見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

見立ての構図/錦絵から見た幕末・明治の東アジア像(新宿歴史博物館)

2009-06-03 00:05:16 | 行ったもの(美術館・見仏)
新宿歴史博物館 『錦絵から見た幕末・明治の東アジア像』(2009年5月23日~6月21日)

 在日韓人歴史資料館館長の姜徳相(カン・ドクサン)氏が所蔵する錦絵を通して、幕末・明治における日本の東アジア観を考える展覧会。私は、同氏の著書『カラー版 錦絵の中の朝鮮と中国』(岩波書店、2007)を読んでいたので、実物を見たいと思い、行ってみた。

 姜徳相氏がこれらの錦絵を「歴史書き換え」の一翼を担ったプロパガンダとして、批判的に見ていることは、同書に詳しい。結果的にはそのとおりなのだが、私は、いくぶんの留保をつけ加えたい。近代以前の一般庶民の「歴史」認識は、今の我々とは本質的に異なるように思うからだ。幕末の錦絵には、呆気にとられるような”シュール”な図柄が多い。古代の神功皇后や武内宿禰が鎌倉武士のような甲冑姿で描かれてるかと思えば、『北条時宗蒙古を破る図』では鎧武者が黒船(!)の横腹によじ登り、これを鉄砲隊が援護している。おいおい。しかし、「見立て」こそ「歴史」認識と心得る彼らには、そもそも「時代錯誤」とか「現実離れ」という認識枠がないのではないかと思う。むろん「歴史書き換え」という感覚も。

 で、絵師は絵師らしく、民衆が「見たい」と思う「見立て」の図を、とびきりカッコよく描いてみせる。国芳描く、大鎧姿の武内宿禰は、波を蹴立てて進む軍船の舳先に厳然と立ち、ちょっと平知盛を連想させる。離れて控える武者軍団の面構えも魅力的。

 上述の図書では触れられていないが、会場で錦絵を見て、加藤清正(または清正を仮託した人物)には「富士を望む」図が非常に多いことに気づいた。特に題辞に記されていなくても、よーく見ると水平線上にうっすらと富士の姿が認められるのである。朝鮮からの「富岳遠望奇譚」については、ロナルド・トビ氏『「鎖国」という外交』に詳述。

 また、花房義質公使=市川団十郎、水野勝毅大尉=尾上菊五郎で描かれた『朝鮮済物図』(明治15年、壬午軍乱の図)を、私は単なる「役者見立て」だと思っていたが、佐谷眞木人氏『日清戦争』によれば、団十郎は、明治27年に福地桜痴の『海陸連勝日章旗』で大森公使(→早大演劇博物館浮世絵閲覧システムに画像あり※直リンク不可)なる人物を演じている(結果は大失敗)のだから、あながち荒唐無稽な「見立て」ではないのである。

 日清・日露戦争・台湾出兵の時期になると、リアルな描写力を備えた錦絵と、風刺的なポンチ絵に二分化していくように思う。あと、気になったのは頻出する虎。朝鮮の表象として、加藤清正に退治される役回りなのだが、ぐにゃぐにゃしたポーズが、妙にかわいい。水墨画の虎もいいが、錦絵の虎もいい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 三味線は近世の音色/うたの... | トップ | 巡る楽しみ/決定版・御朱印... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの(美術館・見仏)」カテゴリの最新記事