり氏(ICU副学長)との対談が付いていて、やりすぎじゃない?と思ったら、小田嶋さんと森本さんは小中高の12年間、同じ学校で過ごした友人なのだそうだ。「あんりは」「オダジマは」という呼び合いで進む対談は、非常に面白かった。小田嶋さんがアル中から立ち直った話は初めて知った。それから、森本氏の『反知性主義』が、権威と結びついた知を疑う態度を指すものであり、パリサイ人を批判したイエスを出発点にしている、というのを読んで、俄然この本を読みたくなった。

 森本氏が、アメリカは若い国だから、キリスト教に限らず宗教的な理念形成の力が必要だった、と語ったのに対して、では日本人にとっての宗教は?(会社教がなくなった今)という話になり、案外、日本国憲法なんじゃないか、と二人が同意するのも面白かった。
 

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