元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「彼女がその名を知らない鳥たち」

2017-11-20 06:41:40 | 映画の感想(か行)

 沼田まほかるによる原作は数年前に読んでいるが、この映画化作品は小説版のテイストを崩さずに娯楽映画として仕上げた良作だと思う。奇を衒わず平易なストーリー運びに徹した脚色と、ソツのない演出。そしてキャストの頑張りがとても印象的なシャシンである。

 無職で毎日ブラブラしている北原十和子は、下品で貧相で、金も甲斐性も無い15歳も年上の男・陣治と暮らしている。だが十和子は、8年前に別れた黒崎のことを今でも思い出す。黒崎には手酷い暴力を受けて大怪我をしたにも関わらず、彼のことを忘れられないのだ。

 そんな彼女が次に好きになったのは、デパート従業員の水島である。ハンサムだが、中身は黒崎と同程度のゲス野郎だ。陣治は水島と十和子が逢い引きするところをしつこく尾行する。ある日、彼女は黒崎が数年前から行方不明になっていることを警察から知らされる。やかて水島が仕事上で窮地に陥るに及び、十和子はこれらは裏で陣治が“暗躍”しているのためではないかと疑う。

 とにかく、出てくる連中がどいつもこいつもロクな奴じゃないのが、ある意味で天晴れだ。自堕落なヒロインと小汚い中年男、人間のクズみたいな元カレに、薄っぺらな若い男。誰一人として共感できないが、皆それぞれのダメぶりを人のせいにせず、すべて自ら引き受けているというのが良い。変な表現だが、ダメであることに対して“甘えて”いないのだ。それらダメ人間達が開き直ったように向こう見ずな行動に出るという、一種のスペクタクルに昇華させている。この遣り口は侮れない。

 十和子が黒崎との関係の終焉に関し、あまり明確な記憶を持っていないことが重大なプロットになるが、幾分無理筋かと思われるこの設定がリアリティを持つのは、各キャラクターが(後ろ向きのスタンスで)十分掘り下げられているからだろう。小説版では泣かされた最後の一行も、映像的なケレンを配して上手く映像化されている。

 白石和彌の演出は実に落ち着いている。いたずらにテンポに強弱を効かせることなく、地に足が付いた展開に終始。だから話がウソっぽくならない。十和子に扮する蒼井優は、やっぱり有数のパフォーマーだと思う。かなりの熱演なのだが、それを意識させずにサラリと役になりきっているのが凄い。陣治役の阿部サダヲも好演。原作の鬱陶しいキャラクターを見事に実体化している。さらに、みっともなさに隠された純情を自然に出しているのはサスガだ。

 また、黒崎に扮する竹野内豊と水島役の松坂桃李は、実に楽しそうにサイテー野郎を演じている。灰原隆裕のカメラがとらえた大阪の街の風情も捨てがたいし、音楽担当の大間々昂の仕事も認めて良いだろう。

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