白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

AlphaGo Lee対Zero 第2局

2017年10月26日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
木曜日は棋士の手合日です。
幽玄の間でも多くの対局が中継されました。
その中でも注目は、伊了初段金沢真七段の対局ですね。
伊初段はこれが公式戦デビュー戦です。
新初段の実力のほどを、ぜひお確かめください。

さて、本日はAlphaGo Zeroの紹介です。
三村九段がZeroとMasterの棋譜感想シリーズを始めているので、私はZeroとLeeの対局をご紹介していくことにしましょう。



1図(テーマ図)
Leeの黒番です。
黒△と挟んで、白△を攻めようとした場面です。
まず、この黒△も棋士には気が付きにくいでしょう。
周囲には黒石が多いですし、もう少し近寄って白にプレッシャーをかけたくなります。

さて、ここで白はどうしたものでしょうか?
黒石の多い所なので、私ならまず安全を確保することを考えます。





2図(変化図)
例えばこのような図です。
白5までと簡単に治まることができます。

ただ、前図黒△と挟んだということは、Leeはこれで黒に不満無しとみているのでしょう。
白を攻めることにはこだわっていません。

Zeroも同じ判断だったのでしょうか。 
実戦は意外な行動に出ました。





3図(実戦)
出ました、4線の石に肩ツキ!
Leeの得意技ですが、人間の棋譜を学んでいないZeroも打つのですね。
意味としては、強い黒石にモタれながら白△に援軍を送ったものと考えられます。

もしこの黒△が一路下の3線であれば、肩ツキを考える棋士は少なくないでしょう。
しかし、4線だと黒地が1目ずつ余計に増えてくるので躊躇してしまうのですが、Zeroはそれでも良い手だと判断しているのですね。

意外でしたが、まあ今となってはさほどの驚きはありません。
問題はこの後です。





4図(実戦)
黒1に対して7の所に押さえず、白2以下と変化しました!
押さえないことだけなら、考える棋士もいるでしょう。
しかし、白2からの具体的な打ち回しが、人間の発想と大きくかけ離れています。
「そんな形があるの?」と思ってしまいますね。

結果的には、白は×を犠牲に白△を強化した形です。
次に白Aで隅の黒を取りに行く手も残ったので、白成功でしょうか。

AIが優れた大局観を持っていることはよく知られていますが、こうした部分戦でも既に人間レベルを大きく超えていると思います。
ただ、Masterとどう違うのかはよく分かりません。
結果からすればZeroの方が上なのでしょうが、それを見極める力がありませんから・・・。

AlphaGo Lee対Zero 第1局

2017年10月25日 23時57分03秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
最近また当ブログの閲覧者数が増えてきた気がします。
井山七冠誕生の影響もあるのでしょうが、一番の原因は「AlphaGo Zero」でしょう。
棋譜紹介を書けとプレッシャーをかけられているような気がします・・・。

という訳で、Zeroの棋譜も紹介して行くとしましょう。
しかし、これがまた80局もある訳ですが、どうしたものでしょうか・・・。
とりあえず、今回は李世ドル九段と五番勝負で対戦したバージョン(Leeと呼ぶことにします)との対局です。



1図(実戦)
Leeの黒番です。
黒1のカカリに対して、Zeroはいきなり白2のコスミツケを打ちました。
コスミツケは攻めに使うべき手であり、何もない時に打つのは黒を固める悪手です。
こういう手を広めようとするのはやめて欲しいですね(笑)。

もっとも、人間界でもこのような打ち方が流行った時期がありました。
一定以上のレベルであれば有効に使える手なのかもしれません。





2図(参考図)
黒△と迫った場面です。
白としては相手をする手もあるでしょうが、黒×が弱い石なので、左辺に打つ手も魅力的です。

ということで白1は素直な発想ですが、黒2と詰めてくるでしょう。
白3とでも打てば黒×は動けませんが、小さく捨てられて他に回られては白さっぱりです。





3図(参考図)
ならばと白1とカカり、大きく攻めることも考えられますが、黒2が開きと挟みを兼ねた一石二鳥の好手になります。
黒6の後、果たして白は左辺黒を上手く攻められるでしょうか?
左上白も弱いので、ちょっと大変な感じがします。

ということで、意外と左辺の打ち方が難しい状況なのです。
果たしてZeroはどう打ったでしょうか?





4図(実戦)
ここでも出ました、三々入り!
AlphaGoZeroもいきなりの三々入りが大好きです。
もっとも、人間の棋譜を学んだMasterでさえ打つのですから、人間の影響を受けないZeroが打つのは当然かもしれません。

私は三々入りの碁を沢山見ても、真似したいとは思いません。
しかし、この三々入りに関しては、なるほどと感じました。





5図(実戦)
黒9まで交換して、それから白10と挟みました。
この時、弱点だった黒Aの詰めは壁を小さく囲うような手になり、黒にとって全く魅力的ではなくなっているのです。

相手に壁を作らせることで、戦いやすくする・・・。
矛盾した考え方のようですが、これが絶妙に成立しています。
こんな打ち方もあるのですね。

攻めの方向

2017年10月24日 22時10分27秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日は有楽町囲碁センターにて指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。

最近、指導碁に行くたびに私の本を探してしまいます(笑)。
今回は「布石の原則」が目立つところに飾ってありました!

さて、本日は指導碁に現れた場面を題材にします。
6子局です。



1図(テーマ図)
白△と打った場面です。
この白は弱い石ですが、どうやって攻めますか?
攻めの方向が問われます。





2図(失敗図1)
黒1と切りたくなる方が多いのではないでしょうか。
しかし、白2、4とはみ出され、黒△が弱くなってきましたね。





3図(失敗図2)
そこで、黒1、3と守りましたが、その間に白4とカケられ、中央が止まってしまいました。
黒は白△を取ったものの、地が少し増えただけなので小さい利益です。
右辺黒模様が広がる余地は無くなり、むしろ白Aと打ち込まれたりすると黒△が攻められます。





4図(正解)
攻めと石を取ることは違います。
黒にとって将来性のある地域は右上一帯であり、これを育てるように攻めるのが正しい攻めの方向です。

ということで、黒1が正解です。
黒7まで、白にダメをつながっただけですが、その間に打った黒石は全て模様拡大の役に立っています。
右上一帯が大きくまとまり、立派に攻めの利益が上がりました。


弱い石を攻めることの重要性は、私も著書で強調しているところです。
ただし、攻め方を間違えると自分の石を弱くしたり、自分の模様を台無しにしてしまうことがあります。
攻めの方向には気を付けたいですね。

女流本因坊戦第2局

2017年10月23日 23時48分43秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は女流本因坊戦第2局が行われました。
序盤は落ち着いた展開でしたが、何と言っても力自慢の藤沢女流本因坊謝挑戦者の対局です。
中盤からは大熱戦でしたね。

本局は幽玄の間にて、解説付きで中継されました。
ここでは私の注目した場面をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
藤沢女流本因坊の黒番です。
黒1~白4までを交換しました。
ここは重要な分岐点だったと思います。





2図(実戦)
黒1はお互いの根拠の要点で、真っ先に目に付くところです。
すると白は2でしょうか。
こうなると黒には大きな地ができず、むしろあちこちの薄みが気になります。
各所のしっかりした白地には対抗できそうにありません。





3図(実戦)
そこで、実戦は黒1、3とカケました!
感じの出た手で、これには感心しました。
白AやBと打ってきて戦いになれば、黒△の勢力が役立ちそうです。





4図(実戦)
白△まで進みましたが、全体がつながってきました。
かなり大きな構えができ、黒としては理想的な展開でしょう。
藤沢女流本因坊は地にからいイメージがありますが、中央感覚も明るいところを示しましたね。
この後も見所が続きましたが、最後は藤沢女流本因坊が制しました。
これでシリーズは1勝1敗となって、ますます面白くなってきましたね。

ところで、幽玄の間やKiinEditorの参考図に、線の書き込みができる機能を付けられないものでしょうか?
難易度は分かりませんが、もしできれば解説の幅が広がります。
週刊碁木部二段の連載も好評のようですし、時代に合わせた方法を取り入れて行くことは重要かと思います。

天頂の囲碁7 Zen

2017年10月22日 22時47分55秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
最近は雨ばかりで移動が大変ですね。
ですが、幸いにも火曜日の東京は晴れ予報となっています。
皆様、ぜひ有楽町囲碁センターの指導碁にお越しください!(笑)

ところで、最近は井山七冠誕生、AlphaGoZeroの登場と特大のニュースが次々と生まれていますね。
しかし、いま一つ盛り上がりに欠けるのは、やはり選挙とかぶってしまった影響でしょうか・・・。
もっとも、タイミングが悪かったとは言え、囲碁界に目を向ける人が増えることは間違いありません。
囲碁ファンを増やす貴重な機会を大事にしたいですね。

もちろん政治も大事ですから、私も期日前に投票に行っておきました。
今年は政治の世界でも特大のニュースがありましたが、果たして結果はどう出るでしょうか?


さて、本日は来月発売予定のパソコンソフト、天頂の囲碁7 Zenをご紹介したいと思います。
ちなみに、特設ページには私もコメントを出しています。

今回は検討機能に注目してみましょう。
Zenとの対局棋譜だけでなく、どんな棋譜や局面図でも検討機能を使うことができます。
今回は私が先日打った碁を一手一手入力しながら、Zenがどう評価するか眺めてみました。



1図(実戦)
局面は白〇と打ったところですが、次の黒の候補手が右下にリストアップされています。
環境によってはかなり見づらいと思うので、文字に起こしますと・・・。

候補手 探索回数  評価値
R5  20764 47
Q5  3255  47
P4  1896  47
K4  944   46
L4  398   47

このようになります。
例えば、R5の手に関しては20764回シミュレーションを行って、評価値47になったということが読み取れます。
画像では見づらいので、私が青印を書き加えて位置を示していますが、実際にはここが光って表示されています。
探索回数と評価値からして、これがZen推奨の手ということになりますね。
なお、時間をかければ探索回数は増えて行きますが、その結果推奨の手が変わることはよくあります。

Zenは盤面の配置を画像のように認識して、瞬時に候補手を示します。
私たち人間の棋士は、盤面を見た瞬間に良さそうな場所が勘でいくつか浮かびますが、それと似ていますね。

注目すべきは、Zenが青印の手を本命としている点です。
他の候補手は赤印で示していますが、それらは棋士にとって自然に見える手で、何十年も前から打たれています。
しかし、近年になって若い棋士が青印の手を打ち出しました。
これはほとんどの棋士にとって違和感のある手ですが、後の進行を想定すると独自の価値も認められるので賛否両論でした。
しかし、Zenはこの手を真っ先に示し、多くの探索回数を重ねています。
棋士にとっては違和感があっても、Zenにとってはこれが自然な手に見えているのです。
手自体の善悪の差はほとんど無いと思われるので、これは着手に感情が影響するかどうかの違いと言えるかもしれません。





2図(実戦)
実戦は黒は挟みを選択、白は右下に侵入しました。
次は黒番ですが、棋士にとって自然な手は青印です。
他の手はひどい手ではないにしろ違和感があります。
ここはZenにとっても同じようでした。
R5のツケが評価値では善戦しているものの、探索回数からしてほぼ選ぶ気はないことが分かります。





3図(実戦)
より極端な場面です。
白〇と当てたところですが、黒はどう見ても青印につなぐ一手です。
他の手は14~19と急激に評価値が下がっており、探索回数も極端に少ないですが、これはZenが論外と言っているに等しいです(笑)。

ただ、いくら正解が分かりきっているような状況でも、Zenは他の候補手も出さなければいけません。
特に左上方面の丸印(G13)に注目してください。
戦いと全く関係ない方面であり、しかも変な位置です。
意味が分かりませんね。
数合わせに入れておいたような手であり、Zenの困惑を感じます(笑)。





4図(実戦)
ちょっと見づらい図になってしまいましたが・・・。
白〇と抜いた場面、次の黒の候補手が示されています。
青印に打って白2子を当たりにする手は、石の形として自然です。
この感覚は全ての棋士に共通しているでしょう。

Zenもそれは同じようで、青印の手を本命としています。
他にも評価値のそこそこ高い手があるにも関わらず、探索回数は圧倒的です。
「形からしてここに打つしかないだろう」と言っているかのようです。

しかし、実際に相手が打った手は、候補手に無い緑印の手でした。
死活の関係などもあり、そちらの方がより良いとみたのです。
私もそう打たれると思っていました。

棋士は基本的には形を重視していますが、部分戦だと読みの方を重視する傾向があります。
幽玄の間を見ていても、DeepZenGoが読みを打ち切ってしまう図でも、棋士はその先を読んでいて、そこでポイントを挙げることがしばしばあります。

Zenは棋士以上に石の形にこだわりを持って打っているかのようです。
棋士よりも人間的な面があるようで、面白いですね。





5図(実戦)
右上黒〇と押さえられた場面です。
右上白に手を入れないと死んでしまいますが、私はここで20分ほど悩みました。
構わず左辺を大きく広げる手も魅力的です。
また、今すぐ打つ気はありませんでしたが、右下のコスミも黒からの狙いを封じて大きな手です。
これらが全て候補に挙がっているあたりからも、Zenのレベルの高さが分かります。
Q19という2目損になる生き方が候補に挙がっているのは少し気になりますが、まあ実際には打ちそうもありませんね。

問題は、Zenが青印のノゾキを候補手に挙げていることです。
このノゾキ、確かに石の形であり、有効な手になる可能性は高いでしょう。
しかし、私はぎりぎりまで打ちたくなかったのです。
打ってしまうことでマイナスになる面もあるので、タイミングを計っていました。
実際、この碁はノゾキのタイミングを巡っての駆け引きが勝負所になるのです。

しかし、そんなことも知らず、Zenはことあるごとにこのノゾキを早く打てと催促して来ます。
なんと無神経な!と怒りたくなります(笑)。

Zenは利かしの手を早く打つ傾向があります。
これも形を重視するがゆえでしょうか?

ちなみに、私が打った手は評価値の低い右上白を生きる手でした。
ですが、Zenの評価が低くても選択を後悔することはありません。
今でも私の手の方が勝ちやすいと思っています。

AIに支配されるようでは、棋士の存在意義を問われます。
良き相談相手として活用するのが正しい道でしょう。
皆様もZenを上手く活用してください。