hiyamizu's blog

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千早茜『透明な夜の香り』を読む

2024年05月05日 | 読書2

 

千早茜著『透明な夜の香り』(集英社文庫ち66、2023年4月25日集英社発行)を読む

 

裏表紙にはこうある。

元・書店員の一香は、古い洋館の家事手伝いのアルバイトを始める。そこでは調香師の小川朔が、幼馴染の探偵・新城とともに、客の望む「香り」を作っていた。どんな香りでも作り出せる朔のもとには、風変わりな依頼が次々と届けられる。一香は、人並み外れた嗅覚を持つ朔が、それゆえに深い孤独を抱えていることに気が付き──。香りにまつわる新たな知覚の扉が開く、ドラマティックな長編小説。

 

35歳の若宮一香(いちか)は、兄が自死し、自分は何もできなかったことから心に傷を抱え、書店のバイトに行けなくなった。半年もすると貯金も残り少なくなり、家政婦募集に応募し、調香師小川朔(さく)と、営業担当で探偵の新城、そして菜園を世話する源さんという老人のいる屋敷に通うことになる。

一香の汗の匂いから家に閉じこもっていたことを当ててしまう朔は優しいのだが得体がしれない男だった。

20代後半の美しい藤崎さんは亡くなった夫を忘れないために夫の体臭を調合して欲しいと依頼に来た。彼女が帰ると、朔は「嘘は臭う」と呟く。

 

朔さんはいつだって頼まれた香りを作ることに悩まない。それを本当に手に取るかどうかは依頼人の選択にゆだねる、たとえ、その先に破滅しか見えなくとも。(p236)

 

香りは脳の海馬に直接届いて、永遠に記憶される。けれど、その永遠には誰も気がつかない。そのひきだしとなる香りに再び出会うまでは。(p238)

 

小川洋子の「解説――香りに運ばれ、言葉の届かない場所へ」が素晴らしい。こう始まる。

ページをめくるたび、文字の奥から微かな香りが立ち上ってくる。もともと言葉とは遠いばしょにあるはずの、姿を持たない、香り、と名付けられた空気の揺らめきが、文字を追う視覚よりもずっと繊細に伝わってくる。言葉の意味を越えて、臭覚が際立つという稀有な体験をさせてくれる小説である。

 

 

初出は、「小説すばる」2018年7月号~2019年2月号

2020年4月集英社より単行本で刊行(「朔の香り」を改題)。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

香りという文章化し難いテーマに挑んだこと、朔という底知れない、いや逆に単純すぎるのかもしれない性格を作り出したこと、などなど、著者のオリジナリティには敬意を表したい。

 

森の奥の古めかしい洋館に住み、客の望む香りをいとも簡単に作り出す天才調香師の朔、自己がなく透明であるかに見える一香。まか不思議な雰囲気を作り出していて、物語に引きずり込まれてしまう。

 

風変りな香り作りを朔に依頼に訪れる客の秘密は少々単純に思えた。一話ごとに朔と一香の過去が剝がされていく展開はよくある構成だが、巧みな文章術で色濃い雰囲気を作り上げている。しかも、読みやすい。

 

 

千早茜の略歴と既読本リスト

 

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