ポジティブ心理学の誕生
こういう連載をしてみたいと思ったもう1つのきっかけは、「今、心理学の研究の大きな流れの潮目が変わりそうになっている」ということがあります。
世紀が変わると何か変えないといけないような雰囲気があちこちで起こるものです。それに乗せられたわけでもないとは思いますが、20世紀末、100余年の歴史がある心理学にも変化の兆しが現れてきました。
それは、「ポジティブ心理学」という領域が形成されようとする変化です。
やや専門的になりますが、少しだけ、そのあたりの事情を少し紹介させてください。
1998年の米国心理学会の機関紙に、時の会長セリグマン(M、E. P. Seligman)が、短い挨拶を掲載しました。
セリグマンは、「心のネガティブな面」の回復を狙う、臨床心理学隆盛の20世紀心理学の潮流が、21世紀になって変わりつつある、もっと言うと変えるべきだとしました。そして、人間のポジティブな面・優れた面に目を向けた、「ポジティブ心理学」を提唱したのです。
ポジティブ心理学の狙いは、「生活、趣味、仕事、対人関係において、人生の幸せを作り出していく技術を開発していくこと」にあります。
皮肉なことにセリグマンは、「無力感は学習の産物であることを実証した動物実験」でつとに名前が知られていただけに、ポジティブ心理学に関するこの提言は、衝撃的あり、心理学界に大きな反響を与えました。
21世紀に入ってからは、ポジティブ心理学に関する論文数は、倍々で増加しています(心理学の全論文数と比較すると、数はまだ少ないですが)。
ポジティブ心理学に関する書籍は、
・「世界でひとつだけの幸せ―ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生 」(アスペクト)
・「オプティミストはなぜ成功するのか」(講談社文庫)
などの翻訳本がすでに出版されています。
日本でも、島井哲志氏が編集した書籍「ポジティブ心理学-21世紀の心理学の可能性」(ナカニシヤ出版)が2006年に出版され、研究が活発化する兆しがあります。