気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

さよならバグ・チルドレン  山田航 

2012-09-08 16:42:19 | つれづれ
 Ⅰ

ああ檸檬やさしくナイフあてるたび飛沫けり酸ゆき線香花火

知らぬ間に解けてしまつた靴紐がぴちぴち跳ねて夏がはじまる

楽器庫の隅に打ち捨てられてゐるタクトが沈む陽の方を指す

路面電車のシートに浮かぶ幾筋の飴色の線が君を切り取る

青空に浮かぶ無数のビー玉のひとつひとつに地軸あるべし

掌のうへに熟れざる林檎投げ上げてまた掌にもどす木漏れ日のなか

 Ⅱ

靴紐を結ぶべく身を屈めれば全ての場所がスタートライン

カントリーマアムが入室料になる美術部室のぬるめのひざし

張りつめる水平線は彼方から彼方へつながれる糸電話

カフェオレぢやなくてコーヒー牛乳といふんだきみのそのやり方は

水飲み場の蛇口すべてを上向きにしたまま空が濡れるのを待つ

つむじから風は螺旋に身をくだり足にはぼろぼろのコンバース

(山田航 さよならバグ・チルドレン ふらんす堂)

**************************************

山田航の第一歌集『さよならバグ・チルドレン』を読む。
2009年、角川短歌賞と現代短歌評論賞をダブル受賞したのち、満を持しての第一歌集出版。

歌集の最初に「スタートラインに立てない全ての人たちのためにー」とあるように、作者はある種の生きにくさを持っていて、「スタートライン」に立つまでに逡巡があったのが想像される。そして、歌集の最後の略歴には、「2012年スタートラインに立つ。」とある。確たる自信を持って第一歌集を出すのに、三年を費やしている。

歌は、いかにも若い人という感じで、キラキラしている。角川短歌賞受賞作は五十首なのに、三十七首まで厳選されている。どの歌にも具体が読みこまれ、それが意外な方向を向いているところが新鮮。たとえば、楽器庫のタクト、ビー玉の地軸。ほかにもあげればキリがないほど、どれも魅力のある一連だ。


最新の画像もっと見る