【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「おくりびと」:福神橋バス停付近の会話

2008-09-13 | ★門33系統(豊海水産埠頭~亀戸駅)

やっぱり、あれよねえ。死ぬときくらい美しい姿で死にたいわよねえ。
なんだよ、いきなり。あと100年はピンピンしていそうな体格して。
でも映画の「おくりびと」とか観るとそう思わない?
わかった、わかった。そのときは、俺があそこに見える花王の石鹸で顔を洗ってやるよ。
いやよ、そんなの。やっぱり本木雅弘君みたいなハンサムな納棺師に丁寧な化粧を施してほしいなあ。
そういうミーハーな観方をしたか。ほんとは人間の生と死に迫ったもっと厳粛な映画なのに。
本木君だって厳粛に演じてたわよ。真剣であればあるほど、そこはかとなく漂うユーモアがまたス・テ・キ。
「おくりびと」って、ひょんなことから故郷の山形で納棺師になった青年の物語なんだけど、そんな職業があるって、お前、知ってたか。遺体に死に化粧を施し、死に装束をまとわせ、棺に納める専門職。
知るわけないじゃない。死んだこと、ないんだから。
いや、そういう問題じゃないだろう。
でも、それだけ最近は人の死が身近じゃなくなっちゃったってことなのかしらね。
それだけにこういう映画を観ると、死ぬことに対して改めて襟を正してみたくなる。
遺体の身体を心をこめて拭き、純白の衣裳を舞うように着せ、敬意をこめて棺に納める。そのおごそかな儀式を眺めているうちに、死者をおくるって本来こういうことなのよねえ、って妙に納得しちゃう。
映画にも出てくるけど、無神経な葬儀屋の場合は、はい、はい、はいと段取りをさっさとこなしてして一丁あがり。あれじゃあ、生きた心地がしない。
というか、死んだ心地がしない。
なるほど、そうだ。そして納棺の儀式をとりおこなう間に、家族たちは肉親が生きてるころに思いをはせ、心の中で別れを告げ、また自らの生を生きていく気力を得ていく。大切な儀式であり、重要な時間だ。
職業柄、本木君はいろいろな遺体と対面するんだけど、それぞれにドラマがあって、遺体を前にした短いシーンで彼ら彼女たちの境遇や家族関係をくっきりと浮かび上がらせる。
人はそれぞれに事情を抱えて生きているってことだな。
ええ。納棺師の会社の社長もそこの事務員も、そして本木君自身もね。
死ぬっていうことは生きてきたことの反映だって、改めて思い知らされる。
そして、脇役の笹野高史がまたいいセリフ吐くのよねえ。
最初はただの銭湯好きのおっさんと見せておいて、途中で正体をバラす。その手口がなんとも心憎い。
でも、やっぱり、一番の見所は本木君よ。彼が見せる納棺の儀式は、うっとりとして官能的でさえあったわ。
ああ、遺体を前に見せるあのしぐさ。手の動き。ひとつの芸術にまでなってた。ずっと眺めていたいほどだ。
しかも、こんな題材を取り上げながら、映画自体はそこかしこにユーモアを醸し出して、決して暗くならない。
なおかつ、品が落ちない。
そうなのよねえ。もう、感嘆。
もし、この映画を気にいらないやつがいたら、俺は言ってやりたいね。
何て?
花王の石鹸で顔洗って出直して来い、って。
なーるほど。牛乳石鹸じゃだめ?
いいけど。



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8 コメント

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良かったですね。 (bobby101)
2008-09-14 00:06:51
 私もそう思います。この映画を気に入らないひとは・・。(笑)
映画としても見ていて違和感もなく、くどさも無くとてもいい。モントリオールで絶賛だったのが良くわかります。私には今年一番の感動作です。
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bobby101さんへ (ジョー)
2008-09-14 09:43:42
まったくこの映画を気に入らない人はおくりびとの手で葬ってほしい!って、そういう怪しげな仕事じゃなかったですね、おくりびとって。むしろ、その逆で、こういう厳粛な仕事があることに驚きました。この仕事、外国人にも新鮮に映ったのでしょうね。
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私も同感です。 (pop)
2008-09-14 14:41:27
本当に感動、感銘した映画でした。

国内の小競り合いでモロ悪口書き込んでいる、多分同業者?であろう人がいるようだけど、そんな”卑しい心”で生きている以上、この映画は伝わらないよ、っと言ってやりたいわ。

評判の良い映画には必ずそういうタイプがお邪魔してくるんですよね。

なんて言っても世界で評判が良かったのは何だか私も嬉しいな。

それにしても、ジョーさんの文章も楽しかった☆☆☆
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popさんへ (ジョー)
2008-09-14 20:39:12
おや。この映画に悪口書き込んでいる人がいるんですか。人はそれぞれ、みんなが絶賛している作品でも自分はおもしろくないってことはままあることなので仕方のないことかもしれませんね。でも、この映画、評判の点では、偉大なるローカルは偉大なるグローバルにつながるっていう見本のような作品だと思いました。
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Unknown (にゃむばなな)
2008-09-15 10:14:52
確かにこの映画に低い評価を下す人がいるならば、石鹸で何度も顔を洗って出直してきてほしいですね。

私はこの映画のいくつかある納棺の儀のシーンのほとんどでなぜか感涙してしまいました。
どうして泣けたのかは自分でもよく分かりませんが、何か凄く温かな気持ちになっていたことだけは確かでした。

とても不思議な魅力のある秀作ですよ、この映画は!
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にゃむばななさんへ (ジョー)
2008-09-15 21:23:04
そうですね、納棺の儀を眺めているうちにこみ上げてくるものがありますね。生きること、死ぬことが凝縮された時間であることがそうさせるのかもしれません。どんな映画の名場面もかなわないような場面でした。
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Unknown (mint)
2008-09-19 11:01:42
こんにちは。
笑いあり、涙ありの心に残るいい映画でしたね。
この映画を見て、生きることも死ぬことも大切なことだと思えました。
本木君や山崎努など出演者もみんな存在感があってよかったです。



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mintさんへ (ジョー)
2008-09-21 10:22:47
本木君もよかったですが、山崎努がいつもながらいい味出してましたね。「うまいんだな、これが」は最高です。生と死と、そして食欲が人間の基本なんでしょうかね。
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