元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「カルテット」

2024-04-14 06:09:55 | 映画の感想(か行)
 (原題:QUARTET )81年イギリス=フランス合作。ジェイムズ・アイヴォリィ監督特有の屈折したデカダンスが、洗練されたタッチで綴られた快作だ。磨き抜かれたエクステリアはもとより、当時の英仏の手練れを集めたキャストの充実ぶりには感服するしかない。なお、どういうわけか日本公開は88年にズレ込んだのだが、その裏事情は不明である。

 1927年、アールデコ時代のパリ。コーラスガールのマリアは夫のステファンと充実した生活を送っていたが、彼が盗品の美術品を所有していたため逮捕される。路頭に迷うことになったい彼女は、芸術家のパトロンである資産家のH・J・ハイドラーとその妻ロイスと知り合い、彼らの家で暮らすようになる。



 ところがこの夫婦はマリアを性生活のアクセントとしか思っておらず、彼女を幽閉同然に引き込んでいるだけだった。やがてステファンは釈放されるが、同時に国外追放処分になる。マリアは再び夫と幕らすために、H・Jのもとを出て行くことを考える。ジーン・リースによる半自伝的な小説の映画化だ。

 マリアの味わう息苦しさが観る者に迫ってくるのだが、彼女が閉じ込められているハイドラーの家は、ジェイムズ・アイヴォリィの映画ではお馴染みの豪奢な美で溢れている。だが、外界に通じる窓は示されずに部屋の中を照らすのは人工的な光だけだ。この退廃的な雰囲気が実に良い。

 ただ他のアイヴォリィの作品と異なるのは、囲われているのが能動的なキャラクターである点だ。しかも、マリアを演じているのがイザベル・アジャーニで、まさに弾け飛んだような個性の持ち主である。ところがここでは、彼女が斯様な存在であるからこそ、この不条理な出口無しの設定がより一層生きてくるという、設定の妙を醸し出している。

 アイヴォリィの演出は冴え渡り、並の作家がやれば底の浅いナンセンス劇になったところを、精緻なエクステリアにより上質な作品に高められている。アジャーニの演技はさすがだ。彼女は本作により第34回カンヌ映画祭で女優賞を獲得している。アラン・ベイツとマギー・スミスのハイドラー夫妻も舌を巻くほどの変態ぶりで(笑)、観ていて飽きることが無い。アンソニー・ヒギンズやヴィルジニー・テヴネといった顔ぶれも万全だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「君たちはどう生きるか」 | トップ | 「12日の殺人」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(か行)」カテゴリの最新記事