草莽隊日記

混濁の世を憂いて一言

「赤とんぼ」の歌で帰るべき日本の風景の幻を見た江藤淳!

2015年12月18日 | 俳句

雪が降らない12月というのはそうたびたびあるわけではない。江藤淳に「『帰る』歌」というエッセイがある。「今年はどうやら暖冬らしく、師走の声を聴いたというのに、ちっともそれらし気分になれない。ポカポカと陽気が好いのは有難いけれども、やっぱり冬は不冬らしく寒いほうが気持ちが引締まるのではないかと、つい贅沢なことを考えてしまい勝ちになる」との書き出しで始まる▼そこでは師走の行事として菊池寛賞の贈呈式が行われ、安田祥子・由紀さおり姉妹が受賞者として「赤とんぼ」が披露されたことが紹介されている。江藤はその歌声を耳にしながら、幼き頃の思い出の風景が目の前をよぎったのだった。「私の眼の前には、もうとうの昔になくなってしまった戸山ケ原の風景が広がった。山ノ手線の線路と中央線の線路に囲まれた広い広い戸山ケ原、その山ノ手線の線路の向こうには三角山という高地があって、そのまた向こうには陸軍の射撃場があった。私の赤とんぼは、あの戸山ケ原を翔んでいたのだ」。そして、いつしかその風景に見入っているうちに「還暦を過ぎた今の私なのか、それともまだ小学校にも上がっていないあの頃の私なのか」と訝り、姉妹のどちらかが歌う「帰ろう、帰ろう」というのを耳にしたのである▼平成6年(1994)のことであっただけに、世紀末を迎えた感慨がこめられていた。あれから20年近くが経過したのに、未だに日本人は自分たちの帰る場所を探しあぐねている。憲法改正もようやく緒に就いたばかりなのである。

 

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