鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその883~ファーブル昆虫記⑧

2014-03-31 07:59:24 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ファーブル昆虫記」⑧です。

ついにシリーズ最終巻、第8巻「伝記 虫の詩人の生涯」を読み終えました。

前回も書きましたが、ファーブルの実験や観察にはとても興味がありましたが、彼の生まれ育ちには興味ゼロ。
それでも訳者 奥本大三郎のファーブル・ラブを感じたくて読みました。
結果としては残念ながらファーブル・ラブを実感することができず、貧乏しながら研究を続けたことを再確認しただけでした。

また伝記にはここで紹介できるようなエピソードがなかったことも残念でした。
本当は感動のエピソードがいっぱいあったのではないかと思うのですが・・・。
子ども向けということで抑えたのかな・・・。

本シリーズは「ファーブル昆虫記」を子どもたちにできるだけ分かりやすく、しかもできるだけ正確に伝えたと思います。
またファーブルが虫たちの生態の秘密を実験と観察で次々読み解く様子を子どもたちはワクワクしながら読んだと思います。
その意味においてジュニア向け「ファーブル昆虫記」は大成功でした。
しかし奥本氏が自身の人生を決めるほどに感動した「ファーブル昆虫記」のその感動を子どもたちに伝えきれたでしょうか?
ファーブルが「虫の詩人」という感動的なあだ名で呼ばれたことに子どもたちの理解が及ぶ記述が不足していたと思います。
わざわざ伝記を最終巻にしたのならそこでしっかり伝えて欲しかったです。

私自身、いろいろな図鑑を詩情溢れる記述にこだわって読んでいますが、本シリーズを読んでそういう記述には出会いませんでした。
分かりやすく正確なことは大切ですが、それより感動を伝えることの方がずっと大切だと思います。
それが実現されてこそ子どもたちの中から第2、第3のファーブル、第2、第3の奥本大三郎が誕生することにつながると思います。
シリーズを読み終え、そういう感想を持ちました。
とても厳しい言い方ですが・・・。

さて奥本氏は現在昆虫記の完訳版を書いています。
忠実に書くため、原書の全10巻を各巻上下巻にして、全20冊で完成する予定のようです。
現在第8巻の下巻が発行されたところ。
完訳版なら奥本氏の感動や、ファーブルが虫の詩人と呼ばれたことに共感できるかも・・・。
そういう期待があるので、シリーズが完成したら読んでみたいと思います。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその882~日本蟹類図譜

2014-03-28 07:18:16 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「日本蟹類図説」です。

先日、酒井恒(つね)著「日本蟹類図説」(昭和10年発行)が届き、たくさんの原色細密図版を堪能しました。
本書は日本語と英語の2か国語で書かれた図鑑で、英語のタイトルは、
「CRABS OF JAPAN  66 PLATES IN LIFE COLORS WITH DESCRIPTIONS」
副題部分をつたない英語力で訳すると「生時の色彩の図版66枚、解説付き」といったところでしょうか。

でも実際は口絵にも図版が1枚あるので実際は計67枚です。

さて著者の序文を引用しながら本書の概要を紹介します。

=====

日本産蟹類200余種の生体の描写

我が国の沿岸には600種内外の蟹を産し、それらの生体における色彩は極めて美しいものであるが(中略)色彩の保存はすこぶる困難なことである。

本図説は(生体そのままを表した図説として)最初の出版であることの誇りを有するわけであるが、いかんせん著者等の拙い筆の力ではこの自然の美しさを心ゆくばかり表現し得なかったこと、及び種類全般にわたって生時の色彩で扱うことのできなかったことを遺憾に思う。

本書に載録した種類は日本本土に見出される通俗種に重きをおいたつもりではあるが、極く普通の種類でさえも選に洩れた向きもある

本書の図画及び写真はすべて著者自身で作成し、原図の着色はすべて妻茂子を煩わした。

=====

序文にあるように、本書には当時知られていた約600種の内、一般的な約200種の原色細密図版が載録されています。
その原色細密図版はすべて酒井博士が細密図を描き、奥さんが水彩絵の具で着色して仕上げています。

こうした夫婦の二人三脚は30年後の昭和40年に生物学御研究所から発行した「相模湾産蟹類」も同様だったようです。
生物学御研究所といえば先月ご紹介した「相模湾産後鰓類図譜」と同じ皇居内の研究所。
ということは酒井博士と奥さんは昭和天皇とともに蟹を研究していたということ。
凄い夫婦がいたものです。

今回、日本の蟹の第一人者である酒井博士の図鑑を選ぶにあたり、候補は前出の「日本蟹類図説」「相模湾産蟹類」の2冊でした。
「相模湾産蟹類」は「日本蟹類図説」より一回り大きいB5判で、相模湾に生息しているカニ類364種類、原色細密図版100ページが載録されています。
図版の大きさや枚数で勝っており魅力的でしたが、いくら相模湾の生態系が変化性に富んでいるとはいえ、北海道民として身近な蟹が載っていない可能性を考え、「日本蟹類図説」を選びました。
それなのに北海道でお馴染みの「タラバガニ」や「花咲ガニ」が載っていなくてとても残念でした。
他種の解説に「タラバガニ」の名が出ていましたので、昭和10年当時「タラバガニ」は特殊なカニではなかったようですが・・・。

さて原色細密図版について。
序文に「自然の美しさを心ゆくばかりに表現したい」という博士の思いが書かれており、夫婦で懸命に仕上げた図版を一枚一枚堪能しました。
ネット上で公開されている原画に比べ、いくらか退色している気がしましたが、それでも美しく丁寧な図版でした。
こういう気持ちの入った図版を実際に手に取り鑑賞することができてとても満足しました。
こういう良書との出会いがあると、また次に良い出会いを期待してしまいます。

さて古い図鑑を読んでいてよく出会う記述に本書でも出会いました。
それを最後にご紹介します。
「モクヅガニ」の生息分布が「本邦全土、すなわち北は樺太より南は台湾に至る各地」となっていました。
昭和10年当時は日本の領土にサハリンや台湾が入っていたのですね。
以前読んだ戦後すぐの図鑑では沖縄や小笠原諸島が海外に分類されていました。
国土というものは常に安定しているように思いがちですが、実はいろいろ変遷を経て現在に至っている不安定なものであることを改めて感じました。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその881~黒部の山賊

2014-03-26 07:18:53 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「黒部の山賊」です。

伊藤正一著「定本 黒部の山賊 アルプスの怪」を読みました。
本書はノンフィクション書評サイト「HONZ」で土屋敦氏がシビレるコメントをしていたので購入しました。
土屋氏はこれまで面白い本をたくさん紹介しており、お気に入りの評者です。
その彼の紹介で読んだのは次の4冊。

 「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」
 「アリの巣の生き物図鑑」
 「ゼロからトースターを作ってみた」
 「選択の科学」

どの本も知的好奇心を満足させてくれる素敵な本でした。
またその内3冊は関連図書を別に購入するほどハマリました。

さてさてそんな土屋氏の「黒部の山賊」評のどこにシビレたかを書きたいと思います。

まずは黒部渓谷の天国と地獄が同居する大自然の魅力を紹介しています。
次いで本の売れ行きの紹介です。
本書は1964年に発売され、その後1994年に復刊されたものの入手が難しくなり、今年が2度めの復刊となりました。
現在amazonの「登山・ハイキング」部門の第一位を独走中だそうです。
そして著者である山小屋の主と山賊たちの興味深いエピソードや不思議な話をいくか紹介しています。
最後に「本書を読めば、ほとんどの人が、山に行きたくていてもたってもいられなくなるはず」と締めたかと思いきや、「北アルプスまで行った際、山でオーイ、オーイ、という声が聞こえても、決してオーイと返事をしないように!」という謎のコメントを残します。

???
これは読まずにいられるか!
という訳で早速購入しました。

さて実際に読んだ感想はというと、予想通り面白かったです。
そして予想以上に読みやすかったです。

冒頭、山小屋の主である著者の前職がジェットエンジンの設計技師ということに驚かされます。
そんな理論派の著者が秘境の地で不思議体験をしたり聞いたり・・・。
昭和20年代、30年代の黒部渓谷の面白話が次から次へと出てきて読者を飽きさせません。

タヌキに化かされた話の他、遭難、亡霊、埋蔵金、山ボケ、下界とは桁が違う自然現象などなど。
ネタバレしては面白くありませんので、これ以上詳しく書きません。
「あなたの知らない世界」「トワイライトゾーン」「遠野物語」などが好きな方にはおすすめです。

それにしても不思議な話ってあるものですね。
今年は本書が書かれた1964年(昭和39年)からちょうど50年目。
秘境 黒部渓谷も随分変わったようですが、一度は行ってみたいです。
今年は北陸旅行を計画しておりそのチャンスでしたが、日程の都合で黒部渓谷は断念しました。
もし行ったら、不思議体験ができたかな・・・。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその880~ファーブル昆虫記⑦

2014-03-24 12:20:11 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ファーブル昆虫記」⑦です。

ついに7巻目「アリやハエのはたらき」を読み終わりました。
次はシリーズ最終巻、ファーブルの伝記ですので、「昆虫記」としては今回が読み終わり。

虫の詩人ファーブルが生涯を賭けて観察と実験により解明した虫の謎がたっぷり詰まったこの「昆虫記」。
通して読んだのは今回が初めてなのに、知っている話が多かったことは驚きでした。
きっとその一部が抜粋されたり、他で引用されたりしたのを読んだのだと思います。
それだけ有名な本だということでしょう。
そういえば7巻まで読み終えて気づきましたが、有名なミノムシの実験がこのシリーズには出てきませんでした。
なぜカットしたのかな?
原書は大型本の10巻セットで、その中から奥本大三郎がテーマを選んで掲載したそうですが、本当になぜ?としか言えません。
もしかしたらとてもシンプルな実験だったので、第8巻の伝記の中で紹介するのかな?

とりあえず第7巻の内容に戻ります。
今回は、ハチ、アリ、アブという虫たちの他、ファーブル家の猫も登場しました。
面白かったエピソードをいくつかご紹介します。

冒頭でファーブル家の猫の帰巣本能を紹介した後、ハチやアリの帰巣本能を観察・実験して紹介しています。
ここでもこれまでと同じように次から次へと手を変え品を変え実験と観察でその生態を明らかにしていきます。

面白かったのはツリアブというアブの幼虫の話。
この幼虫は、ハチの幼虫に寄生して皮膚に傷を付けずに中身を吸い取るという神業の持ち主。
すっかり皮だけにされたハチの幼虫に空気を入れて水中に入れ、穴がないことを確認したファーブルもすごい。

また巻末のコーナーのミツバチの交尾の話もなかなか面白かったです。
女王蜂との交尾は、競争を勝ち抜いた十数匹のオス蜂しかできません。
空中での交尾の瞬間、「ポン」という音とともにオス蜂は内臓破裂で即死します。
一方競争に敗れ生き残ったオス蜂たちは巣を追われるそうで、ハチのオスには安泰な老後はないようです。

巻末のコーナーからもうひとつ。
昆虫の種類は無限というお話です。
昆虫の種類だけその昆虫に寄生する寄生バチがいて、さらにその寄生バチに寄生する寄生バチがいるそう。
そのため昆虫の種類は無限と表現する研究者がいるそう。
現実問題として「無限」というのはオーバーですが、研究しても研究しても研究は終わらないというのは確かなようです。

さていよいよ次はシリーズ最終巻 第8巻「伝記 虫の詩人の生涯」です。
昆虫を観察し実験を繰り返すことでその生態を明らかにしていくその過程や結果に興味がありこれまで読んできましたが、ファーブル自身の

生まれ育ちにはそれほど興味がありません。
「昆虫記」の部分が第7巻で終わったのでここで区切りをつけても良いのですが、せっかくここまで付き合ったのです。
最終巻も読むことにしましょう。
はたしてファーブルをこよなく愛する奥本大三郎は、どんな伝記を書いたのでしょうか?
その辺りが読みどころです。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその879~ファーブル昆虫記⑥

2014-03-22 07:51:07 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ファーブル昆虫記」⑥です。

6巻目「ツチハンミョウのミステリー」を読み終わりました。

今回はツチハンミョウ、ゴミムシ、オサムシという虫たちが登場しました。
面白かったエピソードをいくつかご紹介します。

<ツチハンミョウのコーナー>
ツチハンミョウの生態は複雑で、さすがのファーブルも解明に随分手間取りました。
「過変態」という過程と4000個もの卵を産むことが解明を阻んだ理由です。
ツチハンミョウの生態の解明は昆虫学の世界では高く評価されているそうですが、私にはそれほど魅力的に思えませんでした。
ツチハンミョウ自体が身近でない上、魅力的でもないことがその理由だと思います。
ファーブルや奥本大三郎がミステリー解明過程の紹介に力を入れていただけ私も残念でした。
きっと私が根っからの虫屋なら興味深く読んだのでしょうね。

<ゴミムシのコーナー>
虫の「死んだマネ」についての観察と実験です。
身近でありながら深く考えたことがなかったテーマです。
身を守るために死んだマネをするのだろうと簡単に決めてかからないのがファーブルの素晴らしいところだと改めて感心しました。
オオヒョウタンゴミムシは強力なアゴで相手を切り刻むため、天敵が少ないのに、長時間死んだマネをします。
同種のもっと弱い虫たちがそれほど長く「死んだマネ」をしないのになぜ?
明確な解明がなされていなかったのは残念ですが、興味深いエピソードが書かれていましたのでご紹介します。

それはシチメンチョウを気絶させる方法。
頭を翼の中に入れ、体を数分揺さぶると長時間気絶するそうです。
ガチョウ、ニワトリなど他の鳥も同様。
気絶している時間は種によって違います。
こんな遊びを子どもの頃にしていたファーブルだからこそ、虫の「死んだマネ」に疑問を持ったのでしょう。

<オサムシのコ-ナー>
ファーブルはオサムシの共食いを観察しています。
エサが豊富でも共食いするそうで、メスがオスを食べることが判りました。
カマキリやサソリのように産卵のための栄養にするのかと思っていたら、その後どのメスも産卵せずに死んでしまいました。
さてその謎をファーブルはどう解明したのか?
残念ながら80歳を過ぎて体力が落ちたファーブルは、これ以降観察や実験ができず未解明に終わったそうです。
体力が尽きるギリギリまで観察と実験を続けたファーブル。
それだけ続けられて本人も本望だったのではないでしょうか。

さて次は第7巻「アリやハエのはたらき」。
シリーズ最終巻の第8巻は「伝記 虫の詩人の生涯」ですから、「昆虫記」としては次が最終巻。
ファーブルが生涯を賭けた研究成果を心して読みたいと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその878~東京物語

2014-03-19 07:12:06 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「東京物語」です。

小津安二郎監督作品「東京物語」(1953年)を観ました。

以前、映画好きの先輩から「BSで小津作品を連日やっているぞ」と教えてもらいましたが、その時はあまり興味がなく観ませんでした。
確かに当時は「邦画の名作なら黒澤明監督だけ押さえておけば良い」と思っていました。
ましてや次から次へと公開される面白そうな新作に目移りしており、旧作の名作を後回しにしていました。

ところが原田マハ著「キネマの神様」や池波正太郎著「映画を見ると得をする」を読んで考えが変わりました。
映画とは、わずか2時間で他人の人生を経験することができるお得なもの、と池波が語っており、おおいに納得。
しかしそのわずか2時間を確保するのがまた大変なのですが・・・。
それでも新作のハズレを嘆くより、旧作の名作を堪能する方がいかにも確実。
という訳で名作中の名作「東京物語」を観ることにしました。

「東京物語」はあまりに有名ですが、とりあえずその内容や評価についてwikipediaを引用します。
=====
年老いた両親の一世一代の東京旅行を通じて、家族の絆、夫婦と子供、老いと死、人間の一生、それらを冷徹な視線で描いた作品である。
小津映画の集大成とも言える作品で、国際的にも非常に有名な日本映画であり、各国で選定される世界映画ベストテンでも上位に入る常連作品の一つである。
=====

確かに良い作品だとは思いましたが、世界でも高く評価されていたとは知りませんでした。

1953年の映画にして早くも核家族化した社会を冷やかに描いています。
田舎から出てきた老いた両親に向ける杉村春子演じる長女のセリフが冷たく響きます。うまいですね。
何事にも無関心な長男を山村聰がこれまた見事に演じています。
良い事のなかった東京で唯一親切にしてくれたのは戦死した次男の嫁。
この嫁を演じる原節子がただ良い人を演じるのかと思いきや、最後の方で「みんな冷たくなるのよ」「いやだけれどそうなるのよ」というセリフが出てきます。
うーん、深いセリフ・・・。
人物像が一気に厚みを増した瞬間です。
この辺りが高く評価される所以なのだと思います。

この作品では確かにわずか2時間で他人の人生を経験することができたように思います。
先日観た「駅馬車」のときもそうでしたが、名作を観ると実に満足感が広がります。
こういうものを観ると、忙しい日々の中で2時間をかき集める努力  する価値を感じます。

最後に、年老いた父親を演じた笠智衆はこのとき何と49歳!
見事に老け役を演じたものです。
「俺は男だ!」で森田健作の祖父を演じているのを観ましたが、そのときは老人が老人を演じているだけだったので何も感じませんでしたが、「東京物語」を観た人はその好々爺ぶりを懐かしく観たことでしょうね。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその877~通俗蝶類図説

2014-03-17 12:07:15 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「通俗蝶類図説」です。

先日ご紹介した小西正泰著「昆虫の本棚」に掲載されていた本を購入しました。

大正5年(1916年)に小中学生とその教師向けとして発行された「通俗蝶類図説」です。
著者は学習院初等科教授 岡崎常太郎。
昆虫の啓蒙書を多く書いた方だそうで、本書はその処女作だそうです。
B6判、70ページ+12図版ページ、厚さ1cm弱の薄い薄い図鑑です。
届いたのは大正7年発行の第3版。
96年も前の古~い図鑑ですが、とても安かったです。

本書には東京付近の平地で捕ることができる普通種の蝶39種が掲載されています。
蝶の翅(ハネ)の表裏が判る細密図版は、時代を感じさせる多色石版刷です。
何回重ね刷りしたのか、蝶の微妙な色彩が上手に再現されています。(写真参照)

本書の冒頭部では、蝶の科を見分けるポイントを解説していますが、それがあまりに明快だったのでご紹介します。

=====

<蝶類各科の検索表>

 触角紡錘状なり →             セセリチョウ科

 触角棍棒状なり

   前脚退化して爪を欠き歩行に適せず →  タテハチョウ科

   前脚退化せず
     眼の周囲に白輪あり、また
     触角は黒色部と白色部と相交互す → シジミチョウ科

     眼の周囲に白輪なし。
       前脚の爪分岐せず →      アゲハチョウ科

       前脚の爪二分す →       シロチョウ科

=====

どうです? 小中学生向けだけあって実に判りやすいでしょう?
この上、図を使って補足説明までしています。
そしてとどめは原色細密図版。
身近な蝶が解説通りの特徴を有することを形体や色彩など細部まで確認できます。
これなら子どもでも自信を持って蝶の分類ができます。
分類法を知った子どもたちは、すぐに蝶を捕りに行きたくなったでしょうね。

次に同じ科の蝶をどう見分けるかについての記載例を引用します。
例えばアゲハとキアゲハの見分け方について。
翅の臀角部の赤色紋で見分けるのだそうです。

 赤色紋が小さくて中にたいてい黒点を有する → アゲハ

 赤色紋が大きくて黒点を有しない      → キアゲハ

解説図版や巻末の原色細密図版で確認しながら納得。
小学生のときにここまで知っていたら、虫屋の仲間入りをしていたかもしれません。

それにしてもこれまで読んできた図鑑は素人の私には難し過ぎたのですね。
本書くらいのレベルがピッタリだということが今回よく分かりました。
そういう意味で本書は、図版が少ないことを除けば、とても満足できる図鑑でした。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその876~ファーブル昆虫記⑤

2014-03-14 12:27:16 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ファーブル昆虫記」⑤です。

5巻目「オトシブミのゆりかご」を読み終わりました。

今回はハナムグリ、カミキリ、オトシブミ、チョッキリ、ゾウムシ、シデムシという虫たち。
面白かったエピソードをいくつかご紹介します。

<ハナムグリのコーナー>
ゴライアスオオツノハナムグリは体長10cmを超える大きなハナムグリ。
世界で一番重たい昆虫らしいです。
大きな羽音をたてて飛ぶそうで銃で撃ち落とされたことがあるそう。

<カミキリムシのコーナー>
木の樹液に虫たちが群がることは知られています。
蝶やカブトムシ、はてはスズメバチまで。
その樹液はカミキリムシがつけた傷跡から湧き出ているのだそう。
カミキリムシがたくさんいる森は昆虫たちの楽園ということがいえそうです。

カミキリムシの幼虫は木の中を食べ進み、樹皮の手前で蛹になります。
ファーブルは半割りした木を用意し、樹皮から少し遠いところに蛹を入れて実験をしました。
蛹は無事カミキリムシになりましたが、鋭いアゴをもってしても出てくることができなかったそうです。
成虫の鋭いアゴは食べ進むためのアゴではないということがよくわかる実験です。

<オトシブミのコーナー>
小さなオトシブミが葉脈を切ったり夜の湿気を活用したりして葉を柔らかくして上手に巻いていきます。
その後は地面に落とすことで湿気を吸い葉は柔らかさを維持し、幼虫の食料となり続けます。
それでも長い間雨が降らず土地が乾燥した時には葉も乾燥します。
その時幼虫は何十日も成長を止めひたすら雨を待つのだそうです。
自然の摂理にあらためて驚きを覚えました。

<ゾウムシのコーナー>
フランスの貧しい人々を救った貴重なタンパク源インゲンマメ。
当時インゲンマメには害虫が付かないことが知られていました。
それは自然の摂理に反することから、ファーブルはインゲンマメが他の地域から運び込まれたと推定しました。
確かに中南米から持ち込まれた作物でした。
その後インゲンマメにつく害虫が遅れて到着しました。
インゲンマメゾウムシです。
乾いた豆につく害虫で、4~5週で世代交代するため、わずか数匹が入り込んだだけで倉庫の豆に大きな被害が出るそうです。

<シデムシのコーナー>
ファーブルはシデムシに知性があるという先人の研究を覆すために数々の実験をします。
昆虫の知性があるように見える行動は、あらかじめプログラムされたものであり、それから外れた行動はできないことを示しました。

さて次は第6巻「ツチハンミョウのミステリー」。
第1巻スカラベ、第2巻狩りバチから後ろは少しずつ勢いが落ちてきているように感じます。
そうはいっても毎回、意外なエピソードには事欠きません。
次もじっくり楽しもうと思います。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその875~華鳥譜

2014-03-12 07:47:29 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「華鳥譜」です。

国立公文書館の有償頒布図書「華鳥譜(かちょうふ)」が同館のHPでセール販売されています。
平成11年に発行され、四半世紀も在庫していたからでしょうか?
もともと4100円だったのが今は1200円で売り出し中。
とてもお買い得です。

「華鳥譜」は福山藩の藩医で書誌学者の森立之(1807~85)が万延2年(1861)に刊行した鳥類図鑑です。
精密で美しい彩色図を描いたのは、 絵師 服部雪斎。
内閣文庫所蔵本をA4横版の全アート紙にカラーで載録しています。

「華鳥譜」は真鶴から鴉まで食用になる鳥61種類を選び、その味や効能、毒性などが記された鳥類図鑑です。
ツル、カモ、ニワトリからスズメ、カラスまで割と身近な鳥たちが収録されています。
食肉として食べていた鳥もいれば薬としての効能がある鳥まで様々。

例えば冒頭に写真掲載した「カワセミ」の解説文は次の通り。

  味わいは甘さ・塩辛さともおだやかで、毒はない。
  肉は生臭く、とても食べられない。
  くろやき、あるいは煎じ汁にして服用する。

そんなに不味いのなら食べなければ良いし、さらに言えば掲載しなければ良いのに、と思うのは私だけでしょうか?
美しい鳥なので美味しそうに思う人が多かったのか、美味しいという民間伝承でもあったのかもしれません。

なお「華鳥譜」の名前の由来は「華」の字が6つの「十」とひとつの「一」で構成されており、61種の鳥を表しているからだそう。
図解すると次のようになります。
ちょっと強引ですが、そう見えないことはないというところです。

  十 十
   一
  十 十
   十
   十

また「華」の字を分解すると「廿」「卅」「一」「十」になり足すと61になるからという説もあるそうです。
またまた図解すると次のようになります。
先ほどの図解と比べてどちらが正しいかと考えるのは止めておきます。

   廿
   卅
   一
   十


(国立公文書館:千代田区北の丸公園3-2)

冒頭の「カワセミ」をご覧いただいておわかりのように、本書の魅力は鮮やかな彩色を施された細密画です。
絵師 服部雪斎の美しい鳥図を61枚も鑑賞できます。
本来なら絵師 服部雪斎の代表作「目八譜」を手に取り鑑賞したいところですが、「目八譜」は997種の貝類を収録した全15巻にものぼる大図譜。
その全てを収録した書籍を見つけられず(もし見つけても高価で買えず)手元にはありません。
数枚の貝図をあちこちの博物本で散見するのみでした。
という訳で本書「華鳥譜」が服部雪斎の腕前をたっぷり堪能する第1号となりました。

国立公文書館ではなぜ本書だけ蔵書し、有償頒布したのでしょうか?
誰か関係者が寄贈したので折角だから図録を制作しましょうか?なんてことになったのかな?
いずれにしても本書でさえ25年も在庫が残り、売り出しセールを開催しているのですから、他の図譜に手を広げることはないでしょうね。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お気に入りその874~昆虫の本棚

2014-03-10 12:42:36 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「昆虫の本棚」です。

小西正泰著「昆虫の本棚」は1999年の発行。先日古書店から購入しました。
日本で発行された昆虫関係図書から選りすぐりの100冊を紹介した昆虫本ブックガイドです。
本書の魅力は、昆虫愛好家が比較的入手しやすく、理解しやすい図書を取り上げた、というところ。
こういう本が欲しかった!
まさに昆虫版「週刊ブックレビュー」です。

紹介した図書の内容や、著者の経歴、他の著作などが紹介されていますので、とても参考になります。
図鑑のコーナーを読み終わりましたが、残念ながら探し求めている「科学と芸術が見事に合体した博物図譜」は見つかりませんでした。
でもここまでですでに2冊も読みたい本が見つかり、すでにこちらに向けて発送されたところ。
残り3分の1くらいになりましたが昆虫版「週刊ブックレビュー」を堪能します。

本書が届いてすぐに、もくじや索引で、これまで読んできた本が選ばれているかをチェックしました。
選ばれていたのは次の2冊だけでした。
①荒俣宏著「世界大博物図鑑」第1巻蟲類
  メーリアンの図譜を収録した「昆虫の劇場」についての記述もありました。
②北杜夫著「どくとるマンボウ昆虫記」
  先日購入しました。読むのが楽しみです。

また以前当ブログでご紹介した昆虫本の著者で別の著書が選ばれているケースも4冊ありました。
①「森の昆虫記(1)雪虫編」でご紹介した河野広道の「北方昆虫記」
  才能あふれる研究者の惜しまれる生涯についての言及は胸を打ちました。
②「原色昆虫百科図鑑」でご紹介した古川晴男の「日本昆虫記」全六巻
  ファーブルを超える観察と研究だと高く評価していますが、ボリュームがあり過ぎ。
③「原色少年昆虫図鑑」でご紹介した江崎悌三の「江崎悌三著作集」全三巻
  著者名で著作集が出るほどの方だったのですね。
④「昆虫記」「世界昆虫記」でご紹介した今森光彦の「写真昆虫記 スカラベ」
  「昆虫記」「世界昆虫記」ともに高く評価されていました。 

次は他人の著書の中で引用されているだけ、というギリギリのケース。
こういうのは探すとキリがないので、大のお気に入りだけ探しました。
「原色日本蝶類図鑑」の著者 横山光夫が、奥本大三郎著「虫の宇宙誌」のページで紹介されていました。
横山光夫の文章が好きなので他の著書も読みたいのですが、著書が少ないし、ネット検索でもなかなか出てきません。
この方は昆虫学の世界では今も昔も評価が低い方なのでしょうか?
「虫の宇宙誌」では3冊の日本蝶類図鑑の文章を比較しているそうです。
ぜひ読んでみたいと思い取り寄せ中です。

最後に。
奥本大三郎の子ども向け「ファーブル昆虫記」がたくさんある翻訳のひとりとして紹介されていました。
ただ「ファーブル昆虫記」については、最初に翻訳した大杉栄のエピソードが衝撃的すぎました。
彼は第1巻を発行した翌年、無政府主義者として逮捕され殺されています。
続巻は仲間が交代で翻訳したようです。
原題とは違う「昆虫記」という名付けが、後の「シートン動物記」に影響を与えたというエピソードも印象的でした。
また日本で知らぬ者がいないほど有名なファーブルが、フランスでは案外と知られていないというのは意外なエピソード。
貧乏だが努力して立派な仕事をした者を評価する日本と、家柄とか学歴がないと評価しないフランスの違いだそうです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする