見もの・読みもの日記

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絵金まつりの夜:その1~絵金蔵

2007-07-23 23:59:05 | 行ったもの(美術館・見仏)
 「土佐の絵金」の名前を、私は、いつ、誰から教わったのだったろう? もう20年も前になる学生時代、歌川国芳や月岡芳年の名前と一緒に覚えたのではないかと思う。けれど、版画という複製メディアを通じて”全国区”的に名を馳せた国芳や芳年と違って、作品のほとんどが高知に残る絵金のホンモノには、ついぞお目にかかったことがなかった。

 絵金(1812~1876)は、幕末土佐の町絵師・金蔵の通称である。贋作事件によって高知城下を追放されたのち、赤岡町(現・香南市)に住み、町の旦那衆のために、極彩色の芝居絵屏風を描いた。年に一度、須留田八幡宮の祭礼の宵宮にあたる7月14日の晩に、絵金の屏風が商家の軒先に広げられるようになったのは江戸時代末期のことだという。

 この話を聞いて以来、私はずっと南国の海辺の町に憧れを寄せてきた。けれど、社会人の生活では、なかなかドンピシャリその日に休暇を取ることができなかった。たまたま昨年、「海の日」3連休の直前に、何も予定が無いことに気づいて、旅行に出ようと思い立ち、行き先を探していたら、この「絵金祭り」が引っかかってきた。現在は、7/14-15日のほか、7月第3週の絵金祭りでも屏風が公開されているという。よし!と思ったのだが、飛行機のチケットが取れず、結局、見送ってしまった。

 今年は、昨年の教訓を踏まえ、早めに予定を立てて3連休を待っていたのだが、何と台風4号の直撃で断念。そして、1週ずらして、ようやく長年の夢が実現したのが、一昨日のことである。

 赤岡駅には3時半過ぎに着いた。ひなびたローカル線の駅舎を想像していた身には、予想外の近代的な高架駅だった。同じ列車を下りた10数人ほどの乗客は、みな絵金祭りと絵金蔵が目的と思しい。とりあえず、高架の下に下りてみたものの、どっちに歩いていっていいのか分からない(無人駅だし)。ようやく案内地図を見ていたひとりが方向を決めて歩き始めると、皆、そのあとに続いて歩き出した。

 5分ほどで「絵金祭り」の垂れ幕の下がった町の入口が見えてきた。微妙に蛇行する狭い道路の両脇には、テキヤの兄ちゃんやおばちゃんが、露店を広げ、商売の準備を始めている。やがて、小さな美術館「絵金蔵」に到着した。

 いきなり豆電球つきの小さな提灯を手渡される。「これ持って入ってください」と言われ、暗幕をめくって展示室へ。お化け屋敷か、ここは!? 第1展示室は、ほぼ漆黒の闇の中に6、7点の芝居絵屏風が立てられている。耳に聞こえるのは義太夫語りの三味線と、打ち寄せる波の音。小さな提灯の明かりでは、屏風全体を見ることができない。提灯を動かし、明かりの中に浮かんでは消える、極彩色の断片にどきどきしながら、屏風全体の構図を想像するのである。これは絵金祭りの晩だけの趣向とのこと。

 奇抜な演出にすっかり呑まれてしまったが、暗闇の中の展示品は複製である。絵金の本物の屏風は、収蔵庫に保管されていて見ることはできない。ただし、常時2点だけ「蔵の穴」という覗き穴を通して見ることができる。これもなかなか凝った仕掛けで面白い。

 小さな美術館だが、じっくり見ていたら、あっという間に5時になってしまった。ここで一時閉館のため、観客は全て外に出される。向かいの芝居小屋「弁天座」に入ろうと思ったが、満員札止めだというので、町の入口にあったラーメン屋で腹ごしらえをしてこようと思う。さっきとは違う道を、駅の方向に戻りかけたとき、にぎやかな商店街に突き当たった。行きに通ったのが本町商店街、これは本町に直行する横町商店街。絵金祭りでは、この2つの商店街に露店が並び、屏風が立てられるのである。



 目を凝らすと、正面の店先には既に極彩色の屏風が! 衝撃だった。さっきまで美術館の中で見ていたものが複製で、この”昭和の風景”の商店街の店先に、柵も覆いもなく、無防備に置かれた屏風が本物だとは、にわかに信じられなかった。しかし、にじり寄って、表装の擦れ具合を見ると、確かに古さが感じられる。



 見て行くと、数軒置きに、ぽつりぽつりと芝居絵屏風が立てられている。物見高い観光客がカメラを構えて群がっているが、地元の皆さんは、もの慣れて落ち着いたものだ。本町になく、横町だけに見られるものに、上図のような灯籠がある。前面の和紙に描かれた一見地味な色彩の絵は、これも絵金の作だという。(続く)

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