見もの・読みもの日記

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骨董誕生/松涛美術館

2006-06-14 22:22:44 | 行ったもの(美術館・見仏)
○松涛美術館 開館25周年記念特別展『骨董誕生』

http://www.city.shibuya.tokyo.jp/est/museum/

 20代の頃は、いや、30代の頃だって、まさか自分が「骨董」に目覚めようとは思ってもいなかった。絵画や彫刻は、それなりに好きだったが、まさかね、と思っていた。それが、こういうことになるのだから、中年を超えていくのは面白い。

 日本には、古来、正統的な美意識を代表する「唐物」に対して、完璧を主張しない器物「味もの」を愛でる美学があった。この延長上に、柳宗悦の「民藝」運動があり、同世代の青山二郎や小林秀雄らによって、近代日本の「骨董」趣味が完成する。そうだな。中国にも「古玩」趣味があるけれど、これは、完璧・端正・精密の美を規範とするもので、ありようは大きく異なると思う。

 ただし、日本の「味もの」の美学にも、さまざまな温度差がある。「侘びたるは良し、侘ばしたるは悪し」と利休は言ったそうだ。柳宗悦は、生活の美を愛したが、青山二郎は、「李朝の器でも第一流のものは百万中にひとつ」と言って、美しいものとそうでないものを峻別した。骨董ビギナーの私は、今のところ、青山の言葉に共感する。

 この展覧会は、骨董の名品とともに、それを愛した人々の、さまざまなエピソードが示されていて、パネルを読み飽きない。たとえば、ワカメのようなうねうね文様が面白いミドリ色の大皿「肥前緑釉指描文」は、柳宗悦が東寺の弘法市で、たった2円で買ったものであるとか。左右に蓮花、中央に毘沙門天が描かれた3枚セットの「蒔絵厨子扉」は、鎌倉あたりの民家で風除けに使われていたもので、屑屋が4円で買ったあと、美術商の手に渡り、3、4ヶ月で1万円まで高騰したとか(え~っと、誰の旧蔵品だったかしら)。細川護立は、中国の墓陵から出土した品を飾っていて他人にいぶかられ、「どこから出ようといいものはいい」と答えたそうである。

 青山二郎、小林秀雄旧蔵の李朝粉引徳利を、松永耳庵は「酔胡」と名付けたが、青山は「タヌキの金玉」と呼んでいたとか(このネーミングは絶妙!)。上記のサイトに写真のある、唐津のぐいのみの「虫歯」も上手い。眺めていると、だんだん歯が痛くなってきそうな、神経に障る歪み具合なのだ。

 作品では、入ってすぐにある「李朝白磁長壺」もいい。白磁と言っても、生焼けの煎餅みたいな色合いをしている。離れて真横から見るよりも、間近に立って、抱きかかえるつもりで覗き込むと、なんとも言えず、色っぽくて魅力的である。

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