見もの・読みもの日記

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丹後の仏教美術(京博)、忍性&なら仏像館リニューアル(奈良博)

2016-08-04 23:39:22 | 行ったもの(美術館・見仏)
京都国立博物館 常設展(名品ギャラリー)+特集陳列『丹後の仏教美術』(2016年7月26日~9月11日)

 仕事で京都に行ったので、京博に寄った。2週間前に訪ねたばかりだが、3階以外はすっかり展示が変わり、2階の1室と2室(いつもは絵巻と仏画)が「丹後の仏教美術」特集陳列になっていた。1室は肖像画と絵巻。麻呂子親王の鬼退治を描いた『等楽寺縁起絵巻』(鬼の体色が赤と緑)と『斎明神縁起絵巻』(鬼の体色が赤と青)が面白かった。

 2室も絵画資料で、なかなか見応えあり。陸信忠筆の款記のある『十王図』二幅(元時代)、めずらしい『倶生神像』(蓮華の上に立像、南北朝時代)は縁城寺所蔵。本願寺の『仏涅槃図』(南北朝時代)には、モンゴル風の人物が描かれている。釈迦の足元の赤い服に帽子をかぶった人物かな。画面左下にも、つば広帽子から茶髪の巻毛が垂れている人物がいる。テナガザルとニホンザル?みたいな動物もいた。智恩寺所蔵『地蔵菩薩像』は、海中から湧き出る雲の中に蓮華座が載り、赤い衣の地蔵菩薩が座す。成相寺の『紅頗梨阿弥陀像』は静謐で美しかった。

 3室「中世絵画」は「狩野派の扇絵」特集。軸装のほか、扇面散らし屏風が2件。中国趣味の画題が多いように感じた。4室「近世絵画」は「やまとなでしこ-江戸時代のアイドルたち-」。久しぶりに『舞妓図屏風』を見ることができてテンションが上がった! 自分のブログを検索したら、2008年10月の常設展で初めて見たものだ。髪のほつれを執拗に描いているのは、動きの表現なのかな。少し離れて見ると、舞妓の姿態が二人ずつ「組」になることを意識しているのが分かる。河鍋暁斎筆『大和美人図屏風』は、以前、京博の『暁斎展』の図録の表紙になったもの。5室「中国絵画」は「中国の草虫図」。

 1階に下り、特別展示室も「丹後の仏教美術」。板列八幡神社の女神坐像2躯(木造)は、霊妙で品があって美しかった。彫刻展示室は、奥の一角が特集陳列。ポスターに使われている千手観音立像(縁城寺、平安時代)は、現物だと写真よりもバランスの悪さが目立ってしまう。金剛心院の如来立像は威厳と重量感があって、平安初期の薬師如来の標準タイプ。成相寺の小さな金銅仏・菩薩半跏思惟像は愛らしかった。成相寺には二回行ったけど、お会いしたことがあったかしら?

奈良国立博物館 特別展・生誕800年記念特別展『忍性-救済に捧げた生涯-』(2016年7月23日~9月19日)

 奈良生まれの良観房忍性(1217-1303)の生誕800年を記念し、ゆかりの寺院の名宝・文化財を一堂に集めた展覧会。私は鎌倉仏教の人々の中では、真言律宗の叡尊と忍性がとても好きなので、この展覧会は非常に嬉しい。会場に入ってすぐ、鼻と口の大きい、親しみやすい顔立ちの忍性菩薩坐像(極楽寺)があり、朝いちばんだったので、黄色い衣の僧侶が現れて、像の前でお勤めをしていた。「ナム興正ボサ(叡尊のこと)」と何度か唱えた後、「ナム忍性ボサ~」を繰り返し唱えていた。

 忍性は文殊菩薩を厚く信仰したので、会場には、文殊の仏画・仏像がたくさん揃っている。文化庁所蔵の文殊騎獅像は、もと忍性ゆかりの大和郡山市・額安寺に伝来したもの。装飾の少ない、すっきりした獅子が、高知の竹林寺のわんこみたいな獅子を思い出させた。同じく額安寺伝来の、日本現存最古の虚空蔵菩薩も密教ふうな妖しさが感じられて好き。蓮華座から左足を踏み下げているのが、体のほぼ真横にあたり、動物に跨っているように見える。絵画では、色鮮やかな南北朝時代の文殊菩薩騎獅像が素敵だった。獅子のたてがみがあごひげに見えて、こわもてである。

 山形・光明寺に伝わる『遊行上人絵』(安土桃山時代)は、当時の仏教集団による弱者救済の有様を分かりやすく描いていて、最近の世相を思い合せて、心を打たれる。貧者や病者にふるまう飯を一心に盛りつけている僧侶の真剣な表情(これが自分の為すべきことと信じている)、施しを待つ人々の、卑屈にならない、ゆったりと落ち着いた表情がよい。

 第1室の後半には、見覚えのある山の写真があると思ったら筑波山でびっくりした。忍性といえば、奈良の西大寺と鎌倉の極楽寺のイメージしかなかったが、実は常陸国に入り、筑波山のふもとの三村山極楽寺(現・茨城県つくば市、現在は廃寺)に滞在したことがあるという。初めて知った。鉾田市・福泉寺の釈迦如来立像は端正な清凉寺式で、鎌倉・極楽寺の?と思ったら違った。これは収穫。鎌倉・極楽寺からは、目元の涼しい釈迦如来立像、文殊菩薩坐像、薬師如来坐像、(説法印の)釈迦如来坐像など、揃ってお越し。極楽寺の釈迦如来坐像ときわめてよく似た九州国立博物館の阿弥陀如来坐像を並べて見ることができたのも興味深かった。

 さて、最後のお楽しみは、忍性が唐招提寺に施入した『東征伝絵巻』全5巻の一挙公開である。鑑真和上の生涯を描いたものだが、だいたい展覧会で見られるのは決まった場面ばかりなので、全体を鑑賞できるのは嬉しい。巻三の魚や鳥(妙に大きい)に守られながらの航海の図には笑った。荒海に投げ出されて、岸に流れ着き、ぐったりしている人々も妙にリアル。前後期で巻替えありなので、できれば後期も見たい…。図録の解説にいう、頭部の大きい人物描写が鎌倉・光明寺所蔵『浄土五祖絵伝』に酷似しているとの指摘はうなずける。

■奈良国立博物館 なら仏像館(2016年4月29日リニューアル)

 1年半ぶり、4月にリニューアルした「なら仏像館」をようやく見ることができた。不確かな記憶をもとに印象を述べると、中央のホールをめぐる展示室は、「地蔵」「天部」みたいな特集構成をやめたことと、構造的に見通しがきくようになったことで、「回廊」としての一体感が増したような気がする。照明や空調は劇的に改善された。ただ、中央のホール(6室)は、展示される仏像の数が減って、さびしくなった。しかも、今の展示の中心が兵庫・浄土寺の阿弥陀如来立像(裸形)で、ほかにも兵庫県の天部立像とか、中国・陝西省の石彫とか、「奈良に来た!」というインパクトが希薄なのである。やっぱりここには以前のように、秋篠寺の梵天像とか、元興寺の薬師如来立像とか「ザ・奈良」の仏像を並べてほしいと思う。
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