見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2017年5月@関西:三尾の山寺+仁和寺

2017-05-07 23:54:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
〇高雄山神護寺~槇尾山西明寺~栂尾山高山寺~仁和寺

 5月3日~5日は関西に出かけた。2週間前の週末にも、京都・奈良・大阪のどうしても見たい展覧会めぐりをしているので、今回は、落穂ひろい的に名所観光をしようと思ってきた。久しぶりに神護寺の宝物風入れ(当寺では「虫払い」と呼んでいる)が見たくなったので、京都駅に到着するとすぐ、JRバスで三尾方面に向かった。ちなみに、いま調べてみたら、前回来たのは2009年のことだった。

 記憶をたどりながら、長い石段を下り、橋を渡って再び登る。山門の前に作務衣姿の女性が立っていて「境内拝観はこちらの窓口です、寺宝の特別拝観はあちらの門を入った建物で受付してください」と人を捌いていた。まず書院にあがって、虫払いの寺宝を拝観する。B5用紙を二つ折にした「神護寺宝物虫払行事陳列目録」をいただく。全3室、67件の文物のほぼ名前だけ(一部年代や作者名あり)が並ぶ簡素な目録である。しかし、よく見ると室内の展示品には、ちょっとした解説パネルが添えられている。あれ?前回来たときは、こんな気の利いたものはなかった気がする。

 第1室は『稚子大師御影』など仏画多め。興味深かったのは『虫払定文書』(寛永14年/1637)で、この年は6月3日から9日の7日間にわたって虫払いが行われたことが分かり、寺宝の安全を確保するための注意事項がいろいろ記されている。そういえば、会場の書院を囲む広縁のガラス戸は全て閉め切っていた。鎌倉の円覚寺・建仁寺や大徳寺みたいに風は入れないのだな。

 第2室に『後白河法皇尊影』を発見。あれ?伝頼朝像、伝重盛像と一緒じゃないのかと思って、ちょっとうろたえる。前回、「若冲居士」の落款を自分で見つけた覚えのある仁王像には、ちゃんと「若冲筆」の説明がついていた。第3室に入ると、床の間に左から『源頼朝像』→『釈迦如来像』→『平重盛像』の順で掛けてあった。画幅の前(下)には白い布を敷いて、古鏡や舞楽面などを展示していた。頼朝像は何度見てもいい。髪や髭を一筋ずつ描くことは、江戸の浮世絵の技法と同じだ。烏帽子の立体感を黒の微妙な塗り分けで表しているのも細かい。その点、重盛像(尊氏像)にはちょっとベタ塗り感がある。ただし寺宝拝観のあと、本堂の中で聞いた説明では、アンドレ・マルローは頼朝像より重盛像が気に入った由。モナリザ来日と引き換えにフランスに渡ったというのも初めて(?)知った。なお、中央の大きな釈迦如来坐像は、緑を配した截金文様の赤い衣をゆったりまとい、照り輝くような優美な光背と蓮華座に荘厳されている。

 最後に奥の茶室で呈茶(有料)をいただいた。これも前回はなかったと思う。お茶菓子は季節にふさわしく柏餅だった。

 

 神護寺のあとは、前回同様、西明寺、高山寺を歩いてまわる。西明寺は、特に何もないのだけれど、青紅葉の庭園が美しい。高山寺の石水院は、なんだかとても人が多くてびっくりした。近年、東京でも京都でも鳥獣戯画の展覧会があったから、あれで一気に知れ渡ったのかしら。鳥獣戯画の模本らしきものが展示されたケースには、たくさん人が張りついていた。私の好きなわんこ(伝運慶作・木造犬)に張りついている人はいなかったけど、寂しがりな顔をした子だから、まわりが賑やかなのはいいことだ。



 最後に御室・仁和寺に立ち寄って、非公開文化財特別公開の金堂と経蔵、それに霊宝館を見て、関西旅行の1日目を終わりにした。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

茶碗と茶の湯三昧(東京近美→東博→出光)

2017-05-07 08:39:25 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立近代美術館 企画展『茶碗の中の宇宙 楽家一子相伝の芸術』(2017年3月14日~5月21日)

 今年のゴールデンウィークは海外脱出をあきらめた。その分、国内の展覧会を見て歩いているので、とにかく雑駁でもいいからレポートを書いておこうと思う。この展覧会は、2月に京都で見てきたのだが、東京展も見ておきたくて出かけた。冒頭を飾っていたのは、長次郎の二彩獅子。背後には、暗闇に浮かぶ新月のような、金環食のような細い円環の写真があって、キャプションをよく見たら「万代屋黒(もずやぐろ)」の口縁部(たぶん)のアップだった。導入部は悪くない。
 
 そのあと、長次郎の茶碗が並ぶ。めずらしく赤楽茶碗の「太郎坊」と「二郎坊」2件。黒は「大黒」「シコロビキ」「面影」「禿」「杵ヲレ」「太夫黒」「本覚坊」と、たくさんあって嬉しいが、長次郎らしい深い「黒」を感じる茶碗が少なくて(本覚坊くらいか)ちょっと物足りない。次の田中宗慶の説明は、京都展ではあまり注目していなかったので面白かった。実質的な楽家の祖でありながら、楽家の系図からは抹消された人物であるそうだ。装飾性の少ない黒楽茶碗「天狗」「いさらい」などが好き。

 そして、道入(ノンコウ)のキラキラ茶碗が長い展示室に縦一列に並んだところは圧巻! 強めの照明が釉薬の輝きを引き立てる。光悦の「紙屋」は初めて見たような気がする。椰子の実を二つに割ったような豪快なつくり。「冠雪」という白楽茶碗もあるのだな。後半、当代の吉左衛門の作品を特集する部屋は、茶碗をひとつずつ収めた展示ケースを4列×4列に並べて、東博・法隆寺宝物館の金銅仏の展示室を思わせる構成になっていた。私がいいなと思ったのは、どこか色っぽい「桂舟」と、シュッとした縦長の「天阿」。

 無料シャトルバスに乗車して東博へ。竹橋と上野はそんなに遠くないのだが、乗り換えが面倒なので、これはありがたい企画。都心でバスに残ることがめったにないので、車窓の風景も楽しかった。万世橋を渡ったのは何年ぶりだろう?



東京国立博物館 特別展『茶の湯』(2017年4月11日~6月4日)

 噂は聞いていたけれど、これはまた趣向の変わった面白い展示だった。室町時代から近代まで「茶の湯」の美術の変遷を大規模に展観する企画。元来、喫茶は中国からもたらされたという記憶を新たにし、「足利将軍家の茶湯-唐物荘厳と唐物数寄」から始まる。壁には南宋絵画がずらりと並んで、あわあわしてしまう。伝・馬麟筆『寒山拾得図』(所蔵者不明)は知らない作品だった。伝・梁楷筆『寒山拾得図』(MOA美術館)も好きだ。『青磁下蕪花入』(アルカンシエール美術財団)は端正で艶麗。美術品によって伝えられる「南宋」は、一種の理想郷である。静嘉堂の曜変天目は、このセクションにあったと思うが、何度も見ているのであまり注目せず。

 15世紀末には「侘茶」が誕生し、安土桃山時代に大成される。井戸茶碗の魅力はいまいちよく分からないが、桃山の茶陶は好きだ。長次郎の赤「白鷺」「無一物」「一文字」、黒「ムキ栗」「万代屋黒」「俊寛」。ああ~申し訳ないが、東近美よりラインナップがいい。「白鷺」「万代屋黒」は『茶碗の中の宇宙』京都展で見たもので、東近美は争奪戦に負けたのかなあ、など裏事情を想像した。長次郎の茶碗は、展示ケースに解説パネルをつけず、少し離れた壁につけていたのは、解説にとらわれず作品に集中する工夫としていいと思った。あと、伊賀焼の『破袋』。同じく伊賀花入の『生爪』は知らなかった。織部もいいなあ。志野茶碗「卯花墻」は、ああ来てる来てると思って見た。

 江戸時代は、小堀遠州と松平不昧を取り上げる。古染付、京焼の登場。ここでまた、南宋絵画の『李白吟行図』(東博)に出会ってびっくりしたが、これは松平不昧の旧蔵品なのだそうだ。最終章は「近代数寄者の眼」として、平瀬露香、藤田香雪、益田鈍翁、原三渓、畠山即翁をパネルで紹介し、前五者のコレクションを順次展示する。私が行ったときは、益田鈍翁の期間で、名前の由来となった黒楽茶碗「鈍太郎」(表千家六代覚々斎作)を見ることができたのが嬉しかった。

 この日は『平成29年新指定 国宝・重要文化財』にも寄っていく。前田玄以宛の「明国箚付」(文書)が興味深かった。彫刻では深大寺の銅造釈迦如来倚像。そうか、キミも国宝になったのか、と思って眺める。

出光美術館 『茶の湯のうつわ-和漢の世界』(2017年4月15日~6月4日)

 和物茶碗は、茶の湯世界でいわれる「一楽、二萩、三唐津」に注目。長次郎の「僧正」とか道入の「此花」とか、出光コレクションだから自館優先は当然だが、近美は展示品確保に苦労したんじゃないかなあとここでも思う。面白かったのは、松平不昧の道具の目録帳である『雲州蔵帳』の展示。これ出光美術館が持っているのか。さすがだ。(できるだけ原本に近い)文献を持っているのは強みだと思う。現代のポストイットみたいに竹の栞(?)が挟んであるのが面白かった。ほかに京焼、唐物、高麗、安南のうつわも。さらに「煎茶の世界」が取り上げられているのは、近美や東博にない独自色である。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする