ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

アフター・ウェディング

2008年01月10日 | 映画レビュー
 スザンネ・ビアはいま、注目すべき監督の一人だろう。「しあわせな孤独」、「ある愛の風景」、ともに素晴らしかった。そしてわたしが見た3作目に当たる本作も面白い。アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ(受賞したのは「善き人のためのソナタ」)、現在ハリウッドでリメイクが進んでいるというのも頷ける。


 若く愛らしい花嫁が語る、両親への感謝の言葉。「18歳のとき、パパは実の親ではなかったとわたしに告げました。ママの結婚前の恋人のことも。けれど、パパはわたしを愛し慈しんでくれた。とても感謝しています。パパ、愛しているわ」。

 結婚式の後、次々と明らかになる真実。家族愛をめぐるビア監督の映画は、ストーリーの面白さに加えて彼女が「社会派」たる眼差しを忘れないことによって深みのある作品になっている。

 さて物語は…。インドで貧しい子どもたちに教育を受けさせる社会事業に携わるデンマーク人ヤコブは、本国の大富豪から寄付の申し出を受けて久しぶりに帰国する。可愛がっているインド人少年には「来週の9歳の誕生日までに戻ってくるよ」と約束して。大富豪ヨルゲンはヤコブに多額の寄付を申し出、上機嫌で「週末は娘の結婚式なんだ、君もぜひ出席を」と誘う。だがその娘アナこそ、ヤコブの実の娘だったのだ。意外な展開に驚くヤコブ。ヤコブの昔の恋人でありアナの母親であるヘレネは「話が出来すぎている」と驚き戸惑い、怒りまで感じる。実はヨルゲンにはある企みがあったのだ…



 この映画に登場する人物は「善人」ばかりだ。大富豪ヨルゲンは血の繋がらない娘アナを愛しつくしているし、実の息子たちを可愛がる子煩悩な父だ。いつまでも若く美しい妻ヘレネとは結婚して20年も経つのに未だに熱々だし、事業は順調で、そのうえ慈善事業にまで莫大な財産を寄付しようとする。妻の昔の恋人が現れても快く受け入れるし、娘や妻と仲良くしてほしそうにする。だが、彼のしていることはヤコブから見れば、金の力で他人を思うように動かそうとするエゴイストに見える。

 いっぽう、理想に燃えるヤコブも善人には違いないが、酒と女とドラッグに溺れた過去を持ち、現実を見極める力には乏しい。もちろん金はない。

 ヘレネが愛した二人の男は外見も生き方もまったく正反対だ。金満家のヨルゲンと理想を追い求めるフーテンの活動家ヤコブ。だがこの二人は同じコインの裏表にすぎない。どちらも自分の思うように世界を動かそうとする「野望」に燃える男性原理の人間なのだ。だが、彼らがただの傲慢な男に終わらないところがこの映画の面白さ。ヨルゲンは妻に弱みを見せるし、ヤコブもまた心優しい男。彼らはどちらも自分の人生がままならないことを知る。知ってもなおじたばたとしつつ、かつそのままならなさを受け入れる。そこが女性監督の視点だと感じる。

 さらに、男二人がインドでの孤児救済事業に先進国の富を注入するという立ち位置のとりかたは見ていて気持ちのいいものではない。彼らは結局のところデンマークから出ることはできないのだ。いかにも余った金で慈善事業をしているという傲慢さはぬぐえない。とはいえ、その金をいくら積んでもできないことだってある。それがヨルゲンを苦しめるのだ。

 先ほど「男性原理」とか「女性監督の視点」と書いたが、人間観察に優れた者は男の目も女の目も持っている。ビア監督はそのような人物の一人だろう。本作は「ある愛の風景」に比べれば話が甘くまとまりすぎていると思うが、それでも十分面白かった。ハリウッドがリメイクしたがるような爽やかなラストだ。


------------------

EFTER BRYLLUPPET
デンマーク/スウェーデン、2006年、上映時間 119分
監督: スザンネ・ビア、製作: シセ・グラム・ヨルゲンセン、製作総指揮: ペーター・オールベック・イェンセン、ペーター・ガルデ、脚本: アナス・トーマス・イェンセン、音楽: ヨハン・セーデルクヴィスト
出演: マッツ・ミケルセン、ロルフ・ラッセゴード、シセ・バベット・クヌッセン、スティーネ・フィッシャー・クリステンセン、クリスチャン・タフドルップ