見もの・読みもの日記

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絵画に残された街の姿/19世紀パリ時間旅行(練馬区立美術館)

2017-05-24 23:21:19 | 行ったもの(美術館・見仏)
練馬区立美術館 練馬区独立70周年記念展『19世紀パリ時間旅行-失われた街を求めてー』(2017年4月16日~6月4日)

 フランス文学者の鹿島茂氏による「失われたパリの復元」(『芸術新潮』連載)をもとに、19世紀パリの全体像に迫る展覧会。300件に及ぶ展示品の、たぶん半分以上は「鹿島茂コレクション」(鹿島先生所蔵)である。同館は2011年に、鹿島茂コレクション1『グランヴィル』展を開催し、今後も鹿島茂氏の蒐集作品群を連続的に展覧する予定だと宣言した。その後、いくつかの企画は見逃していたが、今回、久しぶりに見に来ることができた。

 「19世紀パリ」というタイトルだが、冒頭に展開するパリの風景はもっと古い。いや、出品リストを見直したら、展示品(石版画、地図など)の刊行年は19世紀後半だが、描かれているのはローマ帝国支配下のパリ(1-3世紀)だったり、名君とうたわれたフィリップ2世治下のパリ(12-13世紀)だったりする。シテ島の左岸から右岸へ、市街が少しずつ広がっていく。数十年~百年近い間隔を置いて、ほぼ同じ視点で描かれた風景画がけっこう残っていて、建造物が稠密に、巨大になっていく様子がよく分かり、面白い。繰り返すが、展示品はほとんどが19世紀後半の印刷物だが、何らかの典拠となる図版はあったのではないかと思う(18世紀刊行の地図もわずかにあり)。

 続いて、もう少し都市の内部に入って行き、パリの景観とともに人々の風俗を描いた絵画(1枚摺りの版画や挿絵)を取り上げる。「パリに対する好奇心」は、大革命(1789年)による大変動と街並みの崩壊により、ノスタルジーを伴って加速する。さらにナポレオン3世の時代(第二帝政、19世紀後半)には、セーヌ県知事オスマンによるパリ大改造が行われた。変わりゆく現実に抵抗するように「失われたパリ」が絵の中に残されたのである。

 私はフランスの歴史や文化にそんなに詳しくないが、描かれた風俗やファッションを見ていると、ああ「三銃士のパリ」とか「椿姫のパリ」とか「レ・ミゼラブルのパリ」とか、誰でも知っている文学作品が思い出されて楽しかった。18世紀以前のパリを描いた風景画が、横長の画面に十分な余白を取り、壮麗なモニュメントの全体を描いているのに対して、19世紀の都市風景画は、画面を縦長に使い、石造の高い壁の間の、光の届かない路地を描いたものが多いように思った。この頃、都市の姿、あるいは都市に対する感覚が、根本的に変わったのではないかと思う。

 ちょっと嬉しかったのは、七月王政(1830-48)前後の風刺画がかなりまとまって出ていたこと。所蔵者は伊丹市立美術館とあった。しばらく行っていないけど、大好きな美術館なのである。京都服飾文化研究財団が所蔵する19世紀のパリ・モード(女性用ドレス)6点も見ごたえがあって楽しかった。

 世紀末を跨いでも、パリの変貌は止まらない。1899年、1900年には連続してパリ万博が開かれ、エッフェル塔が建設され、地下鉄が開通する。アンリ・ルソー、ドガ、ロートレック、ミュシャなどの作品で華やかなフィナーレ。かと思ったら、20世紀のはじめ、浮世絵に魅せられたフランス出身の版画家アンリ・リヴィエールが制作した『エッフェル塔36景』が非常に面白かった。新潟県立近代美術館・万代美術館所蔵とのことで、もしかしたら見たことがあるかもしれないが、全36点まとめてみることができたのも、思わぬ得をした気分。最後は佐伯祐三の油彩画で、納得の〆めだった。

 併設のミニ展示『鹿島茂コレクションで見る「レ・ミゼラブルの世界」』も楽しめた。展示を見ながら思っていたのは、いずれ『ブラタモリ』海外編を撮ってくれないかなあということ。地形や地質学的考察と人文地誌的考察をまじえて、日本国内と同様、海外の都市も紹介してほしい。探せば、案内人はいると思うんだけど。
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