見もの・読みもの日記

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闇の百鬼夜行/幻景の明治(前田愛)

2007-02-13 23:30:17 | 読んだもの(書籍)
○前田愛『幻景の明治』(岩波現代文庫) 岩波書店 2006.11

 恥ずかしながら、前田愛さんの著書を読むのは初めてではないかと思う。学生の頃、先生から勧められたのに、ついに読まなかった。でも「いつかは読もう」と思ってずっと記憶に留めていた著者である。

 それでよかったのかもしれない。私が「明治」という時代を、教科書で習った「文明開化」の栄光とともに、その裏面に隠された、さまざまな欲望、残酷、無知蒙昧などを受け入れて、重層的にイメージできるようになったのは、つい最近のことである。学生時代、ムリに背伸びをして前田愛さんの著作を読んでも、たぶん半分も理解できなかっただろうと思う。

 そう、本書に描かれた「明治」とは、「解説」に川本三郎が言うごとく、「その安定、秩序からこぼれ落ちてしまった、いわば『もうひとつの明治』」「表通りの明示に対して、裏通りの明治」なのである。

 たとえば、正統的な文学史や音楽史では、決して取り上げられることのない「民権歌謡」を論じた「飛ぶ歌」。民権歌謡とは、明治10年代、民権思想を普及する目的で作られた媒体(メディア)で、俗謡・流行歌・詩吟など、伝統的なうたいものの形式を踏まえるかたちで成立した。これを同時期の官学アカデミー界で起こった詩歌革新活動『新体詩抄』と対比させ、皮肉っぽく論ずる。

 裏通りには、しばしば百鬼が遊行する。明治20年4月20日、伊藤博文首相官邸で開かれた仮装舞踏会(ファンシー・ポール)!! 『時事新報』は、夜会に集まった貴顕紳士と夫人たちの扮装を詳細に伝えている。虚無僧あり、大僧正あり、賤の女あり。弁慶牛若、曽我兄弟あり。井上(馨か)外務大臣は三河万歳、山田(顕義)司法大臣は吉備真備、渡辺(洪基)帝国大学総長は富士見西行。すげー。日本の政治家って、むかしからこんなにバカ丸出しだったのか。

 二葉亭四迷がウラジオストックあたりで女郎屋を開いてみたいと真剣に思っていたというのは初耳。彼は、娼婦の輸出に国家的な意義を見出していたようなのである。「明治時代をつうじてもっとも真摯な個性のひとつ」である二葉亭にして、この奇妙な発想あり。著者の言うとおり、「明治国家の裏側にかくされた蔭の部分は、どこでどうつながっているのか、私たちの想像をこえたところがある」。ほんとだなあ。

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