Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/21(土)小林美樹&小林有沙デュオ・リサイタル/小サロンを満たす濃密な姉妹デュオの音楽空間

2013年12月24日 01時46分18秒 | クラシックコンサート
小林美樹&小林有沙デュオ・リサイタル
シリーズ【明るい姉妹、素敵な夫婦】第13回《兄妹姉妹編》(第479回)


2013年12月21日(土)14:30~ 尾上邸音楽室 3列目/1列目 3,500円
主催: 音楽ネットワーク「えん」
ヴァイオリン: 小林美樹
ピアノ: 小林有沙
【曲目】
ブラームス: F.A.E.ソナタより 第3楽章「スケルツォ」
シューマン: 3つのロマンス 作品94より 第2曲 イ長調
ベートーヴェン: ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第8番ト長調 作品30-3
フランク: ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調
《アンコール》
 クライスラー: ウィーン風小行進曲
 マスネ: タイスの瞑想曲
 クライスラー: 前奏曲とアレグロ
《番外編》
 シューマン/リスト編:「献呈」~シューマンの歌曲集「ミルテの花」第1曲による(ピアノ・ソロ)

 音楽ネットワーク「えん」の主催による「小規模」「非営利」「手作り」のコンサート・シリーズで、ヴァイオリンの小林美樹さんとピアノの小林有沙による姉妹デュオのリサイタルを聴く。今日は中でも最も「小規模」に当たるもので会場は尾上邸音楽室。個人宅に設えられた完全防音の音楽室で、べーゼンドルファーのピアノと演奏スペースを除いて、およそ40名の客席を設けることができる。こちらにお伺いするのは、2011年の7月、やはり「えん」の主催による「東日本大震災被災地支援のためのチャリティー・コンサート」以来である。実はその時以来、「えん」の主宰者の佐伯隆さんと懇意にさせていただくようになり、機会があって参加するときは微力ながらお手伝いをさせていただくようになった。今回は完全にスタッフとして、裏方の作業に加わったりしたおかげで、ゲネプロの一部を聴かせていただいたり、という余得もあった。これは嬉しい。

 さて、小林さん姉妹のデュオを聴くのは初めてのことだが、美樹さんのヴァイオリンは過去に3回ほど聴いているので、別に知り合いでもないのだが、コチラとしてはすっかりお馴染みのひとりだ。ヴァイオリンの分野に詳しい友人のKさんに強く勧められたのがきっかけで、昨年2012年5月にし東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の「ティアラこうとう定期演奏会」でブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を聴いて、そのスケール感の大きな演奏が大いに気に入ってしまった。次いで今年の2月には紀尾井ホールでのリサイタルを聴いた時には、シティ・フィルとのブルッフがライブCDになって発売されていたので購入してサインをいただいている。今年の8月には、読売日本交響楽団の「三大協奏曲」でメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いた。これまでに2枚のCDをリリースしていて、デビューCDにはショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の他、プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第2番が収録されている。こちらのピアノ演奏は有沙さんである。2枚目にはブルッフの他にリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタが抄録されている(ピアノは松本和将さん)。そういうわけで、美樹さんと有沙さんのデュオはCDでは聴いていたものの、ナマは今日が初めてなのであった。


 ギッシリ詰め込んで40名の音楽室は、音響設計はされていても、プロの音楽家のデュオでは圧倒的な音量で、空間に音が満ち溢れてしまう。もとより美樹さんのヴァイオリンは音量が豊かなので、チューニングの音だけでもビックリするくらい大きく響く。今回のプログラムは、すべてヴァイオリンとピアノのための室内楽曲。つまりヴァイオリンとピアノが対等の重みを持つ曲ばかりとなっている。
 1曲目はブラームスの「F.A.E.ソナタ」より「スケルツォ」。いきなりガツンと来る選曲。美樹さんのヴァイオリンは相変わらず、立ち上がりが鋭くアクセントが前にあるクッキリとした演奏で、早めのテンポでリズム感良く突き進んで行く感じ。トリオ部分はぐっと柔らかい音色に変わるが、そこでの抒情性の若々しくフレッシュな印象だ。有沙さんのピアノも遠慮なくグイグイと押してくるので、ノリの良い演奏になった。
 2曲目はシューマンの「3つのロマンス」から第2曲。小品とはいえロマンティックな要素は濃厚な曲だ。美樹さんのヴァイオリンは明瞭で屈託がない。良い意味で若さがいっぱい。伸びやかで、非常によく歌うヴァイオリンである。抑え気味に弾く有沙さんのピアノは澄んだ音色が優しく美しい。
 3曲目はベートーヴェンの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第8番」。やはりベートーヴェンになると、一段と冴え渡る演奏になった。第1楽章は、ピリッと鋭く始まる第1主題から、微妙なニュアンスが込められていて、勢いだけではない奥行き感がある。第2主題の柔らかさとの対比も美しい。経過部の疾走感なども素晴らしく、大きな音量で怒濤のような推進力が感じられた。
 第2楽章は緩徐楽章。ピアノの抒情的な主題を受けてヴァイオリンが主題をなぞっていくと、滑らかで艶やかな表現が美しく流れる。ヴァイオリンとピアノが交互に主題と伴奏を受け持つと、息のぴったり合った姉妹デュオらしく、絶妙のバランス感覚で、お互いを押し出し、同時に支える。ピアノの良さ、ヴァイオリンの特性がそれぞれとてもよく出ていた。
 第3楽章はロンド。軽快なロンド主題はピアノが弾み、転がるような軽快感に対してヴァイオリンが跳ねるような躍動感を加える。アクセントのハッキリとした、明瞭闊達な美樹さんのヴァイオリンがとくに素晴らしい。テンポがグンと上がって、明るいフィニッシュになった。


 休憩を挟んでの後半は、フランクの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」。ヴァイオリン好きの間では名曲中の名曲で通っているし、人気も「超」が付くくらい高い。だからこの曲の演奏については、聴く者も皆、一家言持っている。さて今日の演奏はどうであろうか。
 第1楽章は、非常にゆったりとしたテンポで始まり、独特の浮遊感を伴うヴァイオリンが切なく、夢の中を漂うようにすすり泣く。第2主題に向けてテンポを落としながら徐々に盛り上げてく。ピアノだけの第2主題は転がるような流麗さだ。さりげない感じだが、なかなか劇的な仕上げになっていた。
 第2楽章はとくにピアノのパートが難曲になっていて高度な演奏技術と表現力が要求される。有沙さんのピアノには女性的な繊細さばかりでなく、芯の強い力感があり、ダイナミックレンジも広い。これが演奏を引き締め、奥深い表現力を創り出している。音量の大きな美樹さんのヴァイオリンと絶妙のバランスを保ちながら、決して引かない強い主張があって、スリリングな展開であった。お互いの力量を十分に知っているからできる、遠慮のない丁々発止のやり取りが、高い緊張感を生み出していた。この楽章が終わった時、拍手したくなったくらいだ。
 第3楽章はこのソナタの最大の特徴ともいうべき、つかみ所のない不思議な音楽世界が描かれていく。夢幻的であると同時に抒情的で、感傷的でもある。器楽的な絶対音楽という風でもないし、標題的に何かを表現しているという風でもない(まあ、この曲全体がそんな感じではあるが)。全体の曲想が、抽象的というか、観念的なのである。だから、演奏上も解釈の難しいところだろう。今日のお二人の演奏は、抽象的といった感じではなく、観念的の方のイメージが強く、お二人のというよりは、曲の持つ「情念」を音に変えたような演奏であった。実に質感の高い演奏である。
 第4楽章はカノンが美しい。そしてロンド・ソナタ形式という形式もあり、複雑な構造である。まさにヴァイオリンとピアノが対等な役割を担っている。お二人の息のあった演奏は、対話しているようでもあり、ピタリと寄り添っているようでもあり、姉妹デュオならではのものかもしれない。これが男女の演奏家だとまたひと味ちがってくるものだ。しかし今日の演奏は、アンサンブルも見事でありながら、互いに主張し合い、ぶつかっていくことでより高みを目指すという風に感じられた。再現部からコーダにかけてテンポを上げていき、緊張感の高いカノンのやり取りは見事なものであった。Brave!!
 今日のフランクは、4つの楽章を通して全体の構成も素晴らしいし、緊張感の高い演奏がとても良かったと思う。緊張感といっても、ピリピリしたムードではなく、良い意味でピーンと張りつめた感じ。美樹さんのスケールの大きな演奏と、有沙さんの緻密でキッチリとした演奏が見事な噛み合っていて、かなり素晴らしい演奏だったといって良いだろう。これまで聴いたフランクの中でも、3本の指に入るといったところだ。

 アンコールは3曲も。こちらはすべてピアノ伴奏付きのヴァイオリン曲である。クライスラーの「ウィーン風小行進曲」は軽快に小粋に。マスネの「タイスの瞑想曲」はヴァイオリン・リサイタルのアンコール・ピースとしてもお馴染みすぎるくらい。豊かに、たっぷりと歌わせる美樹さんのヴァイオリンに対して、寄り添うようにピタリと合わせる有沙さんのピアノも優しい響きを持っていた。最後のクライスラーの「序奏とアレグロ」はアンコールにはかなり重い曲だ。この曲はヴァイオリンのヴィルトゥオーソぶりを前面に押し出す、今日唯一の曲。これまでの曲がすべて解釈や表現が重視される曲であり、あえてテクニック面をオモテに出さないような演奏で通していたが、アンコールにはアクロバティックで派手な曲を披露してくれるという、サービスぶりであった。

 「えん」主催の尾上邸でのコンサートの場合は、終演後には演奏家を囲んでの茶話会となる。会場に残った人たちで椅子を片付け、テーブルを出したりして準備する。尾上さんのご厚意で、お料理や飲み物も用意される。茶話会といってもワインくらいは出るので、会場は一転して和気藹々のムードに。知らない人同士であっても、音楽好きの面々は、すぐに打ち解けて隣の人とおしゃべりが始まる。「いやー、素晴らしい演奏でしたねー」「ホントですねー」といった具合だ。茶話会の分も入場料込みということなので、半分くらいの人は残っていたようだ。
 美樹さんと有沙さんを中心に、会話も弾む。写真を撮らせていただいたり、サインをおねだりしたり。この段階ではスタッフ仕事もほぼ終了。パーティを楽しませていただいた。
 通常だと、この後は二次会になだれ込むのだが、今日は小林姉妹は急ぎどこかへ出かける予定があるとかで、18時にはお帰りになるという。その5分前に、佐伯さんが声をかけて、有沙さんに1曲、急遽弾いてもらうことになった。もともとプログラムに予定されていたシューマン/リスト編の「献呈」。今回はあくまでデュオ・リサイタルなのでソロ曲は辞退されたのを、最後に是非、とお願いしたわけだ。これは最後まで残っていた人へのクリスマス・プレゼントになった。震災のあった2011年がリスト生誕200年にあたり、この曲を何度も聴いた。今でもこの曲を聴くとつい泣けてくる。番外編だったが、力みのない素晴らしい演奏であった。

 ヴァイオリン好きの私としては、どうしても美樹さんの方の話題になってしまうのだが、来年5月の日本フィルハーモニー交響楽団の横浜定期演奏会で、コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲を弾くことになっている。コチラはすでにチケット確保済み。他にもいくつか終演予定があるので、できるだけ聴きに行きたいのではあるが・・・・。

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