散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

デフレ脱却、だが賃金は実質横這い~年金生活者には魔のインフレ

2014年07月06日 | 経済
久し振りに河野龍太郎氏のコラムにぶつかった。簡潔に賃金の行方を考察している。結論的には、「デフレ脱却後も潜在成長率、労働生産性上昇率に変化が現れないため、名目実質賃金上昇率=インフレ率であり、実質賃金は横這いだ」。
一方、年金生活者にとっては実質支給額の目減りであり、今後、医療費、保険料などの公共福祉料金の値上げが予測されるおり、ダブルパンチに違いない。

コメントを入れながら紹介する。現状は以下の様だ。
「日本の潜在成長率は0.3%程度に低下、一方、2013年度の成長率は2.3%とその8倍もの高い成長を達成した。この主要因は、日銀ファイナンスによる追加財政と消費増税前の駆け込み需要であり、潜在成長率の高まりではない。」

「そこで、需給ギャップが一気に改善、日本経済の供給能力が高くないことが明らかになった。建設、運送、小売等の労働集約産業での人手不足を訴える企業が現れ始めたのはこのためだ。日銀の追加財政が続けば、15年半ばあるいはその以前に賃金上昇を伴ったインフレ上昇が始まる。従って、上記の結論になる。」

以下の順に理由を説明、判り易いので所説を更に紹介しよう(カッコ抜き)。
 <実質賃金は2000年代に7%減少>
 <2000年代の実質賃金を悪化させたのは交易条件>
 <グローバリゼーションの影響>

実質賃金(ひとり当たり)の累積変化率は以下。90年代は豊かになれず、2000年代は貧しくなったという実感を裏付ける。
1980年代:+16%
1990年代:+ 0.9%
2000年代:― 7%
90年代以降の実質賃金の低迷理由は以下。一人当たりの実質賃金の変化率は、
1)一人当たりの労働生産性上昇率→最大の要因
2)交易条件の変化率、
3)労働分配率の変化率

労働生産性上昇率の寄与度は年代と共に大幅に低下し、実質賃金が低迷した。
80年代:39.5ポイント
90年代:10.9ポイント、
00年代:10.4ポイント
働きぶりが悪くなったのだ。但し、90年代に比べると00年代の生産性上昇率の寄与度は悪化していない。従って、00年代の実質賃金の悪化は別の要因になる。ここが次に重要だ。

2つ目の要因は、交易条件、00年代の実質賃金悪化の主要因。
実質賃金は00年代にー9.9%と下がった(90年代はー6.7%)。原油などコモディティの価格が大幅に上昇し、その産出国への大幅な所得移転をもたらした。一方、日本の実質賃金を押し下げた。日本の様に、技術進歩の速い加工組立に比較優位を持つ国の交易条件の悪化は致し方ない。更に新興国でブームが続き、一次産品を輸入する日本の交易条件は悪化したのだ。

00年代にデフレで貧しくなったと考え、現在の「量的・質的金融緩和」に?がった。しかし、交易条件の悪化で海外に所得が漏出し、実質賃金が減少したことが主要因であり、金融緩和では対応できない問題だった。

更に交易条件が悪化するリスク要因は以下の二つだ。
中国、シリア、イラク、ウクライナ情勢など、地政学上の問題が頻発している。これら紛争による交易条件の悪化で、実質賃金が低下することだ。また、日本では、デフレ脱却後、金融抑圧政策は不可避であり、それにようマイナスの実質金利で円安が進み、一方、実質輸出は増えず、交易条件の悪化を助長することだ。

3つ目の要因はグローバル化による労働分配率だ。交易条件に次いで、90年代は2.6%、00年代には6.3%、実質賃金を押し下げている。80年代は70年代に労働分配率の上昇の調整だった。即ち、70年代はオイルショックによって、産油国に所得移転が進んだが、実質賃金の高い伸びが維持されたからだ。その調整が、00年代までずれ込んだ。

今後、国内では完全雇用に到達し、労働者側のパワーを多少改善、労働分配率への低下圧力が和らぐだろうが、国外にでは、グローバル化の進展が引続き、労働分配率の低下圧力となる。金融危機後、先進各国で資本分配率の上昇に反発が生まれているが、グローバル化のスピードを減速させる程度だろう。

安倍政権の大企業への賃上げ要請も労働分配率を高める政策ではない。成長戦略では法人税の実効税率引下げ等、企業の資本収益率の上昇を促す施策を主として打ち出しているからだ。

      

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