hiyamizu's blog

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フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』を読む

2016年05月05日 | 読書2

 

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳『犯罪』(創元推理文庫2015年4月3日東京創元社発行)を読んだ。

 

表紙の次ページにはこうある。

一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。高名な刑事剣専門の弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作。単行本より改訂増補された最新決定版!

 

著者のデビュー作がドイツで45万部を突破し、32か国で翻訳。文学賞3冠獲得し、欧米読書界を驚嘆させた

11の短編。

 

「フェーナー氏」

医師フェーナーは新婚旅行から帰宅したとき、「あたしを捨てないと誓って!」と叫ぶ妻イングリットに、「誓うよ」と告げた。しかし、彼女は無断で彼のレコードを捨て、徐々に小言が増え、数年後には罵声を飛ばすようになった。実直な彼はなるべき一緒にいないようにして、離婚することはなかった。しかし、72歳になったある日、妻の罵声を聞いた瞬間、

「心の奥底で、なにかが固く鋭く光りはじめました。その光のなかで、すべてが驚くほど鮮明に見えたんです。まぶしかった」



「タナタ氏の茶盌」
  乱暴者のサミールとトルコ系の大柄なオズジャンは、銃弾が頭に残っておかしくなっているマノリスと組んで、日本人実業家タナタの家に盗みに入る。現金と高級腕時計と家宝の茶碗を盗み出したが、情報を得た街の顔役トルコ系のポコルにその大半を奪われる。ポコルに命じられた詐欺師ヴァーグナーはタナタ氏に買い戻すように連絡をつけるが、2人とも惨殺される。そして、3人は・・・。

「チェロ」
  建設会社の二代目で資産家のタックラーは独裁的だった。娘のテレーザは細身の美人でチェロの才能があった。弟のレインハルトは事故で重い障害を負った。父を嫌っていた二人は父親から離れ、二人だけで孤立して住むようになる。手術を繰り返しても弟はどんどん重体になり、・・・。

「ハリネズミ」
  レバノン系の犯罪者一家アブ・ファタリスには9人の息子がいた。窃盗事件でワりドが捕まり、裁判に架けられた。馬鹿だと思わせていた末っ子のワリムは天才で、兄を助けるために嘘をついて、法廷を操る。 

「幸運」
  内戦で家族を殺され、レイプされたイリーナはドイツに密入国した。売春の行為中、相手が心臓麻痺で死んで、イリーナは強制送還を恐れ、同棲していたカレ処置を相談しようと外へ出るが、カレと行き違いになり・・・。
 
「サマータイム」
  パレスチナ難民のアッバスは麻薬密売人だったが、ギャンブル中毒で大きな借金を抱え、既に右手の小指を失っていた。同棲相手のシュテファニーは彼を救おうと売春する。著名な実業家ボーハイムは2か月ほど彼女を買ったが、そろそろ潮時と考えていた。ホテルでシュテファニーの死体が発見され、ボーハイムが逮捕される。彼のアリバイは・・・。
 
「正当防衛」
  駅で二人の乱暴者に絡まれ、命の危険にさらされた男は、瞬時に二人を殺してしまった。完全黙秘し、身分証明書はおろか着物のタグまで取り去っているこの男の身元がまったく解らない。この男に刑事は不審を抱くが、正当防衛であることは覆しにくい。

「緑」
  羊を殺し、眼球を繰り抜いた伯爵の息子。近所の少女が行方不明になり……

「棘」
  彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれてしまった博物館警備員。

「愛情」
  パトリックは愛する彼女ニコルの余りにも美しい背中を突然ナイフで切ってしまう。
 (文中にサガワ・イッセイの話が出てくる)

「エチオピアの男」
  ミハルカは酒におぼれ、銀行強盗をしてエチオピアへ逃れた。自殺するため草原を歩き始め、倒れ、地元民に助けられた。この村でコーヒー豆を直接販売に切り替えるなどして寒村を豊かにした。しかし、旧悪がばれて逮捕されたミハルカは・・・

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

普通のミステリーのようにいくつかのトリックがあり、驚きの展開が期待できるわけでもない。
犯罪そのもの、つまり犯罪者とその心、そのものを描いていると思える。

 

文書は簡潔で読みやすいのに、雰囲気を漂わせ、想像を膨らませる。

 

 

 

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ(Ferdinand von Schirach)

1964年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ナチ党全国青少年指導者(ヒットラー・ユーゲント)の全国指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。

1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍。

2011年デビュー作『犯罪』(本書)がドイツ・クライスト賞、2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位受賞。

2010年『罪悪』

2011年初長篇『コリーニ事件』

2013年『禁忌』 

 

酒寄進一(さかより・しんいち)

1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て和光大学教授。

主な訳書に、イーザウ《ネシャン・サーガ》シリーズ、コルドン『ベルリン 1919』『ベルリン 1933』『ベルリン 1945』、ブレヒト『三文オペラ』、フォンシーラッハ『罪悪』『コリーニ事件』『禁忌』ほか多数。

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