見もの・読みもの日記

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清朝陶磁の精華/静嘉堂文庫美術館

2006-10-04 23:38:33 | 行ったもの(美術館・見仏)
○静嘉堂文庫美術館 『インペリアル・ポースレン・オブ・清朝(チン)-華麗なる宮廷磁器』

http://www.seikado.or.jp/

 『インペリアル・ポースレン・オブ・清朝(チン)=Imperial Porcelain of Qing』は、訳してしまえば「清の宮廷磁器」。何の含みもない題名だが、わざわざ英語を使ったのは、「支那趣味」とか「東洋趣味」の枠を超えて、見る者全ての心を捉える清朝陶磁の魅力を表したかったのだろうと思う。

 実際、清朝陶磁の美しさは、ギリシア彫刻などと同じで、ある種の「普遍」に達していると思う。私は、つぶれたような、ひしゃげたような、「味もの」の器も好きだ。しかし、先日の『骨董誕生』(松涛美術館)でも思ったけれど、やっぱり「正統あっての味もの」である。東洋陶磁の「正統」中の「正統」、清朝官窯の美が、どれだけ圧倒的に素晴らしいかを、ぜひこの展覧会で実感してほしいと思う。

 会場に入ると、最初のケースに「青花」「粉彩」「豆彩」などの典型例が、詳しい説明付きで並んでいる。そのあとは、時代順に「康煕」「雍正」「乾隆」「嘉慶・道光」の4つのセクションが展開するが、個々の作品に説明プレートは付いていない。作品自体が雄弁すぎて、何の付け足しも要らないからだと思う。

 好きな作品を挙げていくと、康煕時代では「五彩花籠文盤」。文化の興盛期らしく、少し生硬で、素朴と洗練、様式化と写実のどこかアンバランスな加減が好ましい。この時代の赤色はオレンジ(朱)に近く、まだ薔薇色は現れない。くっきりした濃緑が印象的な五彩は「ファミーユ・ヴェルト(緑手)」と呼ばれるそうだ。

 次の雍正時代には、柔らかな緑色の美しさの際立つ「豆彩」が現れ、暖かみのある薔薇色を可能にした「粉彩」(ファミーユ・ローズ)が完成される。瓢箪と蝙蝠を配した「豆彩瓢蝠文盤」は、小ぶりで繊細な植物文が、日本陶磁の趣味によく似ていると思う(ちょっと鍋島に通じる)。

 乾隆時代の名品は、「粋」とか「精華」とかいう言葉がよく似合う。文様の輪郭や筆法もそうだが、磁器の素肌の滑らかさ・白さ・曇りなさときたら、1点の非の打ちどころもない。景徳鎮で焼いた極上の白磁を北京まで運んで染付をしたそうだ。いいなあ。少し青みがかった冷たい白に、とても惹かれる。大皿もいいが、小品もいい。

 私は、この会場から1点だけ持って帰れるなら、「粉彩瑞果実文碗」を選ぶ。広い余白に(白磁の素地の美しさ!)桃・石榴・茘枝(はじめ、大きなイチゴかと思った)を配した、安定のいい小どんぶりである。可愛らしい図柄が女性好みだ。使うなら甘味用だろう。私はこれでクリームあんみつが食べてみたい!

 ロビーに展示された「五彩封神演義図缸」は、変な人物や変な動物が描いてあって面白いので、お見逃しなく。最後に、図録『静嘉堂蔵清朝陶磁:景徳鎮官窯の美』を買ってしまった。この展覧会に合わせて制作・発行されたそうだが、今回、出品されていない作品も収録されており、静嘉堂清朝陶磁コレクションの全貌を知ることができる。ついでに来年のカレンダーも買った。今年は東博カレンダーで過ごしたが、来年は静嘉堂の名品で過ごそう。

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