鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1282~笹の墓標

2016-11-28 12:40:34 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、笹の墓標です。

今回ご紹介するのは、森村誠一の推理小説「笹の墓標」。
先日「笹の墓標展示館」についての記事を目にして読むことにしました。
過酷な強制労働を描いた作品を読んだのは、吉村昭の「赤い人」以来。
ただし過酷な労働を強いられているのは、「赤い人」では囚人でしたが、「笹の墓標」では騙されたり強制連行されてきた普通の人々。
その差は実に大きいです。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
第2次大戦中に起こった、北海道のダム工事における強制労働での犠牲者の遺骨発掘作業で、沼公一郎は腐乱死体を発見した。
遺体は、神沼の恋人である葦原奈美の同僚で、上月良彦だった。
奈美は、夢を抱いて東京に行き変死していたが、上月も、故郷・唐津に恋人の中路香織を残して上京していた。
やがて捜査線上に、北海道の政財界の大物が浮上する。
事件の真相に迫るに連れて、強制労働の歴史の因縁が明らかになるとともに、神沼と中路への関わりも深まっていく。
過去の宿怨と現代の殺人事件が時間と空間を超えて交錯する、社会派推理の傑作!
=====

小説の冒頭に、強制連行されたり、騙されたりして連れてこられた朝鮮人2人が登場します。
一緒に脱走しようと約束した仲間が亡くなり、若い朝鮮人は一人、周到な準備の末、見事に脱走を成功させます。
その経緯と並行して、脱走のほとんどは失敗に終わり、激しいリンチが加えられたことが書かれていました。
実にむごい話です。

本書によると、強制労働を強いられていた人々の7~8割が日本人、2~3割が朝鮮人だったそうです。
この事実を知り、韓国や北朝鮮の皆さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。
過去に日本人がこんな酷いことをしたこと、そしてそれを次の世代に詳しく伝えていないこと。
これまでは、皆さんが事あるごとに日本憎しと抗議する様を、戦後何十年も経っているのに・・・と思う気持ちがありました。
でも「そうでもしないと思い出してくれないのが日本人」と考えると、抗議されても仕方がないと考えるようになりました。

著者は高名な推理小説家であるとともに、731部隊を世に知らしめたことで有名な戦争犯罪の告発者でもあります。
今回は戦争犯罪ではありませんが、朝鮮人の強制連行、慰安婦問題などの戦時体制に関わる国家的犯罪行為を告発しています。
著者が731部隊に続き、この手の小説を書いた理由はおおよそ次の通り。
「戦争犯罪等の処理は当事国同士の賠償で終わり、個人が相手国を訴えることは認めない」という判例があるそう。
その理由は「個人が相手国を訴える行為を認めると、再び戦争を巻き起こす引き金になりかねない」からだそうです。
著者はこの辺りに大いに不満を持っているようですが、私は何となく理解できます。
個人が告訴を目指すと冷静さを欠いて国民感情の荒れが増幅し、世論が戦争に向かうことが十分懸念されます。
したがって国民に不満が残っている場合は、たとえ賠償が一度終わっていても再び国が国民に成り代わり交渉すれば良いのです。
当事国同士が多少の密室で冷静に交渉することが、事を荒立てないために重要です。
ただし今の韓国は、慰安婦問題を日韓の政府間協議で決着したのに国民を納得させられずにいますが・・・。

とにかくこういう国家犯罪等があったことを日本人は忘れてはいけません。
イジメでも、イジメられた人は決して忘れないのに、イジメた人は忘れる人が多いと聞きます。
自分が悪いことをしたという記憶は辛いものですが、それを忘れないことが再発を防ぐことにつながるのです。
そういう意味で、本書は大切な一冊。
軽く読めますが重たい一冊です。
ぜひご一読を!

最後に。
「笹の墓標展示館」は、地元の人々、日本全国や韓国からボランティアでかけつける若者たちに支えられてきました。
3mを超える積雪とマイナス30度に迫るという過酷な自然に長年耐え続けてきました。
けれども、永遠に耐えられるはずはなく、いつかは倒壊するでしょう。
これから冬に向かう今は無理にしても、来年の夏、必ず見学しに行こうと決意しました。



コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« お気に入りその1281~舘野鴻② | トップ | お気に入りその1283~凍原 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

鬼平・竹鶴以外のお気に入り」カテゴリの最新記事