○東京国立博物館 特集陳列『幕末の怪しき仏画―狩野一信の五百羅漢図』
http://www.tnm.jp/jp/
『書の至宝』で大混雑の東京国立博物館に行ってきた。ただし、私のお目当ては、今週から始まった特集陳列(常設展)である。まずは上記サイトの説明を読まれたし。
――知る人ぞ知る幕末の絵師・狩野一信(かのうかずのぶ)の五百羅漢図(ごひゃくらかんず)のすべてをまとめてご覧いただける絶好の機会です。一信は、仏画に秀でた画家で、その作品に千葉・成田山新勝寺(なりたさんしんしょうじ)の釈迦堂天井の龍図や増上寺(ぞうじょうじ)の五百羅漢図などが知られています。
私が狩野一信の存在を知ったのは、赤瀬川原平さんと山下裕二さんの『日本美術応援団:オトナの社会科見学』(中央公論社 2003.6)による。おふたりは、増上寺の「五百羅漢図」を絶賛して「小松崎茂の絵を思い出す」「若冲の『動植綵絵』に通ずる」等々、論じていた。小さな掲載図版を見るだけでも、尋常でない「あやしさ」が、プンプン匂ってくるようだ。しかし、ふだんは全く非公開である(2003年に、数点のみ板橋区立美術館で公開されたらしい)。
何とか、見る方法はないものかと思っていたら、昨年の6月頃だろうか、東博の「年間予定」の先のほうに、”狩野一信「五百羅漢図」”が載っているのを見つけてしまった。こ、これは、すごいことになるぞ!と、ひとりで興奮して、この日を手帳に記して待っていた。
さて、特集陳列が始まって最初の休日、ドキドキしながら会場(本館2階、特別1・特別2室)に入ってみると、思っていたより、作品が小さい。あれっ。『オトナの社会科見学』の図版では、人の背丈くらいの掛け軸だったはずなのに。しかし、図柄は間違いなく、記憶に焼きついていたとおり、狩野一信の「怪しい仏画」である。
解説を読んで、事情が判明。今回の展示品は、増上寺の「五百羅漢図」ではなく、その下絵とされる作品だったのだ。明治天皇の皇女から東博に下賜されたもので、増上寺のものと同じ図柄を1幅に2枚ずつ描いている。なんだー。ちょっとガッカリ。
しかし、気を取り直して眺めると、小さくても「あやしさ」は十分に伝わってくる。第1幅「名相」(表題が付いている)から順番に見ていくと、初めはさほどでもないのだが、徐々に「あやしさ」が増していく。第17~18幅の「六道・人」第19~20幅「六道・天」、東洋絵画に不似合いな遠近法がいいな~。第23幅、25幅の強烈な陰影法も。第26幅からの「神通」「禽獣」は、細部によーく目を凝らすと、あやしくも可笑しい描写が満載である。特に脇役の動物たちの表情が楽しいので、くすくす笑いっぱなしだった。第41幅からの「七難」シリーズは、漆黒の空に浮かぶ羅漢たちと、その足元で繰り広げられる人間たちの受難の図が、ゴヤの黒い絵を思わせる。
増上寺蔵の作品も2枚だけ出ていて、下絵と見比べることができる。図柄はほぼ等しいものの、やっぱり大判は迫力がある。いつの日か、全て大判で見たいものだ!
1時間ほど、うろうろしていたら、だんだん会場に人が入ってきた。『書の至宝』が混んでいるので、入館待ちで整理券を貰った観客が、常設展を見てまわっているようだ。時間つぶしに使われるのはちょっと悔しいが、まあ、たくさんの人に見てもらえるのはいいことである(と思うことにしよう)。
なお、常設展には、日本で描かれた最も古い「羅漢図」(国宝、滋賀の聖衆来迎寺蔵、11世紀)あり。人物を大きく描き、大様に色を塗り分けた、静的で温雅な作品である。また15世紀の「羅漢図」も2枚。こちらは、水墨画ふうの輪郭に色を付けたもの。痩肥の変化のある描線が美しかった。
http://www.tnm.jp/jp/
『書の至宝』で大混雑の東京国立博物館に行ってきた。ただし、私のお目当ては、今週から始まった特集陳列(常設展)である。まずは上記サイトの説明を読まれたし。
――知る人ぞ知る幕末の絵師・狩野一信(かのうかずのぶ)の五百羅漢図(ごひゃくらかんず)のすべてをまとめてご覧いただける絶好の機会です。一信は、仏画に秀でた画家で、その作品に千葉・成田山新勝寺(なりたさんしんしょうじ)の釈迦堂天井の龍図や増上寺(ぞうじょうじ)の五百羅漢図などが知られています。
私が狩野一信の存在を知ったのは、赤瀬川原平さんと山下裕二さんの『日本美術応援団:オトナの社会科見学』(中央公論社 2003.6)による。おふたりは、増上寺の「五百羅漢図」を絶賛して「小松崎茂の絵を思い出す」「若冲の『動植綵絵』に通ずる」等々、論じていた。小さな掲載図版を見るだけでも、尋常でない「あやしさ」が、プンプン匂ってくるようだ。しかし、ふだんは全く非公開である(2003年に、数点のみ板橋区立美術館で公開されたらしい)。
何とか、見る方法はないものかと思っていたら、昨年の6月頃だろうか、東博の「年間予定」の先のほうに、”狩野一信「五百羅漢図」”が載っているのを見つけてしまった。こ、これは、すごいことになるぞ!と、ひとりで興奮して、この日を手帳に記して待っていた。
さて、特集陳列が始まって最初の休日、ドキドキしながら会場(本館2階、特別1・特別2室)に入ってみると、思っていたより、作品が小さい。あれっ。『オトナの社会科見学』の図版では、人の背丈くらいの掛け軸だったはずなのに。しかし、図柄は間違いなく、記憶に焼きついていたとおり、狩野一信の「怪しい仏画」である。
解説を読んで、事情が判明。今回の展示品は、増上寺の「五百羅漢図」ではなく、その下絵とされる作品だったのだ。明治天皇の皇女から東博に下賜されたもので、増上寺のものと同じ図柄を1幅に2枚ずつ描いている。なんだー。ちょっとガッカリ。
しかし、気を取り直して眺めると、小さくても「あやしさ」は十分に伝わってくる。第1幅「名相」(表題が付いている)から順番に見ていくと、初めはさほどでもないのだが、徐々に「あやしさ」が増していく。第17~18幅の「六道・人」第19~20幅「六道・天」、東洋絵画に不似合いな遠近法がいいな~。第23幅、25幅の強烈な陰影法も。第26幅からの「神通」「禽獣」は、細部によーく目を凝らすと、あやしくも可笑しい描写が満載である。特に脇役の動物たちの表情が楽しいので、くすくす笑いっぱなしだった。第41幅からの「七難」シリーズは、漆黒の空に浮かぶ羅漢たちと、その足元で繰り広げられる人間たちの受難の図が、ゴヤの黒い絵を思わせる。
増上寺蔵の作品も2枚だけ出ていて、下絵と見比べることができる。図柄はほぼ等しいものの、やっぱり大判は迫力がある。いつの日か、全て大判で見たいものだ!
1時間ほど、うろうろしていたら、だんだん会場に人が入ってきた。『書の至宝』が混んでいるので、入館待ちで整理券を貰った観客が、常設展を見てまわっているようだ。時間つぶしに使われるのはちょっと悔しいが、まあ、たくさんの人に見てもらえるのはいいことである(と思うことにしよう)。
なお、常設展には、日本で描かれた最も古い「羅漢図」(国宝、滋賀の聖衆来迎寺蔵、11世紀)あり。人物を大きく描き、大様に色を塗り分けた、静的で温雅な作品である。また15世紀の「羅漢図」も2枚。こちらは、水墨画ふうの輪郭に色を付けたもの。痩肥の変化のある描線が美しかった。