元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブラインドネス」

2008-12-08 06:59:59 | 映画の感想(は行)

 (原題:BLINDNESS )終盤近くの、荒れ果てた町並みの描写は迫力があった。メジャーな映画会社ではなく独立系の作品でありながら、これほどのスケール感と迫真性を獲得した映像を提示できたとは、さすがに「ナイロビの蜂」などで実績のあるフェルナンド・メイレレス監督の手腕は確かなものだ。しかし、残念ながらこの部分以外には感心できるような箇所はそれほどない。

 ジョゼ・サラマーゴの「白の闇」の映画化。前触れもなく突然に失明する奇病が全世界を席巻。政府は罹患者の隔離を進めるが、次第にカタストロフが避けられないような状況に陥ってゆく。感心しないのは、この病気が引き起こす事態が“語るに落ちる”ような単純極まりない構図しか提示出来ていないことだ。

 先日観た「ICHI」では“目が見えないと善悪の区別が付かない”というメッセージが全編を覆っていたが、本作はそれを拡張したものに過ぎない。つまりは“ああなるほど、目が見えないと社会秩序も道徳も無用のものになるのだなァ”といった図式的な御題目しか提示出来ていないのだ。ひとえにこれは描写力の不足にある。

 ただの御題目をテーマに据えて悪いということはない。それが真に説得力を持った主題として機能するように作劇を工夫すればいいのだが、本作にはそれが欠けている。環境劣悪な“収容所”に押し込められた患者達が嘗める辛酸の数々はシビアだが、それは十分予想されたものであり、意外性は少ない。

 彼らの中でただ一人失明していない者がいる。医師の夫を支えるために自らも感染したふりをして隔離施設に入所する妻が、いわば狂言回しになってストーリーは進むのだが、その“目が見える”という圧倒的なアドバンテージを十分活かす意表を突いたようなエピソードがない。せいぜい土壇場で横暴な奴らをこらしめたり、あるいは“出所後”に食料を見つける際に役に立つ程度。これでは物足りない。

 身も蓋もなく言ってしまえば、アクションなどの娯楽要素を取り入れるか、または完全に突き放したようなタッチで冷徹に“世界の崩壊”を追うのか、どちらかに徹した方が良かった。これではただ観ていて気が滅入るだけの重い映画だ。それではいけないと思ったのか、ラストはいくらか希望を持たせるようにはなっているが、それが取って付けたようにしか見えないのは辛い。そこまでやるならば、この奇病の原因にまで言及するようなモチーフを入れた方がずっと面白かったのではないか。

 ジュリアン・ムーアをはじめマーク・ラファロ、ダニー・グローヴァーと熱演を見せるキャストが目立つのだが、彼らを見ていても“大変だねぇ”といった人ごとの感想しか抱けない。閉口したのは伊勢谷友介と木村佳乃の日本勢で、もとより大根な彼らに浮ついた役柄を振ったこと自体、大いに盛り下がる一因となっている。この配役が採用された理由は、奇病発生の背景よりも謎かもしれない。

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