気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

汀暮抄 大辻隆弘

2012-02-11 14:19:02 | つれづれ
背の裏に日がまはりきて白樫の樹が凹凸を帯びはじめたり

川のなかに水ひるがへるひとところありとし思(も)ひて橋上を行く

わが影を先だたしめて歩むとき樹々の影よりわが影は濃し

青葱をきざみゐる間に歳と取りわれは土鍋のかたへに眠る

スカートの箱襞ゆれてゐる妻よ草に坐れるとき若やいで

流れきてちひさき段(きだ)を越ゆるとき水は凹(くぼ)みぬかろく音して

夏の河の水のひかりは橋上をよぎれるときに網棚に射す

八月の旅ははるけく窓枠にしづくしてゆく冷凍蜜柑

ひとつかみほどの太さの夕かげが角度を帯びて部屋をつらぬく

祖母はもう冷たくはない仰向けに十一月の雨に濡れても

(大辻隆弘  汀暮抄  砂子屋書房)

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大辻隆弘さんの最新歌集『汀暮抄』を読む。

派手なところはないけれど堅実で信頼できる歌が並ぶ。いまどき貴重なことだと思う。どのうたも読者を裏切らない。
それは作者が事物をしっかり見て、細かく観察して詠っているからだ。ものを見る目は歌人の生命線。自然の木々、川の流れる様子の細かいところをよく見て適切なことばで表現されていて、読者はそういう光景が確かにあると頷かされる。
そして表現するための語彙を豊富に持っているからだ。

歌に取り上げられるアイテムは、青葱だったり冷凍蜜柑だったり、地味ではあるがなつかしさを感じさせる。
スカートの箱襞。最近見かけないタイプのスカートだ。実際に奥様はそういうスカートを履いておられるのだろう。歌壇一の愛妻家と自称されるだけあって、愛のある視線が感じられる。
自然詠の中に、家族のすがたが垣間見え、おばあさまの死も詠われるが、単に悲しむのではなく、死を慰謝と捉えるところが温かい。



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