元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「罪と悪」

2024-02-24 06:10:26 | 映画の感想(た行)
 上出来の筋書きとはとても言えず、突っ込みどころは少なくないのだが、最後まで飽きずに付き合えた。これはひとえに“真面目に撮っているから”に他ならない。ここで“何だよ、映画は真面目に作られるのが当たり前じゃないか!”といった反論が来るのかもしれないが、残念ながら昨今の日本映画の多くはそうではないのだ。(特定の)観客層に媚び、スポンサーに忖度し、なおかつ世の中をナメたような不真面目なシャシンが罷り通っているのが現状だろう。対して、本作はそういう素振りがあまり見えないだけでも評価に値する。

 福井県北部にある清水町(現在は福井市に編入)に住む中学生の正樹の遺体が橋の下で発見される。どうやら殺されたようで、彼の同級生である春、晃、双子の朔と直哉は、正樹が懇意にしていた町外れの荒ら家に住む老人が犯人だと思い込む。彼らは老人の住居に押しかけて詰問するが、揉み合っているうちに老人を殺してしまう。春は全ての罪を引き受けた上で老人宅に火を放つ。



 22年後、刑事になった晃が父の死をきっかけに町に帰ってくるが、かつての事件と同じように、橋の下で少年の遺体が発見される。捜査を担当する晃は建設会社を経営する春をはじめ幼なじみと再会するが、それは22年前の悪夢を甦らせる切っ掛けになる。

 暗い過去のある晃が警察官になれるとは常識では考えられないし、前科者の汚名を受け入れた春が社会活動じみた仕事をやっているのも無理がある。また、事件の裏側に晃の上司が暗躍しているらしいってのも図式的で面白味が無い。そもそも、22年前の事件自体の成り立ち自体が牽強付会だ。

 しかし、それらの瑕疵を認めた上で画面から目を離せなかったのは、ドラマの背景がリアルでヘヴィだからだ。山に囲まれ、外界から隔絶されたような町の描写は非凡である。土地から離れない住民も多く、地縁と血縁が一般的モラルを駆逐する閉塞感が漂っている。また、かつての少年たちの家庭環境は酷いもので、その捉え方も切迫しており安易にスルーできない。斯様に舞台設定に手を抜いていないことが、作品がライト方面に向かうことを押し留めている。

 オリジナル脚本を手に長編映画デビューを果たした齊藤勇起の仕事ぶりは荒削りだが、及第点には達していると思う。高良健吾に大東駿介、村上淳、しゅはまはるみ、佐藤浩市、椎名桔平といったキャストは手堅いが、朔に扮する石田卓也のパフォーマンスが見劣りするのは残念だ。なお、撮影と音楽は万全である。

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