現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

最上一平「夏の写真」銀のうさぎ所収

2020-06-11 16:33:58 | 作品論
 1985年の日本児童文学者協会新人賞を受賞した短編集「銀のうさぎ」に収録されています。
 農家の人たちが、出かせぎで都会の工事現場で働き、日本の高度経済成長期を支えていたころの話です。
 主人公の小学三年生の男の子の両親も、三才の妹を連れて出かせぎに行っています。
 雪に閉ざされた留守宅を守るのは、じいちゃんとばあちゃんです。
 主人公も五才の弟の面倒をよく見ています。
 正月が近づき、両親(少なくともかあちゃんと妹)が一時帰省してくるのを、主人公と弟は文字通り指折り数えて待っています。
 そこに、主人公あてにかあちゃんから手紙が届きます。
 いつ帰ってくるのかが書かれていると思って、喜び勇んで読み始めた主人公に、手紙は意外な知らせを伝えます。
 仕事の都合で、とうちゃんだけでなく、かあちゃんも帰れなくなったのいうです。
 ショックを受けて家を飛び出した主人公を、ばあちゃんがやさしくむかえてくれます。
 その晩、並んだふとんの中で泣き出した弟を慰めようとして、主人公は一枚の写真を取り出します。
 それは、家族全員(とうちゃん、かあちゃん、じいちゃん、ばあちゃん、主人公、弟、妹の七人)が写った「夏の写真」でした。
 そして、主人公は弟を喜ばせようとして、いろいろな楽しそうなこと(そり遊び、かまくらなど)を語ります。
 ようやく泣き止んで寝入った弟の横で、自分も泣き出しそうになるのをしかりつけながら、今度こそ両親が帰ってくる春までの四か月を指折り数え始めます。
 当時(それよりも少し前かもしれません)の農村の子どもたちの置かれている状況を、作者持ち前の詩情(特に雪やそり遊びのシーン)を込めて鮮やかに描いています。
 かあちゃんからの手紙を読むシーンは、ケストナーの名作「飛ぶ教室」で主人公のマルチン・ターラーが母からの手紙(クリスマスに帰省するためのお金が工面できなかったので、そのまま寄宿舎ですごしてほしいと書いてありました)を読むシーンを彷彿とさせます。
 このような社会性を持った作品を含む無名の新人のデビュー作を短編集で出版できる当時の児童文学の出版状況は、本当に豊かだったんだなあと改めて思わせられます。
 この本を作者にもらったのは、表紙の裏の署名を見ると1984年12月23日だったので、当時一緒に参加していた同人誌の忘年会の席だったでしょう。
 帰りの電車の中でこの短編を読んで、あたりをはばからずに泣きだしてしまった(特に弟が「夏の写真」をぺろぺろなめるシーンでは声をあげて泣いてしまったかもしれません)ことを今でもはっきりと覚えています。
 今回、久しぶりに読んでみても、やっぱり涙を抑えることができませんでした。

銀のうさぎ (新日本少年少女の文学 23)
クリエーター情報なし
新日本出版社
 

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